石油王として~団員の本気~
負けられない戦いがそこにある。
宗教なら誰もが入信してしまい、圧倒的なカリスマ性を兼ね備えたニコ生界の姫君。
姫が配信を始めると、何百という飢えた狼が立ちどころに子犬と化し、全ての生物が彼女の虜となる。
圧倒的な美貌、美声、才を持ちながらも常に努力を惜しまず全ての生物に愛を持って接する。
そんな彼女に俺は惚れた。
何の取り柄もない俺が姫にできる唯一のこと、それは『貢ぐこと』だ。
それもただ貢ぐのではなく、誰よりも多くの額を貢がなくては意味がない。
思えば姫が配信を始めた頃からそうしていた。当たり前のように五桁の広告をする。そうしているうちにいつしか俺は『石油王三賢者』と呼ばれるようになっていた。
ふん、金のない家畜どもは好きに吠えていろ。くだらない、俺はそんな称号に興味はない。
俺が、俺こそが最も多くの額の広告をする。それだけだ。
今日は姫が初めて行う6時間放送の日。
6時間記念放送。最終的にどれだけの広告ができるか、それによって本当の石油王が誰なのかが決まる。
つまり、必ず勝たなくてはならない。
6時間放送の配信が始まった。
俺以外に石油王と呼ばれる人物は二人。そいつらも俺と同じく王の座を狙っているはずだ。だがこの日の為に準備をしてきた俺に抜かりはない。勝利は確実に俺の手にある。
まぁ焦ることはない、6時間もあるんだ。ゆったり奴らの出方を伺おうではないか。
5000pt 2000pt 3000pt
放送が進むごとに広告がされる。まぁいつも通りの額だな。まだ様子見、といったところか。このまましばらくは俺も奴ら同様、様子見といこう……。
そう言っているうちに次の広告が流れてきたな。
額はいくらか、一、十、百、千…万…………
いやいや、俺としたことが桁を見間違えるとはな。王を決める祭典に、少し興奮しているらしい。
一、十、百、千…………万………
「5万ptだとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!??」
な、あり得ない……いやまて、いやいやまて、合計金額ならまだわかる。だがこれはたった一回の広告だ。
この額はなんだ? くそっ! どいつだ! どいつがこんな馬鹿げた額の広告をしやがったんだ!!
広告者二文字さん 50000pt
なっ!初見だと!? 初見でいきなりこの額だと!? 俺は知らない、俺だけじゃない、ここにいる誰もがそんな馬鹿を知らない……知るわけがない。
広告者二文字さん 30000pt
「なんだこいつはああああああああああああああああああああああ!!!??」
たった二回の広告で8万pt!? あほなのか、こいつは天性のあほなのか? まだ配信が始まって2時間でPS4が2台購入できる額を出すなどそんなまぬけな話があるわけがないっ!?
完全に流れをもっていかれた俺は、ガラにもなく動揺し30000ptの広告をした。
いや動揺していたのは俺だけではないようで、他の石油王も20000ptの広告をしていた。
そんな俺ら石油王をあざ笑うかのように、やつは……さりげなく、さも当たり前のようにとんでもないコメントをしやがった。
二文字さん「チケット300枚くらいかえってきた。広告チケット全部使わせてくれ」
そこにいた誰もが恐怖していた。いや、二文字一人を除いた誰もが恐怖で顔を真っ青に染めていた。
くそがっ、こんなことを言われて出し惜しみしていられるわけがない!俺は更に45000pt広告をした。
俺以外に30000pt広告をするやつもいた。
だが、やつは……二文字は……その後怒涛の広告ラッシュをかけてくる。
広告者二文字さん20000pt 広告者二文字さん10000pt 広告者二文字さん25000pt
「こいつの広告力は無尽蔵かっ!!!???」
驚天動地とはまさしくこのことを言うのだろう。俺は頭がおかしくなってしまったのかもしれない。これはただの幻覚なのではないか、そうだそうに決まっている……こんな化物存在するはずがない。
広告者二文字さん40000pt
「やあああああああああああああめえええええええええええろおおおおおおおおおおおおおおっ」
俺の精神は完全に崩壊していた。
思えば、この時からだったか。俺は広告名を少し変えて広告をしていた。
その為、合計金額ではさほど変わりはないのだが、広告者が3名分に分かれてしまった為、二文字との金額に大きな差がひらいてしまう。
何も知らない奴らからすれば、最も広告をしているのは二文字ということになる。
やってしまった。俺としたことがなんというミスをしてしまったのだ。
その後、姫君の放送は無事大団円の成功を迎えようとしていた。
配信は拍手喝采に包まれ、『神』という字をいくら並べても足りないほどの素晴らしいものだった。
配信終了3分前、二文字は最後の広告を終了させ、合計192000ptという数値を叩きだした。
2位以下は俺を含む、石油王三賢者と呼ばれた先人。
だが俺は満足していた。
このランキングは5位までのptのみしか表示されないが、2位、3位、6位の俺が広告したptは20万を超えている。
その真実を知るものは少ないが、それでも充分。
石油王として、いや、姫君へ愛を捧ぐただ一人の漢として、俺は、誰にも負けるわけにはいかない。
だが、認めないわけにはいかないな……
仮に負けていたとしても、俺の心は今と同じように満足感で満たされていただろう。
「二文字……熱くさせてくれるじゃねぇか」
これからも共に『石油王四賢者』として、姫君の神配信を見守っていこうじゃねぇか。
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