ツムギノカケラ(4)

「でですね、こうなってくると残るのは山南さんと土方さんの二人です。


役職名的に違いはあれど、どちらの下に彼女を付けても立場的に変わりませんし、

総長、副長の小姓なら文句もつけられないでしょう。


なので土方さんの小姓に決まりで。」



「だから何で俺なんだ。


山南さんと俺の二択に絞れたとこまでは納得してやる。


だがその後だ。


何でそうなる。」



 何故かと問われた沖田は腕を組み、明後日の方向に顔を向けると一言。



「私の好き嫌いです。」



「馬鹿野郎っ。


私情なんか持ち込んでくんじゃねぇよ。


お前の好き嫌いで面倒なこと抱えてたまるか。」



「それも私情じゃないんですか、土方さん。」



「屁理屈ごねてんじゃねぇよ、てめぇは。」



「落ち着いて二人とも。

ここは一応軍議の場なんだから。」



 苦笑した山南が眼鏡を耳にかける。



「実は私も、鈴音さんは土方君の小姓扱いの方が良いと考えているんだが。」



「ほーら、山南さんも私と同じだ。」



 得意げな沖田の顔が土方を逆撫でる。



「あのだね、確かに意見的には沖田君と同じ

だが、別に土方君がどうだからとかそういうことじゃないんだ。」



 土方は得意げな沖田の顔を真似て返すが、青年はいたって涼しい顔である。



「ちょっと二人とも、しつこいよ。


土方君も年長者なんだから、そうカリカリしないで、

沖田君も大人をからかってはいけないよ。」



 二人にとっては兄のような存在の山南に窘められると、流石に大人しく向き直る。



「私が何故そう考えるのかというとだね、結局は土方君が引っ張っていく案件だと

思うんだ、この件は。


総長といっても、私は近藤さんや土方君の相談役程度でしかない。


新選組の内情を大きく動かしてまとめているのは副長である土方君だ。


今回お上から賜った妖物退治の件も、率先して動かしてきたのは君だ。


今更、私が面に出て引っ張っていくのも役者違いだろうし、そもそも私には

何かをうまくまとめあげたりする能力はないよ。

それに長けているのは土方君じゃないか。


だから私は副長という職ではなく、総長という役職をあてがってもらったんだから。


それを考えても、副長と総長の役職を思っても、鈴音さんは君の下につけておく方が良い。その方が、これから先の妖物退治も事が運びやすくなるだろう。」




 まとめる能力がないなんていうのは、嘘だろ山南さん。



 あんたの言葉で皆その空気になってるじゃねぇか。



 傍らの山南を視界の端に映しながら、土方は広間の空気に大げさなため息を溢してみせる。



「分かったよ。

狐に化かされたくらいに皆納得しちまったんだ。


これじゃぁ俺が何を言おうと無駄だな。


あいつは俺の小姓扱いで新選組におく。


ま、小姓兼術者ってとこだな。」



 自分を立てて意見を受け入れた土方に優しい眼差しを向け、山南は発言を控える。



 総長としての役割はここまでであった。副長より前に出過ぎてはいけない。弟分を思いやった兄は、静かにその場を見守る。



 これで良い。これが私には相応しい道なのだ。




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