エンドレスココア
なにかおかしい。
そう気づき始めたのは、枠が始まって15分くらい経った時だったわ。
いつも通り流れてくるコメントをすべて拾っていたあたしは、なんとなく、違和感を感じたの。
あれ?コメントの流れがおかしいって。
そこで前にも同じようなことがあったことを思い出したの。
あの時は『ココア』ってコメントで溢れかえって、『森永ココア』だの、『ココアどこだ』だったり、流れてくる全てのコメントが狂ったように『ココア』で統一されていたのよ。
「森永ココアは、それはCMのやつね」
「ココアどこだ、いやココアはここにないし、ココはどこだって意味だとしてもSOS団の部室だからね?」
と、全てにツッコミを入れないといけない。
いつからだったかしら、そんなルールが定着してしまったの。誰かがそんなルール提唱したわけでもないのに、おかしなことよね。
そして今回も、ところどころ『ココア』というコメントが増えつつあったのよ。
嫌な予感がした。
あたしの予感は結構な確率で的中してしまう。
焦りからか、無意識にコメントを読む速さがあがってしまう。
そして始まった、あのコメント。
「あれ?これココアの流れきてる?」
その言葉を皮切りに、一斉に『ココア』コメントが流れ出したわ。
『ココア牛乳』
『コーヒーココア』
『ココア入ってない』
『ココア、アリ、リンゴ、ゴリラ』
『上から読んでも下から読んでもココアココ』
ほんと意味不明なコメントばかり。当然ね、意味なんて持たせないであたしがどう『ツッコミ』を入れるのか団員は楽しんでいるんだから。
ココアの流れが来ると、いつもの三倍くらいの多さでコメントが流れる。
そしてその流れを私に止めることはできない。『コメントは全て読む』、それは自分で決めたルールだもの、何が何でもやり通すわ。
コメント量が多いってことは枠が盛り上がっているってことだもの。枠を盛り上げるのはあたしの務め。企画は思いつかないし同じことをしてもマンネリになるだけ。
盛り上がっているならそれでいいし、団員が楽しそうにコメントをしていることが一番良い配信だってあたしは知っているから。
だからこんなおかしな流れが来ていても、枠が盛り上がるなら、あたしは自分の声帯が悲鳴をあげても構わない。
@5というコメントが流れてあたしは放送時間が残り少ないことを知る。あと5分足らずで100コメントほど読まないといけないし、その間にも雪崩のようにコメントが流れてくる。
コメントをさばききれないと判断したあたしは、延長ボタンを押す。
『えんちょココアください』
『ココア延長』
『団ココアちょつ』
『だんちょつ』
もうっ!ココアで統一するなら統一しなさいよね!普通にだんちょつって打つんじゃないわよっ!そうツッコミを入れるのも疲れてきたわ。
放送時間は2時間5分。ココアの流れが来てからあたしはずっとしゃべりっぱなしで、時間を見た瞬間、疲労が一気にやってきたの。
放送時間はあと20分以上ある。でも流れが収まらない、このままやめるわけにはいかない。
でも……もう限界……誰か……この流れを止めて……お願い。
pppppppppp
聞き慣れた音色が流れる。あたしの配信では誰もが知っている音。
凸SE
すがるような気持ちで、あたしはSkypeの通話ボタンを押した。
「涼宮ハルヒだけど、あんたは?」
「俺だ、キョンだ」
「キョンあんたどうしたのよ」
「いや、特に何も考えてないんだが、なんとなくな、来た方が良い気がしたんだ」
「ふーん。あんた、なにもないのにここに来るなんて良い度胸してるじゃない」
「そうだな、自分でも来た理由を聞きたいくらいだ。そうだな、ここのリスナーたちなら答えられそうではあるけどな」
「はぁ? 何言ってるのよ。あんたが凸に来る理由なんてあんたの勝手じゃない」
「まぁそうだな」
「で、あんたは何をしていくのよ?」
「まぁなんというか……ほんとに何も考えてないから、適当に無茶ぶりでもくれ」
「そうねぇ。じゃぁあんたが、森永ココアの宣伝をしていくまで、3、2、1、Q!」
「森永ココアっ! すっげぇうまいぞ! なにせあの超有名メーカー森永さまさまだからな! CMは超有名だしぃ!? とりあえずうまい!」
「あとはそうだなぁ、そう! 意外と安いんだよこれが! 一回でいいから飲んでみろ! 絶対ハマるかr」
プツ
あたしは凸切りをした。
「長いのよ! ここで切らなかったら永遠に宣伝しそうだったから切ってあげたわ。感謝しなさい?」
コメントを見たら、キョンの凸に関係するものばかりで、いつの間にかココアの流れは終わっていたわ。
読めていなかったコメントを読んでいると、その間、団員たちはコメントを止めてくれて、放送時間残り3分でなんとか追いつくことができたの。
そして、そのまま放送を無事に終わることができた。
放送終了後、あたしは気づいたわ。
キョンがこなかったら、ココアの流れを止めることは絶対にできなかった。あいつはその為に来たんだって。
「ふんっ……まぁ、感謝してあげても……いいわよ」
そう告げた瞬間、あたしは、借りをつくられたみたいな気分になって無性に腹が立った。
「今度、あいつとコラボして、思い知らせてやる!」
あたしに借りをつくったことを後悔しなさい!そのコラボで絶対にぼっこぼこにしてやるだから!覚悟しなさいよね、キョン!
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