第11話決戦日Ⅰ

ついに来た。待ちに待った土曜日である。この日をどれだけ待ちわびたことか。

 俺は朝起きて顔を洗い、今日の為のお金を稼ぎに行くことにした。逆に言えば何かをしていないと落ち着かない。

 俺は着替えてパチンコ屋へと向かった。

俺はおもむろに出そうな台に座りお金を入れた。ある程度打っても出なかったら別のルートに行き、出たら出続けるまで打ちつくすを繰り返す。これがいつものパターン。正直パチンコは音がうるさいし目が痛くなるのであまり好まないが仕方ない。

 なんだかんだで昼過ぎまで繰り返し換金した。今日はプラス十二万円。今日の費用には十分すぎるほどの金額だ。いつもならもっと少額なのだが神様も今日の俺を応援しているのか倍近くの利益を生むことが出来た。

腹も減ってきたので帰りに飯を食ってから帰ることにした。


家で時間までそわそわしたが気が付けば着替えて向かえば良い時間だった。

この間買った服にズボン、選んでもらった靴を履き店へ向かうことにした。


店に着き店員に席を案内してもらいテーブルに着いた。時間まではもう少し時間がある。俺は携帯を開き暇つぶしをした。携帯に映し出される時間ばかり気にして、ただ無駄にネットサーフィンしていた。

