第3話街角で
俺は最近退屈で仕方なかった。別に恋人がいるわけでもないし、特に趣味なんてなかった。
昔はダーツなど友達から誘われてはまっていた時もあったが最近はめっきり。たまに読書をするくらいであまり外には出歩かない。
だが今日は読んでいる本が読み終わりつつあるので、新しく本を入手するため近くの本屋に行くつもりだ。
いつもならその本屋までは車で行くのだが、たまには散歩がてらに歩いて行こうと思った。
昔から通りなれた場所ではあるがやはり車では見えない景色、歩いているからからこそわかるもの。
新鮮な感情が芽生えた。確かに久しぶりに歩いたのでふくらはぎあたりが痛くなってきたけれどもそれが何故か心地よい。
さて本屋まではたどり着いたが実際どんな本を買うかなどあまり考えていない。俺は基本誰が書いた作品が読みたいという願望はない。ただ棚に陳列してある本のタイトルを見て面白そうなタイトルの本を買う。ジャンルは問わない。
俺が本を探していると白いワンピースを着たとても綺麗でどことなく可愛さがある女性を目にした。正直ひとめぼれしそうなほどタイプの女性だった。その女性は「街角で」というタイトルの本を手に取りあらすじを読んでいた。俺はその女性が読んでいる本も気になったが、それ以上にその女性のことが気になっていた。しかしこういう女性は男には困っていないだろうなと勝手に大きなお世話なことを思っていた時だった。
本棚が対になって並んでいる普通の本屋、女性が一人、そしてぴったりくっつくかのように後ろにいる男性。なにか違和感を覚えた。
なぜならその本屋は本棚と本棚のスペースが広いわけではない。だから一人立ち読みしているとちょっぴり迷惑な感じもする間取り。小柄とはいえ女性が一人そこで立ち読みしているにも関わらず、男性は真後ろで本を探していたのだ。本を手にとっては元ある場所に戻し、また別の本を手にとっては戻しを繰り返しているが明らかに本を注視はしていない様子だった。
そこで気が付いた。本を探す際右足を全くうごかしていない。誰がどう見ても怪し過ぎる。間違いなく盗撮である。俺はカメラがあることを確認するため近づいてみた。するとビンゴ。今の盗撮の技術は進んでいて(あまり感心するとこではないが)ちょうどアキレス腱が当たるところに小型カメラが仕込まれていた。どおりで右足が動かない訳だ。
俺は証拠を掴んだ時点でその男性に問いただした。
「あなたの靴にカメラがありますがこれは盗撮ですね?」
サラリーマン風の男性はその言葉を聞いて逃亡を試みたが残念ながらそんな狭い場所ではすぐには動けず、あっさりととっ捕まえた。
周りにいた人が店員や警察に連絡してくれて、加害者の男と被害者の女性、そして俺はその店の事務所に移動した。
すぐに警察の人が駆けつけ犯人を連行していき、俺とワンピースの女性はその事務所で軽く調書を取られて終わった。後日警察から彼女に連絡がいくそうだ。
「ありがとうございました。」
白いワンピースを着た女性が言った。
「偶然通りかかったら怪しい行動していた男がいたので当たり前のことをしただけですよ。それよりも気分は大丈夫ですか?」
「私は特になにされたというわけでも無いので大丈夫です。」
と俺に笑顔で応えた。
はじめは自分が被害にあって動揺していたが、今は笑顔で安堵していた。
「それでは、俺はもう行きます。今度からは気をつけてくださいね。」
と立ち去ろうとした時彼女は間髪入れずに言った。
「もしよろしければ連絡先を教えてもらえないでしょうか。」
俺は彼女の申し出に驚いたが正直考えた。
たしかに彼女とお近づきになれるなんて嬉しい限りだがこんな形でお近づきになるのは自分としては腑に落ちない。どうせなら自分の口から聞きたかった。
自分好みではない女性ならば連絡先を教えず紳士的に済ませたはずなのに、こんな綺麗な女性の連絡先を教えてもらえるなんてそうそうあることではない。などと自分に意味の分からない言い訳をし、連絡先を教えることにした。
「この件でいったん落ち着いたら連絡差し上げたいと思います。」
と言って彼女は事務所から出て行った。
俺もこんな事件に巡りあわされて正直参ったが、あのワンピースの女性と知り合えたことに感謝して店をあとにした。
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