親密度♥♥♥♥のオイラたち

44話 座敷わらし狙われる

「大変ですよ、起きてくださーい。早く早く! クライシース!」

 毎度夜更かしをして朝が遅い姉御宅のドアを、東村が叩きまくって騒いでいます。普通なら平気で無視をかます姉御も、東村の珍しい大声に驚いて、飛び起きて扉を開けました。

「あぁ、居て良かった! 大変なんですよ!」

「それは聞こえたよ、うるせぇ、クライシースッ!」

イラついた姉御が、脛を蹴りつけました。


 痛みで少し落ち着いた東村は、焦った様子で話し始めました。

「座敷グレイさんが、前のお屋敷の人に見つかってしまったようなのです。実はちょっと前から、落ちぶれてきた田舎の旧家が、逃げた座敷わらしを探しているという噂はあったのですが……見つかることもあるまいとスルーしていたのです。しかし、どこぞの能力者に行方を探らせたようで、今、ここに向かっているみたいです。能力者の気配が近づいて来ています」


「今かよ~! クライシスは、お前のスルーのせいだろうが~!」

 寝床で、お気に入りのマイクロファイバータオルで温まったまま、大福ねずみが突っ込みました。

「くそー、日本中の能力者全員死なねぇかな、今すぐ」

姉御は、中学生辺りが繰り出す、明日学校火事で休みにならねぇーかな的レベルの呪いを口走りました。

「そうですね」

東村も同意しました。

「お前も死ぬ方だろ、馬鹿能力者~!」


 下らない突っ込みを二度も入れさせられた大福ねずみは、ようやくマイクロファイバーの幸せから抜け出して来て、姉御の肩へよじ登りました。

「とにかく、今すぐ作戦を立てないとな! 座敷グレイの部屋へ移動するぞ」

 姉御は、着古されたよく分からない柄のパジャマの上下で、寝癖のままサンダルを履いて外に出ました。上着は、お腹に優しいパンツにインで、乙女の恥じらいなどありません。


 座敷グレイの部屋へ移動して、作戦会議が始まります。

「嫌だよ――、僕は嫌だよ! 絶対に帰らないよ――!」

「大丈夫だ。きっと地球に残れるよ」

姉御は寝起きなせいもあって、UFO的な勘違いをしています。


「さぁ、下らないボケはここまでです。本当に時間がありません。そこで、私に提案がありますので、あなたたちは大人しく言うことを聞いて下さい」

 東村は、まともな案を出せるのは自分だけだと、自覚していました。むしろ、全員がそう思っていたので、強引な物言いにも素直に頷いて見せました。


「能力者が探知したのは、実は私の家来だったことにします。信憑性を増すために、ブチ達ではなく、座敷わらしと同じ人型の家来が必要です。で、その役は姉御さんにお願いします」

急いでいるので、一気にしゃべって無理くり姉御にお願いしました。

「え、何? え、いいけど。何?」

案の定、姉御は理解していませんでした。


「私のタケミ一族が使役するのは、主に毛の生えた獣です。姉御さんを、毛の生えた人型の獣に仕立てるので、お願いします。あと、座敷わらし君は、何か、前の御屋敷で特別なことをされていませんか? お札を飲まされたとか、印をつけられたとか。居場所がばれたのは、それのせいだと思うのですが」

 

 姉御が返事をする前に、座敷グレイに話を振ってしまいました。完全に、姉御の自由意思を奪う作戦に出ています。

「えーと、手首にタトゥーなら入れられたよ。漢字が芸術的でかっこいいから、そのままにしておいたんだ」

座敷グレイは、ちょっと自慢げに手首を見せてきました。

「それだよ、バカ! タトゥーじゃねぇよ。GPS付きの家畜の焼き印みたいなもんだろ~」

大福ねずみが強めに突っ込むと、座敷グレイが涙目になりました。

「酷いよ、家畜だなんて。こんなもの、取ってやる」

座敷グレイは、タトゥーもどきに爪を立て、一気に破り取りました。皮膚剥がしの大技です。更に、剥がした五百円玉だいの皮膚片を、勢いよく畳の上に叩きつけました。


「……オイラちょっと、お前のこと見直したわ~漢だわ~」

大福ねずみは、痛怖い大技に感心しました。

「おいおい、のん気なこと言ってないで、そのGPSどうにかしろよ! 燃やせ、消せ!」

姉御は焦りました。

「そんな簡単に燃えませんし消せませんよ! 呪がかかっています。解除するには手順が必要なんです!」

東村も焦りました。


「オイラにいい考えがある。貸してみ~」

のん気な声を出した大福ねずみは、床に降りて素早く呪皮膚を拾うと、今度は東村に駆け上りました。

「おい、どうするんだ!?」

姉御が話し終わるより早く、東村の肩からジャンプした大福ねずみは、姉御の口に呪皮膚を放り込みました。

 

 姉御は、飲み込みました。


「大成功~!」

 姉御は、停止しました。

「大丈夫だよ、姉御。オイラも前に妖怪の小指食っちゃったことあるけど、お腹ぴーぴーになんなかったよ~」

 

 のん気な大福ねずみの情報は、何の慰めにもなりませんでした。

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