第6話 幼女先生と学ぶ自己紹介術 まとめ

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〇大草原

   一面緑一色の草原。空は雲一つない青。

   晴彦、呆然と周りを見渡している。

晴彦「ここどこ!?」

   幼女先生、腕を組んで晴彦を見る。

幼女「ワシの心象風景じゃな」

晴彦「…ッ! そんなこともできるんですか!」

幼女「ワシの辞書に(晴彦を指さして)不可能はないッ!」

晴彦「賛美! 賛美! 賛美!」

   晴彦、五体投地をする。

   ×   ×   ×

   幼女先生、ランドセルからホワイトボードを取り出す。

   『まとめ』と書きなぐる。

幼女「さあ、今日は自己紹介のまとめじゃ!」

晴彦「はい!」

幼女「気分一新のため、会場を変えてみたのじゃが…どうじゃろう?」

   ふふふと不適に笑う幼女先生。

   晴彦、胸に手を当てる。

晴彦「すばらしいです!」

   幼女先生、満足そうに頷く。

幼女「では、本題に移ろう…ブタよ、自己紹介をするときに大事なことは?」

   晴彦、メガネをかけなおす。

晴彦「短く言うこと…あと、興味を惹くキーワードを忍ばせること、です」

   幼女先生、顎に手を当てる。

幼女「その通りじゃ。まず、それが基本のキの字じゃな」

   晴彦、ほっと胸をなでおろす。

   幼女先生、ランドセルからハリセンを取り出し、晴彦の頭を叩く。

晴彦「あべしっ!」

幼女「しかし! それでは甘いのじゃ!」

晴彦「(メガネを探しながら)甘いって?」

幼女「大抵の面接で、自己紹介を聞かれる…さあ、ブタ、質問じゃ。どのくらいの時間じゃと思う?」

晴彦「(メガネをかけなおして)ええっと1分くらい…」

   幼女先生、ハリセンを地面に叩きつける。

   バシッという強い音。遠くの牛が驚いて、モ~と鳴く。

晴彦「ヒッ!」

幼女「1分など長すぎるわ!」

晴彦「え…そんなに長いんですか…でもたった60秒です―」

   幼女先生、またハリセンを叩きつける。

幼女「のお…1分間に人間が喋れる文字数って知っておるかの?」

   晴彦、首を横に振る。

幼女「早く喋って400文字くらいじゃ…ということは原稿用紙1枚分くらいを、面接官は聞かされるわけじゃのう…」

   幼女先生、髪を整える。

幼女「どうじゃ?400文字分、一方的に喋って。覚えてもらえるかのお?」

晴彦「ぐぬぬ…」

幼女「それに、あめりかという国では、えれべーたーぴっち、というものがある」

晴彦「(目を点にして)エレベーターピッチ?」

幼女「そうじゃ。えれべーたーに乗っている30秒の間で、簡潔に自分の企画を経営者に話すというものじゃが…つまり30秒あれば十分に伝えることが可能ということじゃ」

晴彦「え、だったらその倍の60秒もあった―」

幼女「甘い!過ぎたるは猶及ばざるが如し、じゃ!」

晴彦「ええ…」

幼女「例えば『一分間で自己紹介をしてください』と言われたら一分間でやればよい…ただのぉ『一分間程度』と言われたら、30秒前後で切り上げた方が得策じゃ」

   晴彦、額にしたたる汗を袖で拭う。

   後ろには『ゴゴゴゴ』の文字。

晴彦「…WHY?」

幼女「Other students will give their presentations over 60 seconds. So ―」

晴彦「ファッ!? 日本語でおけ、です」

幼女「じゃから、他の学生は大体一分間で収まらないから、それだけで”良い”ように目立てるんじゃ。他にもメリットはあるしのぉ」

晴彦「例えば」

   幼女先生、晴彦を白い目で見る。

幼女「(小さい声で)最近の若者はすぐに答えを求めたがる…」

晴彦「え?」

幼女「(コホンと小さく咳払い)緊張して長く喋ったとしても、1分で収まる。あとは、短い時間の中だからこそ、キーワードが面接官の頭の中に残るから、次の会話に入りやすいのじゃ」

晴彦「えっと、一つ目はよくわかるんですが…二つ目ってどゆことでせうか?」

幼女「それはのぉ、面接は自己紹介が全てではないじゃろ?」

晴彦「それはもちろんです」

幼女「ということは次の質問があるわけじゃ」

晴彦「はい」

幼女「そして、面接官は何度も同じことを聞いて疲れてきておる。そういうときに欲しいのは”求められている答えを端的に話してくれる学生”なのじゃ」

   晴彦、後ろに吹っ飛ぶ。

晴彦「!!!!!!!」

幼女「それは当然じゃろ。これはリンゴですか?という質問に対してのぉ、これは青森県の無農薬農家が作っている、年間生産量も少ない貴重な品種のリンゴです。なんていうヤツ、<ピー>じゃろ!」

晴彦「ひえ!今、<ピー>って言った!幼女なのに<ピー>って言った!」

   大草原を闇が包む。

   雷雲が空を包み、遠くで雷鳴がする。

   幼女先生、デスメタルっぽい服に早着替え。

幼女「ひゃっはー!! それはそうじゃ! リンゴですか?と聞かれたら、はいリンゴですと答えればいいだけ! それなのに今の<ピー>学生どもは、いらんことばかり話すんじゃ!」

晴彦「先生がご乱心じゃ!」

    幼女先生、<ピー>を立て晴彦を睨む。

幼女「もしかしてブタもこの口か?」

    晴彦、涙目。目をそらす。

幼女「まあよいか…どうせ次から分かるからのお…」

   幼女先生、手をぱちぱちと叩く。

   空が晴れ、もとの状態に戻る。

幼女「というわけじゃ。自己紹介で短く簡潔に話すことができれば、面接官は…」

   幼女先生、ランドセルからメガネを取り出し、装着。

   フレームの縁に指を置く。

幼女「(美しい声で)この学生は、求めている答えを明確に話してくれる”楽ちん”な学生だわ」

   幼女先生、メガネを外して、ランドセルにしまう。

幼女「と思ってくれるわけじゃ」

晴彦「な、なるほど…」

幼女「だから、短く話せるように台本を作っておくのじゃ!よいな?」

晴彦「で、でも先生…どうやって作れば…」

   幼女先生、口を開いて驚く。

幼女「! そうか、それも分からんか…う~ん確か、次のVTRは『自己PR』じゃったから、その時に抱き合わせて教えてやろう」

晴彦「感謝! 感謝! 感謝!」  

   晴彦、地面に五体投地。

   幼女先生、汚物を見るような眼でブタを見る。

幼女「…まあ、よい。これで自己紹介についてはひと段落じゃ。では次に、『自己PRと台本作り』の話をしようかの。また見てくれると嬉しいぞい」

   幼女先生、五体投地をしている晴彦の尻を踏みつける。

   あふんっという声が草原に響く。


つづく

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