タケミと♥な姉御

58話 大好きタイガー

 女将の後をついて来た姉御は、旅館から離れた祠に来ていました。そこから、あれよあれよと、色々なカラクリを操る女将に見とれているうちに、気が付けば鍾乳洞の中に立っていたのでした。

「ここからは、あの猫がご案内致しますので」

女将が指さした方を見ると、でかい白トラが立っていました。


 姉御は、息を飲みました。

「あらあら、大丈夫、怖がらなく……」

女将の言葉を聞き流し、姉御は白トラに走り寄ります。

「よろしく、タイガー!」

気安くでかい猛獣の背中をぺしっと叩いた姿を見て、女将は言葉を失って茫然とするしかありませんでした。


「これに乗って行けばいいのか?」

 姉御は、明らかにわくわくしています。白トラの体中を、モフモフ触ってテンションが上がっているようです。

「い、いいえ、乗らなくていいいのよ。それは御タケ様の神聖な……」

「乗っていいか? タイガー」

 女将の言葉は、姉御の耳まで届いていませんでした。


「いいよ」

白トラが答えると、ヒャッホーと背中に跳び乗り、走り去って行ってしまいます。


「い、いいの? 乗っていいものなの?」

女将は困惑しましたが、白トラ本人が許可した後なので、見なかったことにすることにしました。


 白トラに乗った姉御は大喜びで、高速で流れてゆく鍾乳石を堪能しました。白トラは途中立ち止まって見どころを説明したりして、なかなかのガイド上手です。獰猛そうな外見と違い、穏やかで心は広いようです。女将が言いかけていましたが、人語を解す白トラは御タケ様の家来のようです。同じくタケミの家来である、白い猫のブチ白より、体も性格も勝っていました。


 鍾乳洞を抜けたとき、白トラは白ライオンになっていました。

 

 乗せてくれたお礼に、姉御が洞窟で会ったケサランパサランで襟巻を作ってプレゼントしたものが、立派なたてがみになりました。姉御はギリギリまでトラの背を堪能しようと、タケミ本家の門前に着いても、白トラに乗ったままでした。

「ずっと乗っていたい。乗ったまま暮らしたい。乗ったまま寝たい」

無茶を言いながらしがみついてすりすりしていると、誰かが走り寄る音が聞こえてきます。


「無礼者! 白虎びゃっこ様から降りなさい!」

響いて来たのは、甲高い、女性の声でした。

 何となく、自分が怒られていることを察した姉御は、ひと際すりすりした後に白トラを降りました。

「サンキュー タイガー!」

きちんとお礼も言いました。


「何という、下賤な……あなたね、都会でお兄様をたぶらかしている女というのは!」

キャンキャン響く声に、うるせーと言いかけましたが、初対面の女性に使う言葉ではないので我慢しました。

「何を言っているのか、全く理解が出来ません」

丁寧に正直に答えましたが、結局、睨まれてしまいます。


 女性は姉御よりちょっと年下に見えました。ピンクの着物に紺の袴をはいています。細身で、凛と背筋を伸ばした姿は美しく、高い位置に結った長い黒髪も素敵でした。姉御も素材では負けていませんが、寝癖で普段着を着た貧相なありさまです。しかし、当の本人は、引け目を感じている様子も無く、微塵も気にしていませんでした。


「御タケ様に会いに来ました。頼も~う!」

着物の人に会った姉御は、ちょっと時代劇寄りになりました。

「会わせないわよ、ふざけないで! あんたみたいな性悪は、私が痛めつけてやるんだから」

雲行きが怪しくなって来ました。


「なぁ、タイガー、あのキャンキャンうるさいのに痛めつけられないと、屋敷に入れてもらえないのか?」

話が通じそうもないので、姉御は白トラに耳打ちします。

「いいや、入っていいよ」

白トラの否定を聞いて、姉御はキャンキャンを無視して歩き始めました。


 門をくぐるまであと一歩のところで、何か薄っぺらいものが飛んできて、姉御の顔に貼りつきました。

「それは呪いの札よ! あなたはもう動けないわ」

勝ち誇ったようなキャンキャンの声が響いて来ます。


 姉御は、顔から呪いのふだを引きはがすと、ふんっと気合を入れました。

 ふだから炎が上がり、一気に燃え尽きてしまいました。


「何よ、どういうこと?」


混乱したキャンキャンが、札を連続で飛ばしてきます。姉御は座敷わらしを助けるときに習得した、眼力札燃やしを発動して全ての札を焼き尽くしました。尚、原理は不明です。


「見事な……」

白トラに褒められて、姉御は、えへへと照れました。

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