聞きなれた声が遠くから聞こえる。彼女が店に着いたようだ。

「お待たせ。ちょっと時間過ぎちゃってごめんね。」

手を合わせながら言う美奈子ちゃん。

「全然だよ。俺もさっき来たとこだし。」

笑顔で応える俺。

「登坂さんこんなお洒落なお店知ってたんだね。感激しちゃったよ。」

まだ外は寒いせいか頬が真っ赤になりながら笑顔で言う美奈子さんはすごく可愛かった。

「俺も何回かしか来たことないんだけど。一回入って気に入っちゃってさ。しかもこのお店ハンバーグがすげぇおいしいんだ。だから榊さんを誘ってみたんだ。」

「へぇ、そうなんだぁ。私この店の前は通ることあるんだけどレストランだとは思わなかった。」

「外見はわかりにくいんだよね。でも中に入ったらこの雰囲気。完全に惚れたね。」

「こんなランタンの火だけでライアップされたら幻想的だね。私も惚れちゃった。」

「さっそくメニューでも選ぼうか。」

そう言って俺は美奈子さんにメニュー表を手渡した。

「レストランなだけにハンバーグ以外にもいろいろあるね。でも私は今日ハンバーグを食べに来たので、ハンバーグにします。」

美奈子さんはメニューのハンバーグのページとにらめっこをした。

「私決めた。この黒トリュフのハンバーグにする。」

この間俺が食べたやつと同じだった。

「ほかに飲み物はどうする?」

「んーとね、ワインにしようかな。」

俺はすぐに店員を呼び注文をした。黒トリュフのチーズハンバーグが二つ、ワインはあまりわからないのでちょっと値段が高いロゼを頼んだ。

「そういえばこの間と雰囲気違うよね。」

さっそく突っ込まれた。

「久しぶりにお洒落というやつで着てみた。変かな?」

「全然!むしろ私はこっちの方が好きだよ。」

俺は軽く照れ臭くなった。今の俺には好きとかと言う言葉に敏感になっている。なんとかばれないようにはしてるつもりだが大丈夫だろうか。

「本当?ありがとう。」

「失礼します。お飲物お持ちしました。」

そう言って店員がワインクーラーに入ったボトルとワイングラス二つを持ってきた。店員が手慣れた手つきでコルクを抜き「ごゆっくり。」と言って立ち去った。

俺が二つのグラスにワインを注ぎ彼女に渡す。

「それじゃぁ飲もうか。乾杯。」

「乾杯。」

二人とも笑顔でグラスを鳴らし一口飲んだ。

「おいしいね。この雰囲気でワイン飲むなんてほんとロマンチックだね。」

「なんか映画のワンシーンみたいだよね。」

そう話しているとすぐに注文した料理が届いた。

「あったかいうち食べようか。」

と言って二人ともハンバーグを口にした。

「こんなハンバーグ食べたことない!めちゃくちゃ美味しい!」

彼女は目を輝かせながら言った。

「だろ?冗談抜きで美味しいよね。」

「今日はこんなに美味しいワインに美味しい料理食べれて本当に幸せだよ。」

笑顔で目が一本線みたいだ。俺からしてみれば彼女の笑顔は天使そのものだ。

二人とも注文した料理をゆっくりと味わった。


「ご馳走様でした。」

彼女は手を合わせながらそう言った。

「満足してもらえた?」

「うん!とっても美味しかった。私も自分でこういうハンバーグ作れるようになりたいな。」

「料理とか好き?」

「好きだよ。どっちみち一人暮らしだからやらないといけないんだけどね。」

「そうなんだ。なら今度何か作ってもらおうかな。」

「今日このお店紹介してもらったお礼になんでも作ってあげる。」

「本当?なら今度考えてお願いするよ。とりあえず二件目予約してるんだけど時間ある?」

「うん。大丈夫だよ。私明日休みもらったから時間は気にしないで。」

このお店の会計を済ませ予約していた、この間州夜と行った居酒屋へ行くことにした。


居酒屋では俺は焼酎で美奈子さんはカクテルを飲んでいた。

「やっぱ、あの女の子の憧れた出会いかたって現実ではなかなか無いよね。」

俺らは「街角で」について盛り上がっていた。

「本当だよな。逆に本当にあったらヤラセかドッキリだよな。あはははははっ。」

俺も美奈子さんもずっと笑いながら話していた。酒が入ってるせいでなんでも楽しかった。

二人ともこのお店に来てから一時間は経つがかなりハイペースで飲んでいた。

「榊さんもこういう恋って憧れたりするの?」

俺がそう言った途端美奈子さんがさみしげな表情を浮かべた。

「あのさ…」

唾を飲む俺。

「お互い苗字で呼ぶのやめよ!」

「えっ…うん、いいけど。下の名前で呼んでいいの?」

「この間私の職場で一度だけ下の名前で呼んでくれたでしょ?」

「あれは咄嗟に出てしまっただけなんだよね。」

責められてもいないのに何故か否定するように答える俺。

「あの時私すごく嬉しかったんだ。今までそういう風に呼ばれていなかったから。だからまそうやって呼んでもらいたいの。」

うるうるした瞳でこっちを見ている。

「わかった。今度からは美奈子さんって呼ぶよ。」

笑顔で言った。

「うん!」

彼女はさっきと打って変わって元気を取り戻した。そして…

「もう一つお願いがあるの。」

「ん?なんだい?」

顔を合わせる。

「さん付けも辞めよ?」

そう言った彼女の笑顔は眩しすぎて直視することが出来なかった。

「うん…み、なこ。」

恥ずかしい!こんな場面で噛んでしまった!もう死にたい!

「ありがと。土岐人。」

さらに笑顔になった彼女の笑顔は今でも忘れない。

 今日がこんな一日になるなんて想像もしていなかった。初めは呼び捨てで名前を呼ぶのが恥ずかしかったが徐々に普通に言えるようになった。また一歩距離が近づいた気がした。

あれからもいいだけ飲んで語っていたら気が付いたらもう閉店の時間になっていた。

「今日はもう帰ろうか。」

美奈子が言った。

「そうだね。今日はすごく楽しかった。ありがとね。」

俺らは店を後にした。この店は国道沿いなのでタクシーはすぐに見つかる。店を出たらすぐにタクシーが横ぎったのですぐに呼び戻し、二人でそのタクシーに乗り込んだ。

「今日は何から何までご馳走様。やっぱ土岐人は優しいね。」

そんなこと言われたら照れ臭くなる。

「なんもだよ。この間のお礼。」

そのあとも笑い話をしていると彼女の家に着いた。

「それじゃぁまた今度ね。」

彼女がタクシーから降りた時、暗かったから気のせいかもしれないがさみしそうな顔だった。だから、俺は思わず言った。

「明日も時間ある?」

彼女はただ頷いただけだった。

「それなら俺とデートしてくれないかな。一緒に…美奈子と一緒にいたいんだ。だから…」

「いいよ。私明日暇だったから。なら明日起きたら連絡して?待ってるから。」

美奈子が笑顔になった。

「わかった。明日連絡する。おやすみ。」

「おやすみ。」

お互い手を振って別れた。

思わず考えもなしに言ってしまったが、あの顔を見たら何も言えずにはいられなかった。

 そのままタクシーに住所を伝え家に帰った。

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