46話 バトル・・・?

「邪悪だ……これほど邪悪な獣が、なぜ聖なる気を放っているのだ。これではまるで、神獣だ。これを家来にしているタケミとは……」

 ロン毛は軽く体を震わせながらびびっているようですが、ケサランパサランは聖属性、中身の姉御は不機嫌……ただ、それだけのことでした。


「先生、座敷わらしはどうなるのですか! 死んだのですか? 食ったこいつが同じ力を持っておるのですか? それなら、こいつを捕まえて下さいよ! こっちは、なけなしの高い金払っとるんだ!」

ゴルフ部長が怒り狂い、唾を巻き散らかしながら一気にまくしたてました。

 大福ねずみは、こんな人間に閉じ込められてきた座敷わらしを不憫に感じました。姉御も同じように感じているのか、険しい顔をしてゴルフ部長を睨み付けています。


 きっと姉御は、全力で座敷グレイを守ろうとするのだろうと思いました。しかし、所詮、姉御もただの人間です。陰陽師相手では大怪我をさせられるのではないかと、少し心配になってきました。

「この獣が、座敷わらしの能力を吸収した可能性はありますね……分かりました、生きてさえいれば良いのなら、やってみましょう。多少体がもげても、この獣ならば死にはしないでしょう」

 物騒なことを口走りながら、ロン毛は懐に手を入れました。出された手には、字が模様になったようなものが書きこまれたふだが握られています。


「やばいよ、東村。姉御が何かされるよ~、何だよあの札~、体をもがれるよ~」

「それは阻止しましょう」

 東村は近くの木の枝から葉っぱを一つ取り、二本指で挟んで口にかざすと、何かもごもごしゃべっているようです。非常に優雅な仕草でしたが、姉御のことが心配な大福ねずみは気をもんで、ちらちらとロン毛の様子を伺いました。


 ロン毛も何かもごもご唱えているようで、気合の入った掛け声と共に、お札を一枚地面へ放ちました。するとそこから、ぼしゅっと煙が沸き上がり、中から大きな何かが現れました。人型のようですが、やけに大きな体はゴツゴツと隆起していて、頭には角が二本生えていました。

「東村~~やばいよ~~! あれ、どう見ても鬼だよ~! 桃太郎の絵本に出演してるやつだよ~~!」

 大福ねずみは、取り乱しました。3メートルはありそうな薄茶色の鬼が仁王立ちして、ギロリと姉御を睨んでいます。


「……色が地味で微妙」

姉御的には、原色の鬼が好みだったようです。


「姉御、びびってねぇ~!」

大福ねずみは、改めて姉御の偉大さを感じました。

「猫には無理だにゃ」

存在感の無かったブチ黒白は、でかい鬼に降参して、早々に東村の後ろに下がりました。


 その時、まさかのCマーブルズが、先制攻撃を仕掛けました。一斉に鬼に向かって行き、腕や足に噛みついています。ビジュアル的に無茶が過ぎました。

「すごいぞ、Cマーブルズ! チャイナマーブルで鍛えた牙を食らわせてやれ!」

姉御のセリフは、必殺技を繰り出す勇者へ向かって叫ぶようなテンションでした。


 Cマーブルズが力を込めました。

 鬼が一瞬、ビクッと体を震わせました。

 Cマーブルズが、帰還しました。

 噛まれた鬼の皮膚から、少し血が出ているようです。


「おぉ~、やるな!」

「チャイ!」

姉御が褒めると、五匹は嬉しそうにうにょうにょしました。


「下らない。行きなさい!」

 Cマーブルズのショートコントは、陰陽師の逆鱗に触れたようです。怒れるロン毛の命令で、鬼がダッシュで突っ込んで来ます。姉御は、下がってろ! と東村を突き飛ばしながら、ケサラン浮力で、回避しました。

