涼宮ハルヒの夢配信

結崎ミリ

きっかけ

 

「どうしてこうなった」

 

 一言そう告げてみた。そうすることで現実を受け入れられるかもしれないと思ったからだ。

 

 放課後、朝比奈さんに「一緒に行ってほしいところがあるの」と以前にも聞いたような出来事があったなと思って

 いると、これまた「その……ええと……ニ年前の七月七日に、です」と言われたので、「では行きましょう」と

 言ったら、「今回はキョンくん一人で行ってください。そして東中校庭に行って涼宮さんのお手伝いをしてあげて

 ください。あとこれも持っていってください」と告げられて、俺が「どうしてですか」と言い終わる前に

 「ごめんなさい禁則事項です!」と、そのまま飛ばされた結果がこれだ。


 えぇい、夢なら覚めてくれこんちくしょう。


 というわけで、全国一斉七夕デー。前回とは違う。今は、三年前ではなくニ年前の七月七日なわけだ。

 何の偶然か、あの時、大人版朝比奈さんと出会った時と同じ、夜の公園でベンチだった。

 ちなみにさっき朝比奈さんにもらったものは白いマスク。風邪はこじらせていないが、姿を隠せということだろう。

 仕方ない、付けとくか。


 誰か道案内役でも出てくるのだろうかと思ったが、こちらへ飛ばされる直前に目的を言われていたことを思い出した。


「ハルヒの手伝いをしてあげて、か」


 以前にも同じようなことがあったな。あの時は校庭に落書きを書かされたわけだが、今回はどんな注文をされるの

 だろう。

 もらったマスクをつけて、以前通った道を行き、東中学校の校庭にやってくると、

 

 いた、涼宮ハルヒ。


「おい」


「なによっあんた、変態? 誘拐犯? 怪しいわね……あれ?あんたどっかで会ったかしら」


「いや、初対面だ。名前は聞かないでくれ。色々ややこしくなるからな!」


「ふーん。まぁ、いいわ」


「あんた、暇そうね。ちょうどいいわ。これから学校のコンピュータ室に忍び込もうと思ってるのよ、きなさい。

 でないと通報するわよ」


 通報したいのはこっちだ。だがしかし、朝比奈さんとの約束がある。でも何だな、過去に来て二回目でも俺に手伝わせ

 るんだな、涼宮ハルヒという存在は。

 マスクをつけて正解だった。この分だと俺の顔はよくみえていないだろう。


 それから数分後、どうにかこうにかしてコンピュータ室に忍び込んだわけだが。ちなみに鍵は


「隙を見て盗み出したの。ちょろいもんだわ」


 と言ってすんなり扉を開けていた。

 コンピュータ室の一番手前にある席に座り、電源を付ける。どうやら何らかの配信を見たいらしい。なんでもいいから、

 と適当にランキング1位の配信を選んでやった。 


「あたし、配信っていうのをやってみたいと思っているの。家だと見せてもらえないからどんなのかと思ってきてみたのよ。

 今だったらYouTubeとか?ニコ生っていうのも気になってるわ。でも特に面白い話なんてそこら中に転がってるわけ

 でもないのよね。そうよ、そんなに面白い話があったらあたしが一番に、真っ先に駆けつけるわよ!」


 それ、同じ意味になってるぞ。というツッコミをしたらダメなのだろうか。


「だから、配信を始めても、ただあたしが話すだけになると思うのよ」


「ねぇあんた。宇宙人未来人超能力者異世界人の誰か、見てくれる人いると思う?」


 あの時と同じだな。


「いるんじゃねーの」

「じゃぁあたしが望む面白い人は?」

「まぁ、いてもおかしくはないな」

「ファンは?」

「配り歩くほどできるだろうよ」

「関係者」

「それはまだ知り合ってないな」

「ふーん」


 ハルヒはキーボードを叩くのをやめると、マウスでシャットダウンボタンをクリックして、


「ま、いっか」


 俺は落ち着かない気分になった。もしやヘタなことを言ってしまったのではないだろうか。

 ハルヒは俺を上目づかいに見て、


「それ、北高の制服よね」

「まあな」

「ふーん。北高ね……」


 なにやら思案げにハルヒは呟いて、しばし漬け物石のように沈黙したかと思ったら、いきなりきびすを返した。


「帰るわ。目的は果たしたし。じゃね」


 すったすったと歩き出す。手伝ってくれてありがとうのセリフもなしか。無礼極まりないが、いかにもハルヒが

 やりそうなことだ。


 その後、どうやって帰ろうかと思っていた俺の目の前に大人朝比奈さんがあらわれて、俺を元いた時代に戻してく

 れた。大人朝比奈さん曰く、

「今回のキョンくんが選んだ配信を涼宮さんが覚えていて、それがきっかけで放送を始めます。これはわたしたちに

 とって規定事項でした」

 とのことだ。

 これはあれか? きっかけを作ったのは俺ということになってしまうのだろうか。

 

 翌日。教室にはすでにハルヒがいて、殊勝な顔つきで窓の外を眺めている。

 

「どうした、今日はやけに大人しいな」

「別に。思い出し憂鬱よ。色々あるのよあたしにだって」

「ハルヒ」

「なによ」

「良い配信になって、よかったな」

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