エンドレスボタン
「今日は30分で終わりだから」
そうやって始めたはずなのに、配信時間はもう1時間25分を経過しようとしていた。いつもそう、ほんとにどうしてかしら。
「@5」
「えんちょ」
「だんちょつー」
「延長期待」
団員たちが騒ぎ始めている。あたしが放送を終わろうとすると必ず流れる延長コメントの数々。
延長ボタン。画面に表示されたそのボタンを押してしまえば、1回につき30分放送が延長される。
延長をするには延長チケットが必要なんだけど、あたしの手元にあるチケットは常に20枚を超えていて……1チケットの期限は1週間なのにも関わらずよ!
おかしいと思わない?これはあり得ない枚数なのよ。
でも、ほとんどの団員はあたしが延長チケットを数十枚持っていることを知っている。石油王と呼ばれる団員達がいつも数万ptの広告をしているから、当然と言えば当然なんだけど。
いえ、高額広告をされていることを全く知らない、あまり配信に来ていない団員だとしても、一目でわかるわね。
だって今この配信で投げられているチケットは、もう6枚を超えているんだから。
「ふんっあと30分だけよ!」
あたしは延長ボタンを押した。あと30分で配信が終わるように気を付けて話の流れをつくらないといけないわね……。
そんなあたしの目論見を見透かすかのように、凸が来た。
1回だけならいい、連続で、何人もの凸者が次々とやってくる。
あたしは配信で決めていることが二つあるのよ。
一つはコメントを全て読むこと。もう一つは凸が来たら滅多なことがない限りSkypeの通話ボタンを押して凸を受けること。
でも、凸の最中は当然コメントを読むことができないから、凸が多くなれば多くなるほどコメントが溜まっていく一方なのよ。
そして最後の凸が終わった時、残り配信時間は3分を切っていたの。
でもまだ100コメント以上残っていて、どうしても時間内に読み切れないと判断したあたしは、仕方なく次の延長ボタンを押した。
「これでコメントが読めるわね、今回は仕方なく仕方なくよっ!もうっ延長する気なんてなかったのに、あんた達、何か面白い話はないの?」
コメントが流れる。
「死後の世界についてどう思いますか?」
「え?死んだ後ってどういうこと?」
「輪廻転生とか天国とかそういうことだろ」
「あーなるほど」
最近の流行は科学の話、未来の話、怖い話、恋愛の話。この辺りが多いんだけど。今回は死後の世界の話なわけね。
って!それは一昨日したじゃないの!
「またその話?他にはないの?他にないならまぁ、それでもいいけど」
一度、ある程度の結論がでた話をもう一度繰り返すのって、ほんとはあまり好きじゃないんだけど。話題も特にないみたいだし、まぁ仕方ないわね。
あたしは数分かけて一昨日の結論までの流れを説明したんだけど、ほとんどの団員はその話を知っていたし、解っていたことだけど、あまり盛り上がることもなかった。
それでもなんとか一つ一つのコメントを読んでいるうちに配信時間が6分を切ったんだけど、ここであたしはあることに気が付いた。
できることなら気づきたくなかったことに。
放送時間2時間25分。
この数字を見ると胸につかえるモヤモヤが止まらない。もう話すことなんて何もないのに、身体が震えてきた。
「2時間30分って中途半端じゃない?」
「だよな、3時間で終わったらちょっきし0時で終われるし」
「↑うんうん、僕もそう思う」
団員たちはあたしの性格を良くわかっている。それもそうね、あたしは前にこんなことを言ったことがあったんだから。
「もう、中途半端に30分で配信を終わると妙にむず痒い気になるじゃない!」と。
その言葉を言った時から、25分、1時間25分、2時間25分という25分単位の時間になると、必ず「中途半端」とか「ちょっきし」ってコメントが飛び交うようになったの。
ほんと……腹が立つほど良く出来た団員達ね。
あたしは震える手を和らげる薬でも見つけたかのように、延長ボタンを押した。
「くっ……しょうがないわねっ延長してあげたわよ!」
残り時間が32分になったことを確認した時、手の震えは止まっていたわ。
何も話すことはないのに、このあと30分どうやって枠を持たせればいいのかもわからないまま。
でも、仕方ないわね。
あたしがここで延長していなかったら、この震えは次の配信まで収まることはなかったかもしれない。
「さぁ!延長したんだから次は何の話をしようかしらね!」
これであたしは0時ぴったりに配信を終えることができる。うん、いつも通りね!
涼宮ハルヒの夢配信 結崎ミリ @yuizakimiri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。涼宮ハルヒの夢配信の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます