♥が計り知れないオイラたち
65話 兄とクリスマス
今日は、クリスマスイヴです。数日前に、姉御の元へ兄から招待状が届きました。お友達も連れて、パーティーにおいでという内容でした。
同時に、東村には果たし状が届いていました。兄の元へ、姉御が東村と温泉へ行ったという情報がどこかからリークされたようです。ゲップをしながら、ちょっと太って帰って来たブチ白が出所なのは明らかでした。
パーティーは夕方からなので、まだ二度寝をしていた姉御の部屋へ訪問客がありました。
「お前ら……パーティーは夜からだろうが」
兄が差し向けた、御馴染みのスーツマッチョなお迎えでした。
「何? 早く連れて行かないと怒られる? 知らねーよ! 出直せよ、まだ朝だろーが」
スーツマッチョは、扉を閉められるのを、足を挟んで必死に防ぎます。
「何? クビになる? 泣くなよ、うるせーうるせー! あーもう、中で茶でも飲んで待ってろ」
根負けした姉御は、玄関に置いてあった袋を持って、外に出て行きました。アパートのみんなに、声を掛けに行ったようです。
しばらくすると、部屋に戻ってきました。
「何だよ~、まだ寒いよ~、眠いよ~」
大福ねずみは、お気に入りのマイクロファイバータオルにくるまったままごねています。
姉御はベッドに腰を下ろてして大福ねずみを掴むと、自分の膝に乗せました。
「うへっ、姉御の手、冷たいよ~」
グチグチ言う大福ねずみの目の前に、光るものが現れました。よく見ると、宝石のようです。皮ひもに吊るされているようで、紐を目で追うと姉御の手に行きつきました。
「お前がくれた石と、同じ色の石だろ? クリスマスプレゼントだ。俺とお揃いだぞ」
そう言いながら、自分の胸元を指差しています。見ると、大福ねずみがあげた石が、皮ひもでネックレスになって下がっています。
姉御は大福ねずみにも、小さなネックレスを器用につけてあげました。
大福ねずみは、胸元に光る石に朝の光を当てました。前足で器用に動かし、キラキラ壁に反射する光をしばらく楽し気に見つめた後、突然姉御に駆け上がって黙って頬にすりすりしました。何度も何度も、すりすりしました。姉御はくすぐったそうに、笑いました。
「何でお前が泣いてんだよ! 何を理解したんだよ」
スーツマッチョが部屋の隅で頷きながら泣いていて、姉御にスリッパを投げつけられました。
一時間後、お迎えのバンに乗り込んで出発したアパートの面々は、朝だというのに、みんな上機嫌でした。
「何だよみんな、そんなにパーチーが楽しみなの~?」
大福ねずみの問いに、みんな笑顔を返します。
「違うわよ。あんたと一緒で、姉御ちゃんにプレゼントをもらったのよ」
結局アパートに住み着いたバーママが、腕を軽くまくりながら答えました。それにならって、全員チラッと腕をまくります。
全員、同じデザインのバングルをしていました。
「御タケ様に、守りの呪を教えてもらったんだ。それをデザインしてある。みんな石が違うんだぞ」
銀色に光るバングルは、クネクネとした透かし模様の途中に、宝石が付いていました。
腕に付けられない面々は、首輪などに同じデザインの飾りを付けています。
「姉御ちゃんの宝石が、一番安いわね。原石だし」
バーママが余計なことを言いました。
「この野郎~」
安物の原石をプレゼントした大福ねずみが、跳びかかります。
賑やかに過ごしながら、昼前には別荘に到着しました。
車を降りると、どこからか唸り声が聞こえてきます。
「うぉぉぉぉ、東村――――!」
兄が東村に走り寄り、いきなり上段蹴りをくらわせ、東村が腕で防ぎました。果たし状が実行されるようです。
「ほどほどにな」
姉御はそう声を掛けると、さっさと別荘の中へ入って行きます。
「あら、顔は悪く無いじゃない! 面白そう。中から観戦しましょうよ」
バーママ妖怪が、わくわくした目で兄を見つめてから中へ急ぎます。他の連中も、さっさと中へ入って行きました。事前に車内で、シスコン兄とはまともに関わろうとするだけ無駄だという、注意事項が回っていました。
「この野郎、妹が親友だって言うから大目に見てれば、温泉だと?」
「ふふ。父にも紹介しましたよ。父と三人で、川の字で寝ました」
東村が挑発しました。
「なんでそうなった――――――」
兄にはショックが大きすぎたようで、ガックリと大地に膝を折りました。
「大丈夫、ただの親友ですよ。本当に姉御さんをたらしこんでいるのは、あの大福ねずみ君ですよ。お風呂も一緒です」
兄は奇声を上げて、家の中へ走り込んで行きました。
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