第12話決戦日Ⅱ

目が覚めたのは昼だった。いけない!せっかく今日約束したのにこんな時間になってしまった。

確かに正確な時間は決められてはいなかったものの流石に昼はまずい。俺はあわてて美奈子に電話した。

着信音は鳴っているが全然出る気配がない。もしかして怒ってる…?

そんなことになったら今日の予定どころか昨日までの努力が全部水の泡となってしまう。お願いだから出て!と思った時電話が繋がった。

「………もしもし…」

明らかに寝起きな声だった。よかった怒っていたわけではなさそうだ。むしろ美奈子もこの時間まで眠っていたようだ。

「ごめん起こしちゃったかな?」

電話ごしに伸びをしているのが分かった。

「ん…?え!もうこんな時間?私こんな時間まで寝ちゃってたの?まじごめん。ていうかもっと前から電話くれてたりした?電話待ってた?本当ごめん。」

まるでマシンガンのようにしゃべりだしてこちらに話させる間も与えないようだった。

「大丈夫だからおちついて。俺も今起きて慌てて電話したとこだから。」

「…そうだったんだ。ごめん今ちょっと取り乱しちゃったね。」

こういう美奈子を見るのも新鮮だった。

とりあえずお互い今起きたばかりなのでお互いいろいろ準備してから待ち合わせることとなった。


どこへ行くかも考えずに電話を掛けてしまったため咄嗟に動物園へ行こうと提案したのでそこの入場ゲート近くで待っていた。

 昨日のはいろいろ準備してきたからうまくできたけどこんなノープランで彼女を満足させることが出来るのだろうか。

満足するかしないかはどうでも良い。ちゃんと思い出に残るように努力しよう。そう思っていると彼女が現れた。

「ごめんお待たせ。」

「それじゃ行こうか。」

二人分のチケットを購入しゲートをくぐった。

「動物園なんて何年ぶりかな。ほんと久しぶりに来たよ。」

「俺もだよ。こうやって二人で来たら本当にデートしてるって感じだね。」

「周りから見たらカップルだもんね。」

俺はその言葉でドキッとした。

「あれ見て。おさるさんいるよ。」

美奈子は指をさしながら言った。

「猿ってこんなに小さかったっけ?可愛いね。」

「うん。そういえばこの動物園先月だかにパンダの赤ちゃんが生まれたんだって。その赤ちゃんって今日見れるのかな?」

「どうなんだろうね。回っているうちにわかると思うよ。」

「そうだね。あっちにアルパカさんがいるよ。モフモフしてて可愛い。」


やはり動物園なだけあって色んな動物たちがいる。もう半分以上は回った頃だと思う。休憩スペースがあって俺はトイレがしたかったので一回断りを告げトイレに向かった。

 用を済ませてから彼女のもとへと戻ったが姿が見当たらない。辺りを見回すと自販機売り場に居たのでそちらに歩いて行った。

「どこに行っちゃったかと心配だったよ。」

「ごめんごめん。ちょっと喉乾いちゃったからさ。はいこれ土岐人の分。」

美奈子からペットボトルのお茶を手渡された。

「サンキュー。」

俺はペットボトルを開けて一口飲んだ。

「あっちにパンダがいるんだって、見にいこ。」

そう言ってパンダの方へと歩いて行ったが、やはり赤ちゃんを産んでから調整に時間がかかるためパンダの親子は見れないようになっていた。

「残念だったね。でも夏とかになったらきっと見れると思うよ。」

「そうだね、それまで我慢する。」

それから一周を終えて気に入った動物のとこだけもう一度見に行って動物園から出ることにした。

 出るのは良いんだがこの後どうしたものか。なにせノープランだから動物を見ている時にでも考えておけばよかった。少しばかり動物たちに夢中になりすぎた。

「美奈子この後からどこか行きたい場所とかある?」

「んー、いて言えばどこかでゆっくりしたいかな。」

「それじゃ喫茶店でも行こうか。」

「それいいね。」

というわけで俺らは動物園からでて街中に戻り喫茶店へと向かった。


晩飯には少し早かったがここで晩飯もついでに食べていくことにした。

とりあえず飲み物だけ先に注文してお腹がすいたらご飯を注文することにした。

「なんだか今日久しぶりにデートしたって思えたよ。誘ってくれてありがとね。」

「俺もだよ。しばらく彼女とかもいなかったからデートプランがうまくまとまんなかったけどね。」

笑いながら言った。

「それでも私は楽しかったよ。」

笑顔で彼女も応えた。俺は注文したブラックを一口飲んだ。そのまましばらく他愛もない話をしているうちに腹も減ってきたので俺はカツカレー、美奈子はホットサンドを注文した。

