第7話背格好
次の日、美奈子さんからメッセージが入っていた。
「登坂さんに勧められて本当に良かったです。とても面白くてもう半分も読んじゃいました。」と書いてある。
一日で半分も読むなんて俺には無理な話だった。逆にそんなに速く読んでも、もったいない気がする。
「そんなにあわてて読まなくても本は逃げませんよ。」と返事した。
俺も早く読まないと追い越されそうだな。
俺は本を閉じた。ようやく最後まで読み切った。読み切ったといっても最後のクライマックスの部分しかなかったのでそんな量ではなかったが、スローペースの俺にしては頑張った方だ。美奈子さんにメッセージを送った。。
「俺も今読み終えたよ。やっぱ買って正解だったわ。」
あえて内容は言わないようにした。やはり一緒に語り合いたいから。
少し時間が空いて携帯が鳴った。
「私も今読み終わりました。登坂さんって読むの速いんだね。早く内容言いたいね。」
俺の気持ちを察してくれたのか、そう書いてあった。ところで一つ大きな誤解を生ませてしまったがそれは仕方ないことだろう。
早く美奈子さんに会って一緒に語り合いたいな。そう思っている俺は完全に美奈子さんに恋していた。久しぶりに感じるこの感覚。たまらない。俺は次いつ会えるだろうと楽しみにしていた。前回あった時はお洒落というお洒落はしていなかったし、そもそもそんなかっこよくもない。俺は基本的に平均な人間で見た目だって自分でいうのもあれだが悪くわないと思っている。しかし良くもないというのが事実だ。身長も一七五センチとほぼ平均的だ。
そんな俺が美奈子さんと一緒に並んでいて笑われないだろうか。せめて多少なりとも次回は自分が出来る精一杯のお洒落をしようと思う。
だからまず第一歩に美容室へ行った。行く前にちゃんと行くかどうか悩んでから。
いろいろな髪形をチャレンジしたが一番しっくりきたのがツーブロックで今はやりな感じの髪形にした。もう少し長めにしておけば良かったが流石に七回も髪を切られたら俺も疲れてしまい多少
今度は服を買わなくちゃな。だけど今日はもう帰ることにした。
帰ろうかと車に乗った時、州夜から電話がかかってきた。
「よう土岐人、この間はサンキューな。ところで今日の晩空いてないか?」
「別にいいよ。どうした急に。俺は特に予定はないけど?」
「良かったぁ。晩に街で一杯ひっかけてから帰ろうと思ってさ、暇だったら付き合ってくれない?」
どうやら酒のお誘いのようだ。
「わかった。なら久しぶりに飲むか。」
「よっしゃ、そしたら晩六時にいつもの居酒屋で。」
「了解だよ。」
そう言って電話を切って家へと向かった。
ちょうど髪の毛も切ってスタイリングしてもらったから髪はいじらないでも良い。ただの友人に会うだけだしいつもの格好で良いか。とりあえず俺は居酒屋へ向かう時間まで「街角で」を読み直すことにした。
「お疲れっす。」
そう言って州夜が居酒屋の個室に入ってきた。
「仕事忙しそうだな。とりあえず今日は飲み明かすぞ!」
と俺は言ってあらかじめ二人分のビールを頼んでおいたので乾杯することにした。
「お前は相変わらず定職には就かないのか。それでやっていけるんだからうらやましいよな。」
「ギャンブルで稼いだってお金の大切さをちゃんとわかってないとこういう業界じゃ、やってけないからな。失敗した時のリスクがある時のことを考えたら意外と大変なんだぜ?」
俺は州夜にはギャンブラーということにしている。まぁ間違ってはいないがちょっとばかし背徳感はある。
「俺も土岐人みたく楽して金稼ぎたいよ。」
「実際、月で稼いでるのはお前の方が上じゃん。この年で代表取締役なんだからすげぇって。」
「お前従業員俺しかいないからって馬鹿にしてるだろ。」
俺たちは馬鹿な言い争いをしてはいつも笑っているいわば親友だ。
ひがみあい、笑い合い、そして助け合う。それが俺らの付き合い方。
「そういえば州夜は結婚の話うまく進んでるのか?」
州夜は今年の六月に籍を入れる予定なのだ。ジューンブライドってやつだな。昔合コンで知り合った俺らよりも二つ下と付き合っている。
「そうだな。とりあえずお互い両親とも挨拶は終わったし、籍いれてから式も開くからその段取りで休みは忙しいのよ。」
「つまり休みに飲めないから平日に飲みに出るってわけか。」
「そゆこと。」
俺らは好調にビールを進め、たわいない話を延々していた。
「今気づいたけど土岐人なんか髪形変わったんじゃない?もしかして女でも出来た?」
突然州夜がそんな話を繰り出してくる。
「実はさ、今気になってる人がいるんだ。ものすごく可愛くて、話しが合って趣味も会うんだよな・」
俺はどういう経緯で美奈子さんと出会って、それから食事の事、次の日書店であったことなど色々州夜に話した。
酒がはいっているせいかなんでもペラペラ話しそうになる。
「お前しばらく彼女とかいなかったんだからもうそろそろ頃合いなんでない?」
「俺は出来ることなら付き合いたいけど、告白して降られた時の事を考えたらまだ早いかなって。」
「でも次のデートで勝負かけないと、もしかしたら女も待ってるかもしれないぜ?」
州夜はにやけながら言った。
「お前真剣に聞く気ないだろ。」
俺が突っ込みを入れると州夜は顔だげで「してない、してない。」アピールをしてきたので軽くどついて笑い合った。
「また今度一緒に飲もうな。」
帰り際州夜が言った。なんだか今日は茶化されて終わったけど、やっぱり次美奈子さんと会う時、今迄以上に親密になれるようになにか作戦でも考えとかないとな。
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