35話 幸せのふわふわ
「見ていない一階の部屋は、後二つですよね。折角ですから、今から会えませんか?」
東村は、Cマーブルズへの挨拶のついでに、人外専用の一階をコンプリートする気満々でした。
「不思議な鼻ほど面白くは無いけど、いいよ」
姉御の許可が出て、東村は高々とガッツポーズを天に向けて繰り出しました。よほど楽しみにしていたようです。
一〇一号室 座敷グレイ(座敷わらし 見た目 宇宙人グレイ)
一〇二号室 りょうちゃん(清楚な美人 ときどき 怨霊)
裏庭の祠 Cマーブルズ(管狐五匹)
が、判明しているお友達でした。
連れだって、まだ未知の部屋である一〇三号室の前に立ちました。
「ちょっと下がってくれ」
姉御は、皆を三歩程下がらせました。
「な、何だよ~、凶暴なもんでも出て来るのかよ~」
びびった大福ねずみは、姉御の肩へしがみついて身がまえます。そんな様子を見た東村一行も、身を引いて身構えました。
「開けるぞー」
一同の緊張など無視した姉御は、扉の中に向かって叫んでから、一気に扉を開きました。
「にゃわわわわわわわ」
ブチ黒白が、悲鳴を上げました。
開いた扉から、わっさりもっさりころころふわふわと、沢山の白く丸い毛の塊が転げ出て来ました。テニスボールより一回り小さいぐらいで、ふわふわと宙を浮いています。
「こういう毛玉がいっぱいいるから、中はふわふわだ。真冬はちょっと幸せな気分になれる」
ふわふわっと中に戻っていく毛玉達を目で追いながら、東村が目を見開きました。
「これは……ケ、ケサランパサランです、ね。ですよね!? 白い毛の塊のような生き物で、持っていると幸せになれると言われています。でも、正体も生態も、良くわかっていません。こんなに沢山、いったいどこで? 先程のCマーブルズもそうですよ。二つとも、大金を払ってでも手に入れたいという者は少なくないです」
東村は、興奮気味に姉御に詰め寄りました。大福ねずみとブチ黒白は、浮かぶ毛玉に喜んでじゃれついています。
「Cマーブルズは、外出した時に方々で突然絡まってきて、家まで付いてきたからレゴラを作ってやったんだ。毛玉は、カラスにいじめられている一匹を助けてやって、避難場所として部屋を使っていいと言って入れてやったら、常に大量の毛玉が出たり入ったりするようになった」
姉御の説明を聞いて、東村は余程驚いたようで、口を開いたまましばらく姉御を見つめていました。そして、気を取り直したよう話し始めます。
「先祖代々、管狐を大切に飼いならす一族もいれば、幻のケサランパサランを生涯かけて探し回る者もいます。こんなに簡単に、手に入れるとは。
私も、子供の頃から、ケサランパサランをずっと探していたのですよ。手に入れれば、辛くても悲しくても、幸せな気分になれるのじゃないかと」
言い終えると、東村は何か思い出しているのか、少し悲しそうな顔を見せました。力が抜けて下がったように見える肩を、姉御がぽんっと叩きました。
「良かったな、見つかって」
そう言って笑うと、大福ねずみやブチ黒白の方へ行き、一緒になって毛玉で遊び始めます。
その様子を見た東村の鼻から、気の抜けたような笑いが漏れ出しました。
「好いて好かれて……理屈はどうでもいいのかもしれませんね」
それは、ため息のようなつぶやきでした。楽しそうなみんなの声を聞き、東村はだんだん可笑しくてたまらなくなってきました。
「あはははは! イェーイ ハロー ハッピー!」
気持ちを抑えきれなくなった東村が、叫びながら部屋に突入ダイブをかましました。中から、メニメニハッピーという叫び声が聞こえてきます。
「お、おかしくなったぞ~」
大福ねずみは、主人が乱心した猫に驚いた視線を送りましたが、ブチ黒白にも意外だったようで、同じような驚いた顔で部屋の中を見つめています。
「楽しそうだぞ、お前らも行け!」
姉御が問答無用で、放心しているアニマルどもを一匹ずつ中へ放り込みました。
「ま、まて、姉御~~~~オイラはまずいって~~~~」
ふわふわの中で遊びまくる人間と猫の中で、毛玉に紛れて右も左も解らないねずみは、命の危険を感じていました。
「これからも、姉御さんと末永くハッピーになるんだー。ヤッホー!」
東村の声が聞こえ、大福ねずみは怒りました。
「何だと、この野郎~! 求婚か、求婚なのか~~」
小動物の瞬発力で、ケサランパサランを飛び移り、東村顔面にダイブしました。
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