エンドレスチケット

 なにかおかしい。

 そう気づき始めたのは、枠が始まって10分程度経った時だ。

 なんとなーくコメントが流れていって、そのコメントを読んだことがあるような気がする。

 そう、既視感というやつだ。

 

「あんたたち、なにかおもしろいことはないの?ちゃんと宇宙人とか未来人あとは超能力者を探さないとだめよ!」


 ハルヒがいつものようにリスナーを活気立たせると、広告が入って、そう、次に8000ポイントになるんだ。

 8000ポイントでハルヒにチケットが入る。そしてハルヒはこんなことを言い出すんだ。


「これでまたチケットが増えたわね!でも大丈夫よ!予約は上限までしてるし、延長もしてるからチケットを消費してるんだから減ってるに決まってるじゃない!……あれ?ど、どうして?チケットが、20…枚?あたし…ちゃんと使ったわよ!?なのに…チケットが…増えてる!!」


 これはあれだ。いわゆる一つのネタというやつだ。だがおかしい。言葉は毎回違うはずなのに、今回は俺の想像してたものと一字一句違いがなかった。

 

 コメントが流れる。


【wwwwww】

【いつものwww】 

【本日のエンドレスチケットネタ終了。はい、閉廷。解散っ!】

【ほんといつきいても面白いわw】


 などなど。全て見たことがある。

 そういえば以前にも似たようなことがあった。夏休みが永遠に繰り返されるという、異常な現象。

 一万五千四百九十八回、同じ日々を繰り返した。

 嫌な予感がする。

 俺の経験が間違いなく危険信号を出している。

 あの時は、「俺の課題はまだ終わってねえ!」と叫ぶことでループを脱出できた。

 

 ということは今回もそんな感じのキーワードをハルヒに言えばいいわけだ。

 

 だが、何をすべきなんだ?

 

 そうしているうちに枠の時間が57分を過ぎようとしていた。

「ふんっ、まぁこんなものかしらね」 


 ハルヒの声がスローモーションで聞こえる。

 

 その時だ。まったくの突然、唐突、突如としてアレが来た。

 今までにない強烈な既視感。知っている。何万回と言わなくとも繰り返した出来事。


「んーそろそろ枠も終わるわね。このチケットどうしようかしら?……まぁなんとかなるわよね」


 このままハルヒに枠を終わらせてはだめだ。終わらせてはだめなんだ。それでは変化しない。

 今までの俺はどうやって変化させようとしていたのか。

 前回までの俺がしてきたこと、そして……しなかったこと。


「俺はコラボ放送をまだやってねえ!」


「そうだ!ハルヒの枠でコラボ放送だ!延長枠だ!俺とハルヒがお前らのコメントをばしばしさばいてやるぜ!

 朝比奈さん、長門、古泉は凸にこい!もちろんリスナーの凸も大歓迎だ!」

 

「待ちなさいよ!」

 腰に手を当てたようなハルヒがふんぞりかえっていた。


「勝手に決めるんじゃないわよ。団長はあたしなのよ!そういう時は、まずあたしの意見を伺いなさい!キョン!団員の独断専行は重大な規律違反なの!」


「あたしが主役だからね!」



 その日、その朝。

 どうやら当たりを引いたらしい。

 まぁなんというか、ループを抜けることはできたのだが、素直に喜べないのは何故だろう。

 

「ハルヒ、どんなコラボ放送をやる気なんだ」


 そう口にした時、何故だろう。俺は、額に手を当て、こう言いたくなった。


「やれやれ」   

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る