「……男前ですね。きゅんとしました」

率先して対処すべき東村が、寝ぼけたことを言いました。


「てめ~、姉御に何かあったら、殺すぞ」

ふざけたタケミに切れた大福ねずみも男前でした。

 怒られた東村は、決まり悪そうに咳ばらいをして見せると、急に真剣な表情になりました。

「さて……大技は姉御さんも巻き込んでしまうので、大福君にお願いしたいのですが」

「え? オイラ?」

東村は、先程何かしていた葉っぱを、大福ねずみに差し出しました。

「大福君は小さいから、鬼にもロン毛にも気づかれずに近づけるでしょう。だからこの葉っぱを、鬼に貼り付けてきてくれませんか? 出来るだけ、ダメージの深そうなところへ」

「そりゃ、そうしてやりたいけど、ねずみのオイラがどうやって……え? あっ?」

大福ねずみが葉っぱを受け取った瞬間、東村が大きく振りかぶって、投げました。


 鬼に向かって飛んでいく大福ねずみの姿は、早くて小さくて、鬼には視認出来ないはずです。

 

 見事に、鬼の口にインしました。大福を食べました。


「おい、東村! てめ~、今の大福か!!??」

姉御も視認出来ていました。

「そうですね。インですね」

力量が足りなかったピッチャー東村は、どこまでも冷静でした。

 険しい表情で動きを止めた姉御が、俯いて震え出します。

「この野郎……」

 そして、聞いたことのないような低い声を出したかと思うと、勢いよく遥か後方の地面に跳んで下がります。それは、逃げたのではなく、鬼との距離を取ったのです。そこからものすごい速さで走り寄ったかと思うと、鬼の鳩尾にドロップキックをかましました。


「おら、大福出せこの野郎! リリースしろ!!」

長距離助走ドロップキックの衝撃で、鬼の口から、ポンッと大福ねずみが飛びだしました。

「……うわ~、結構奥まで入っちゃってたよ~」

空中で大福ねずみをキャッチした姉御の後方で、東村が呪文を唱えました。


 ドロップキックでへこんでいた鬼の鳩尾辺りが、ボフンッと盛り上がり、口から煙を吐き出し始めました。ピンポイント鳩尾と、大福ネズミが体内に置いて来た東村の葉っぱの相乗効果で、鬼は前のめりになって苦しんでいます。

 

 姉御が、そんな鬼の角をむんずと掴んで、まさかの追い打ちを仕掛けます。

「うらぁー」

四つん這いでつっぱっている両肩関節に、ニーキックを一発ずつ食らわせて関節を破壊した直後、顎にヒジをくらわせて、仰向けにダウンさせました。そして、鬼の太い首に跨り、両腿で首側面を圧迫しながら、無理矢理馬乗りになりました。倍近い体格差を、事前の肩はずしと首への圧迫で無効化しています。

「マウントだにゃ。人間が鬼のマウント取った」

ブチ白が興奮して叫びました。


「はいっ、はいっ、はいっ、はいっ、はい――――――っ!」

鬼の顔に、連打が浴びせかけられます。よく見ると、姉御は拳ではなく、掌底をかまして、正確に顎を薄く狙っています。脳を揺らす攻撃です。


 脳震盪を起こした鬼は、そのまま動かなくなりました……。


「……え、ちょっ、えぇっ?」

 鬼のむごい倒され方を見たロン毛は、驚きと動揺から、精神も肉体もフォールを待つのみの状態で立ち尽くしています。

「終わりじゃねぇぞ――――! 行くぞーこらー!」

般若の形相をした姉御が、ロン毛に向かって走り出します。

「でる、でるんじゃないの? あの技が~~~~!」

大福ねずみはわくわくしました。姉御が締めに出すであろうプロレス技に、心当たりがあったからです。


「ウラカン ラナ インベルティダ!!!!!!」

(ロン毛のターン)戦意喪失で立ち尽くす→姉御に走り寄られる

(姉御のターン)前方からロン毛の両肩に跳びのる→がっちりロン毛頭を両足で固定する→即座に自分の頭の重みを利用して勢いよく後ろに反る→相手を前転させつ

つロン毛の股に潜り込み足を取る→完成

 

それは魔法のようでした。

 前方正面から跳び付いたはずの姉御が、あっという間に、仰向けで地面に倒されたロン毛の上に馬乗りになっていて、ロン毛の両足を両腕で頭の方へ折り曲げていたのです。


 ロン毛は、ぃぃぃぃぃぃぃ、と、おかしな音を出しながらフォールされ続けたのでした。

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