第2話登坂土岐人

俺の名前は登坂のぼりざか土岐人ときと、今年で二十五歳を迎える一般人である。

 職業は何もしていないいわゆるニートというやつだ。

 別に汗水流してお金がほしいと思わない。なぜなら俺にはこの特殊能力を使って金を稼ぐことが出来る。

 金がなくなってくればパチンコや競馬、ギャンブルをすれば負けなし。とはいっても負けてもそれを選ばなかった分岐点から反対のルートにいけば良いだけの話。

 だから俺は毎日好きなように遊んで暮らせば良いのだ。好きな時に好きなことをし、好きに時間を過ごせば良い。

 ほかの人にはわからない有意義な生活。金もあれば時間もある。俺はこの能力のおかげでぐうたらな人生を歩んでいた。

 かといって別に俺だって友達からどうしてもとお願いされればまったく仕事しない訳ではない。あまりにも困っている人がいれば手を差し伸べてあげるだけのことは出来る人間ではある。

 そこまで落ちぶれた人間にもなりたくない気持ちはある。ただもっと効率の良いお金の稼ぎ方が出来るだけ。

 俺がこの能力に気付いたのは小学生の時、いやその前からも薄々感じていたのかもしれない。

 とある授業参観の日、母親が見に来ていた。

 だから俺は母親にいいとこを見せようとして先生の質問に手を挙げて率先して答えた。答えなんてわかなくても手を挙げた。

その時に俺は当てられてしまった。わからないまま考えた。しかし答えなんて出てこない、沈黙だけが続き、ほかの生徒にも「わからないなら手なんか挙げるなよな。」等とひそひそと言われているのが分かった。

 俺は震えた、どうして手を挙げてしまったのだろうかと。ただの見栄っ張りがすごく恥ずかしかった。

俺はがむしゃらに後悔した。あの時わからないのに手を挙げてしまったことを。恥ずかしくて目を閉じて震えた。

 しばらく黙っていると授業が淡々と進んでいることに気が付いた。目を開いた先には、立っていた自分が何故か席について座っている。

 俺には理解が出来なかった。さっきまで陰で言っていた生徒は何食わぬ態度で授業を聞いている。

 その日の晩母親に尋ねてみた。

授業中手を挙げて答えられなかったのが恥ずかしかったと。しかし母親に俺の言っている意味が分からないと言われてしまった。母親の話では、俺は率先的に手を挙げてはいたけれども先生には当ててもらえてはいないらしい。

明らかに俺の記憶との矛盾である。

あった出来事が無くなっている。俺は不思議な感覚を覚えたがあまり気にせずにいた。

 そうして俺はこの日から少しずつ自分の能力に目覚め始めた。


 少しずつコツをつかんだ。

 それは自分の中で分岐点を把握すること。

自分の記憶にはっきりと分岐点を刻み込む。あえて分岐点を作るように心がけた。そうすれば失敗したら別のルートに移動すれば良いだけ。

 俺は姑息な人間に成り下がってしまった。しかし世間一般から見れば出来すぎる人間だった。

 周りからねたまれたりしたこともあった。だから俺はかえってワザとミスしたりもした。ある意味こんなことをするのも疲れてしまう。だが俺は周りの目を気にしてしまう性格だった。

 一度染みついた性格はそんな簡単に直せるものではない。それは自分が重々承知している。

 だがそれでも良いと最近思ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る