ツムギノカケラ(3)
「え、な、なぜ……。」
「鈴音さんは信用できそうな気もしますが、それでもまだ出会って数日のことです。
完全に信用しきるにはまだ早いですよ、近藤さん。」
そうなのかもしれない。
沖田の言葉に土方は合点がいくものを持ちながらも、同意しきれない自分がいた。
それは理屈ではなく、彼の直感がそうさせていた。
「いや、だがな……総司。」
近藤も思うことは同じだったのだろう。沖田に対し思うところを述べようと口を
開くが、若い青年はそれよりも先に口を利いた。
「分かりますよ。
近藤さんの言いたいことなら何でも分かります。
だけれど、もし万が一彼女たちがどこかの間者で、そんな彼女を近藤さんの小姓として側に仕えさせたら、当然ながら斬られてしまいますよね。
勿論、私がそんなことは絶対にさせませんし、近藤さんなら返り討ちにできると思いますが、何も火の中に飛び込んでいく必要なんてないでしょう。
近藤さんが自ら危険を犯す必要なんてないんです。」
青年のひたむきな眼差しに近藤は、
そうだな、すまなかったと感謝の気持ちを込めた言葉を返すが、
沖田に力説された後でも、彼に鈴音達を間者と疑う気持ちが生じることはなかった。
ただ、新選組の頭として相応しい行いを取るべき必要があると、わずかながらに
思い出し口を瞑ったのだ。
「沖田さんの言うことの方がもっともな気がしますよね。
僕も同じ考えです。
局長自らが危険を近くに置く必要はないと思います。」
藤堂は沖田に感心しながら、自身の考えを吐露する。
日頃はどうしようもなく巫山戯た様子の沖田であるが、剣戟や近藤のことになるとその素振りを完全に消し去ってしまう。
戯れ言を取り除いた後に残るのは、自身が慕うものに熱い想いを宿すただの青年である。
そんな沖田には敵わない。
剣の腕でも何かを熱く想うことも、自分にはどれも欠けている。だから沖田に辿り着けないのか、それともその才そのものが足りていないのか。
いや、才能などという言葉で片付けていては、いつまでたっても変われないのだ。
だから自分は駄目なのだ。
新選組最年少である藤堂にとって、近くて遠い沖田の背は馴染みやすくもあり、
自己嫌悪を誘発させるものでもあった。
先ほどの意見ですら、沖田の二番煎じな気がして、後悔がふつふつと煮えてくる。
「そうだよね、平助君もそう思うよね。
私と同じだ。」
曇りのない沖田の笑顔に目を向けられなかった藤堂は、視線を斜に下げた。
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