34話 Cマーブルズ

「蛇じゃ、にゃいー」

ブチ黒が首を傾げて、姉御の足に巻き付いたモノを見つめています。

 よく見ると、白くて細長い体は、白いほわほわな毛で覆われていました。頭の部分は、お目目ぱっちりで鼻が尖っていて、狐のような顔をしています。胴体が異様に長いですが、小さい前足と後ろ脚も付いていて、しっぽは筆の先のようにすぼまっています。レゴラの穴の数と同じく、全部で五匹いるようです。


「あぁ、管狐ですね」

東村にはこの生き物に対する知識があるようで、解説を始めました。

「霊能者のような者達が、使いとして使役する存在です。私の家来の、ブチ黒とブチ白に近いですね。でも、管狐は普通の生き物ではなく、主人の命令で憑依した相手に、不幸をもたらすことが出来ると言われています。後は、主人に富をもたらすとも、すごく増えて富を食いつぶすとも聞きますね」

 物騒な説明を聞いたブチ黒は、困ったような顔で管狐を見つめました。ブチ白は話を聞いていなかったのか、ブラブラ揺れるしっぽにパンチを繰り出して遊んでいました。見た目は愛らしいですが、東村の説明を聞くと、怒らせない方が良さそうな生き物のようです。


「どうでもいいけど、何だよ、さっき姉御が叫んだ、『しーまーぶるず』って」

 大福ねずみは姉御の呪文が気になって、東村の解説は頭に入りませんでした。むしろ、りょうちゃんとのファーストインパクトを乗り越えた後では、ただの可愛いにょろほわにしか見えません。

「こいつらの好物が、チャイナマーブルだからだ。だから、約してCマーブルズ」

得意気な顔を見せた姉御が、ポケットから何か取り出しました。

「だから、チャイナマーブルって何だよ~」

 姉御は、取り出した袋のようなものを、大福ねずみの近くに掲げて見せました。それは、チャイナマーブルと書かれた袋に入った、やたらカラフルでまん丸な飴玉のようでした。


「あぁ、懐かしいな……チャイナマーブル。またの名を、変わり玉、ですね。舐めているうちに、色が何度か変わる、不思議で面白い飴玉です。子どもの頃に舐めた記憶があります。ちなみに、すごく硬いです」

東村の言葉に、姉御が大きく頷きました。

「飴? ホントに好物にゃの?」

ブチ白が、痛いところをつきました。

「本当だよ。こいつら、チャイって鳴くんだぞ。ほら、鳴いてみろ」

「チャイ」

本当に鳴きましたが、ブチ白は可哀想な物を見る目で、姉御を見ました。泣き声イコール好物という思考で、動物に飴を与えた姉御の行動は明らかに短絡的でした。


 ブチ黒が無邪気に、飴あげてー、と言うので、姉御は嬉しそうに飴を五つ、放り投げました。それまでじっと姉御に巻き付いていたCマーブルズは、シュッと素早い動きで空中を飛び、それぞれ飴をゲットしたようです。跳ねたというより、空が飛べるようです。

 そして再び姉御に巻き付くと、一斉にガコッとチャイナマーブルを噛み砕きました。


「飴、噛んじゃってるじゃ~ん。飴の色変わっても分かんないじゃ~ん」

大福ねずみが突っ込みました。

「尋常じゃない音がしましたね。飴をかむ音のレベルを超えています。そもそも、舐めながら色の変化を楽しむもので、噛んではいけない硬い飴ですよ」

東村は、歯は大丈夫でしょうかと、Cマーブルズを心配げに見つめました。

「Cマーブルズは、そんなに柔じゃないぞ。ほら、見てみろ、色が変わってきた!」

 姉御があまりに楽し気に指さすので、飴は噛んじゃっただろうという突っ込みを抑えて、皆でCマーブルズを見つめました。精一杯の姉御への優しさです。


「あっ……」

皆が何事かに気付き、一斉に声を上げました。何と、Cマーブルズの鼻が、次々とカラフルに変化しています。

「ほらな、チャイナマーブルを食べると、色が何度か変わる、不思議で面白い鼻です」

姉御が得意げに言いました。


「さっきの東村の説明と違っちゃってるだろ~、鼻なんか出て来てねーよ~」

大福ねずみの叫びをよそに、東村一行は面白い鼻に夢中でした。期待の大型毒舌突っ込みブチ白も、面白い鼻に興味津々で撃沈のようです。


 飴と鼻の些細な相違は気にせず、Cマーブルズに東村一行と大福ねずみを紹介した姉御は、まぁ、仲良くやってくれ、と締めくくりました。

 

 その後、何か辛いことがあった者は、こっそりチャイナマーブルを持ってレゴラに向かうようになったということです。癒しで面白い鼻ですが、管狐としては完全に持ち腐れていました。

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