66話 宝石の王様だ

 出だしから一波乱あり、兄は既に疲れています。

 姉御の一声で混乱は収まり、皆で兄に自己紹介することになりました。


「一番、見た目は宇宙人の座敷わらしです。背中のチャックはダミーだよ」

「はい、意味不明。次」


「二番、女の幽霊です。りょうちゃんって呼ばれています」

「前に会った赤兎馬な。次」


「三番、獏な巾着でございます」

「お前、俺が妹にやった巾着じゃねーか。勝手に顔とか生やしやがって……次」


「チャイ。チャイ。チャイ。チャイ。チャイ。……」

「でかいのは、しゃべんねーのな。次」


「五番、口裂け女よ。バーママって呼ばれているわ」

「見た目は少しまともだな。後のやつらはいいわ。ねずみとか猫とか毛玉とか、クソ東村とか」


 あっという間に終わりました。

「妹は? 可愛い妹の自己紹介がまだじゃないか?」

皆、おかしなことを言い出した兄に、気の毒な目を向けました。

「何だよ、妹の自己紹介って。馬鹿だな!」

仕方なく、大福ねずみが突っ込みました。


 家の中には、沢山の遊び道具が用意されていました。巨大ジェンガやボールプール、ボードゲームに、最新のテレビゲームもありました。兄なりに、妹の友達をもてなす準備をしていたようです。

 低年齢向けボールプールが、まさかの人気を博しました。Cマーブルズがボールの至る所から顔を出し、それを捕まえるゲームが白熱しています。新入りのタケミのボス管狐はCリーダーと名付けられており、捕まえると得点は倍でした。

 下らないゲームの発案と中心は、やはり大福ねずみでした。


 兄と東村は、部屋の端のミニバーからみんなが楽しむ様子を見つめています。

「ずいぶん風変わりなお友達が、わらわら出来たもんだな」

兄がため息を吐きます。

「姉御さんに懐いて、集まって来てしまったのですよ」

東村が笑うと、お前もだろうが、と言い返されました。

 兄は、風変わりなお友達と一緒になって、楽しそうな笑顔を見せる姉御をじっと見つめます。

「あいつら、ずっと妹の傍にいるかな……」

「引き離すほうが難しいでしょうね」

兄は、そうか、そうかもな、とゆっくり頷きました。


 その時、何か塊が飛んできて、兄が自分の顔面の直前で見事にキャッチしました。見ると、それは大福ねずみでした。

「あぶねっ! 兄か、助かった~」

白熱したゲームから、弾き飛ばされて来たようです。

「てめぇ……メイド イン ジャパンのしゃべるネズミめ。いつまでも妹といられると思うなよ」

テーブルに降ろされた大福ねずみは、ペッと唾を吐きました。

「いつまでもいるよ、馬鹿野郎~」

そう言い捨てると、兄の手にしっぽムチをくらわせますが、兄は器用に避けました。


「大福、大丈夫だったか?」

緊迫した場面で姉御がやってきて、兄の隣の椅子に腰かけました。

 途端に兄はそわそわして、何か飲むか、寒くないか、膝に座るか、と暴走し始めます。

姉御はそんな兄を無視して、立ち上がって咳払いをしました。


「六番、妹です。姉御と呼ばれています。シスコンの兄の奇行に迷惑しています。でも、昔から優しい兄さんが大好きです」


そう言って、兄の手に、箱を握らせました。


「兄さんへ、クリスマスプレゼントだ」


それから少し恥ずかしそうに笑うと、大福ねずみを掴んで、足早にみんなの元へ戻って行ってしまいました。


 兄は、久々に自分に向けられた妹の可愛い笑顔に、茫然としていました。姉御の背を目で追った後、渡された箱をそっと開けてみます。そこには、みんなとお揃いのお守りバングルが入っていました。東村の手のものへチラッと目を向けると、同じものがそこにありました。

「全員、石が違うのだそうですよ。私のものは赤です。あぁ、あなたのはダイヤモンドですね……宝石の王様だ」


 兄は、虹色に輝くダイヤモンドを見つめます。手にバングルをはめて、そっと石を撫でました。


「ちゃんと、姉御さんに好かれているじゃないですか。変わり者だから友達が出来なかった上に、若くして病気になってしまった寂しくて孤独な妹を、馬鹿みたいな兄が騒いで守っていたことを知っていたのでしょう。

 あなたの思惑と違って、自分に友達が出来ないのは、シスコンの兄のせいだなんて思ってはいなかったようですね。まぁ、愛情過多で、うんざりしているのも本当でしょうけど」


 うるせぇ、知ったふうに言うな、と毒づく兄の声は震えていました。


 しばらく目頭を押さえていた兄は、突然立ち上がって音楽プレーヤーのもとへ行くと、陽気な曲をかけました。


「踊るぞ、お前らー!」


そして姉御に走り寄り、腰を両手で持つと、高く、高く、持ち上げて笑いました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る