第一章 ヒトダスケ (28)
「……。
額が気にいらねぇのか。
……もう少しくらいなら、俺たちの給金から出すこともできる。
だが、こっちもそう多くある訳じゃねぇから、満足な額になるかは分からねぇぞ。」
「いや、そんなんじゃねぇよ。
額とかじゃなくて、何もいらねぇよ。」
奇妙なことを言う。
土方は、これまでの術者なる者達のことを思い出す。新選組が死に物狂いでかき集めてきた
自称術者達は皆、依頼の前から報酬の話ばかりを
するような連中しかいなかった。
納得のいくような結果を出せる訳でもないくせに、馬鹿高い報酬を迫られ、払ったとしても結果が伴わない。
そのうえ、いい加減な呪文らしきものを軽く唱えては、さらにそこから金をふっかけようとする者もいた。
特別なことがほんのわずかばかりできるからかしらねぇが図に乗りやがって、と腹の底で苛立っていた土方は、術者とはそんなものだと踏んでいた。
それがここにきて、見事な結果を披露したばかりでなく、金をも求めようとしない術者に出会い、
土方は戸惑いを覚える。
他に裏でもあるのかと、真偽を測るために切れ
長の瞳を見守るが、その瞳は不信な揺れを見せることはない。色白の顔に取り付けられた眼は、
どこまでも澄んだ煌めきを抱えるように、
ただ静かに鎮座していた。
土方が何の返事もしてこないことに、
きまりが悪くなった鈴音は、自分から言葉を投げかける。
「そんな物があったからって、あたいには何の役にも立たない。
必要ねぇんだ。もし、あったとしても樹が用意してくれる。
だから、金はいらない。
お前たちの好きに、それは使えば良い。
そもそも、依頼されたことを成し遂げようと働いたのはお前達だろ。
この結果は、お前たちの努力によるものなんだから、その褒美は自分達で使うべきだ。」
押し戻された和紙の包みが、月明かりのせいか、白がよく映えているように見えた。
あの日言いそびれた言葉が、土方の喉元へ蘇ってくる。
「悪かった。」
二人の視線が自然に交じり合う。
「言い訳はしねぇ。
気付いているだろうが、俺はお前たちを疑っていた。
どうせ今までの連中と同じなんだろうと、そう思っていた。
だからお前たちに協力を仰ごうなんざ、毛の先ほども考えちゃいなかったが、その結果がこれだ。
お前には悪いと思っている。
思っちゃいるが、後悔はしてねぇ。
今回のことで腹に虫を据えているかもしれねぇが、このままここに残って、新選組に手を貸して欲しい。」
土方の背が腰元から前に倒されていく。
月代のない総髪に結われた髪が、滑るように肩から前に流れ落ちる。
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