りょうちゃんと♥なオイラ

30話 りょうちゃんと

「知っている所へなら、一瞬で移動できるわ」

すぅっと周りが白くなったと思ったとたん、最寄りの駅のそばに移動していました。

「すごい、便利~」

案外楽に、姉御のもとへ辿り着けそうです。


 流石に別荘は隣の県なので、りょうちゃんの知っている場所ではありませんでした。知っている中で一番近い駅まで行って、後は線路を伝って最寄駅まで移動し、そこからは地図通り進むことにしました。幽霊特権で、電柱より遥か高いところをふわふわ飛んで進みます。快適な乗り心地のわりに、移動スピードは速いようでした。


「そういえばさ、りょうちゃんは姉御とどうやって出会ったの?」

 大福ねずみはりょうちゃんをすっかり気に入ってしまい、打ち解けた気持ちになり、りょうちゃんもまた、すっかり慣れた調子で接しているようでした。

「私ね、生きてる間は……随分酷い目に遭っていたのよ。体も心もボロボロで、最後には自殺してしまった。それから怨霊になって、今度は私が色んな人に酷いことをしたみたい。よくは覚えていないのだけれど」

りょうちゃんの声は、少し悲しそうでした。

「それで、東村に祓われたの?」

りょうちゃんが頷きました。


 大福ねずみは、りょうちゃんがこの話をするのは辛いのかもしれないと思い、先を促すことはせず、ただ黙っていることにしました。

「東村さんって、きっとすごい人なのね。私は家から弾き飛ばされると同時に、恨みの気持ちとか、そういう悪い塊も一緒に、ほとんど消されてしまったみたい。そうしたら私は、もう人の姿は保てなくなっていて、知らない道の片隅で、黒いドロドロになってどんどん溶けて消えて行った。そうなると、ただただ悲しくて泣くことしか出来なくて……そこに姉御さんが通りかかったのよ」


 大福ねずみは、道に転がる黒いドロドロが、シクシク泣いている所を想像しました。ダッシュで走り去るというコマンドしか出てこないような光景です。何とかうめき声を我慢していると、りょうちゃんが続けます。

「姉御さん、最初に何て言ったと思う?『あぶねっ、踏むところだったろうが、この野郎』って、怒鳴ったのよ」

りょうちゃんは、当時を思い出しているのか、少し笑いました。

「姉御、流石~……」

大福ねずみは、しょっちゅう聞かされている姉御の怒鳴り声を、容易に想像することが出来ました。


「怒鳴った後、それでも泣いている私を見て困った顔をした姉御さんは、じっと話を聞いてくれたのよ。そして、すっかり話を終えて、もうすぐ全て消えてしまいそうな私に向かって、慌てたように一生懸命に話しかけたの。今でもよく覚えているわ。


 『ちょっと待てよ、消えるな、思い出せ。辛くて悲しいまま消えるな。えーと、何かあるだろ、生きてた時、楽しかったこととか、嬉しかったこととか』


 あんまり必死に言うものだから、釣られて私も真剣に考え込んで、旦那と出会った頃、美人だ、綺麗だって言われて、すごく嬉しかったことを思い出して伝えたら、


 『その時どんな服着てた、髪型は、化粧はどうだ。ほら、しっかり思い出せ』


って、また怒鳴るものだから、私も怒られているみたいで夢中で思い出したの。そうしたら、どうしてかしらね……今のこの姿に戻ることが出来たのよ。それから、アパートに住まわせてもらっているの」


 大福ねずみは、先程、オーケストラを聴きに行ったと楽しそうに話していたりょうちゃんを思い出しました。姉御に話すと、楽しそうに聞いてくれるということも。楽しそうなりょうちゃんを見て、姉御は本人以上に喜んでいるのじゃないかな、と思いました。

「良かったね、りょうちゃん」

「えぇ、とても」

りょうちゃんは、とてもよい笑顔をしています。


 それから大福ねずみは、自分がどうやって姉御の部屋に居座ったかや、いつどんなケンカをしたかなど、面白おかしく話しました。

 りょうちゃんは、声を出して笑いながら聞いてくれました。思いがけず話が弾み、楽しい道行です。


 そして、二人は道を間違えました。

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