こういう喫茶店のカレーは意外とうまい。俺はペロリと食べ終え、美奈子も食べ終えたとこだった。最後に飲み物を一杯ずつ飲んで店を出た。

 外はもうすっかり夜になっていた。

「明日からまた仕事だから帰らなくちゃ。」

そう美奈子が言ったのでまだ名残惜しいが送っていくことにした。この場所からだと彼女の家までは歩いて行ける距離なので少しでも長く一緒にいたい俺は散歩がてらに歩いていくことを提案し合意してくれた。


「昨日もご馳走してもらったのに今日までご馳走してもらっちゃったね。」

「いいよ、全然気にしないで。」

こうやって一緒に帰っているとやはりどことなくさみしい想いになってくる。俺は美奈子が好きだということを改めて実感する。

「本当にありがとね。また今度なにかお礼しなくちゃね。」

「俺が誘ったんだから気にしないで良いよ。」

もうすぐで美奈子の家についてしまう。明日から仕事がある彼女にこれ以上遅く帰らせるのは気が引けたが途中で公園があったのでそこで軽く話してから帰ることにした。

「明日も仕事がお休みだったらよかったのにね。」

そう言って美奈子はブランコに腰かけた。俺もその隣のブランコに腰かける。

「そうだね、でもまた美奈子の時間が会う時に一緒にごはんでも食べに行こうよ。」

「うん。そうだね。」

そういってから沈黙が続いた。俺もいろいろ考えがまとまらない。早く帰らせないといけないし、でもまだ帰らせたくない葛藤かっとうが続いていた。

「もうそろそろ帰ろうか。ここから私の家は目の前だから今日はここで解散にしよ。」

ちょっと低いトーンで言う美奈子。

「ちょっと待って!」

俺は立ち上がる。

「ちょっとだけ待って!俺、君に伝えたいことがある。」

「…私もあなたに伝えなきゃいけないことがある。」

そう言って立ち上がった彼女の表情は穏やかだった。

ん?俺に伝えること?

「なにから伝えれば良いのかわかんないけど、俺は…美奈子と出会ってからすごく楽しい毎日を過ごしてきた。きっとこれからも俺は君を想って楽しい毎日を過ごしていけると思う。気が付いた時にはもう君は俺にとってかけがえのない存在になっていた。だから…俺は美奈子のことが好きだ。このまま友達で終わりたくないんだ。どうか…俺と付き合ってほしい。」

やっと言えた…俺の気持ち。俺の正直な気持ちを。

彼女はゆっくり目をつむってこう言った。

「私は盗撮被害から私を守ってくれた時からあなたの事が気になっていました。こんな見ず知らずの私を守ってくれた。お礼にとご飯を食べに行った時もすごく優しくしてくれた。君の後押しのおかげで面白い本にも出会えた。短い間しかまだ付き合っていないけれど私は十分すぎるほどあなたの優しさに気付くことが出来ました。だから私もこれからあなたと一緒に歩んでいきたいです。こんな私で良かったら宜しくお願いします。」

彼女は涙を流しながら言ってくれた。思わず俺も涙目になった。

「一生大事にするよ。」

俺は美奈子を抱き寄せキスをした。

「そういえば伝えなきゃいけない事って?」

「…。」

そっぽむく美奈子。

「言うのが遅い!もっと早く言ってよね。」

そう言って膨れる彼女は俺にとって世界一可愛い彼女になった。

そのあともお互いタガが取れたかのように過去のどういうとこで好きになっただの、あそこで胸キュンしただの笑い合った。最後にまた一度キスをして家まで手をつないで送って行った。

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