25話 恋愛って難しい

「ベタなネタはもういいからさ~、レッツ デパガメッシュ」

東村も同意しました。


 姉御とインテリもやしは、茶卓を挟んで向かい合って座っています。早速、ブチ黒スピーカーから、音声が再生されました。

 『ショックな話だろうけど、本当のことを話す。俺達二人は、付き合ってない。兄さんが騙しただけだ。俺は、あんたと付き合っているなんて言ってないし、ずっと付き合っていたつもりもない』

姉御は、真実を告げることにしたようです。

 『どういうこと?』

 見た目だけインテリなもやしは、なかなか理解できないようでした。困惑するインテリもやしに、易しい言葉で、姉御兄の悪行を説明し続けています。


大福ねずみは、姉御に同情しました。

「よく考えたら、姉御は悪くないじゃんか~。兄ちゃんが変態極悪で、インテリもやしが馬鹿だっただけだろ~」

東村も頷きました。

「その通りですね。悪いのは兄だ、お互い馬鹿だったなで済めば簡単なのですがね」


 ブチ黒スピーカーから、すすり泣きが聞こえてきました。

 『そんなの、酷いよ……。僕は、君があんまり消極的だから、君の口から別れたくないって言ってほしかっただけなのに。気持ちを試しただけだったんだよ』

勿論、姉御の鳴き声ではありませんでした。

 グズグズと鼻をすするインテリもやしに、姉御がティッシュを渡しています。イラつきを我慢しているのか、眉毛をピクピクさせていましたが、十分程グズグズが継続すると、猛烈に頭を掻き毟り始めました。


 『そうだな、酷いよな。兄が迷惑をかけてすまなかった。兄に直接文句を言ってくれて構わないが、その時は、言霊で殺すくらいの気持ちで頑張れ』

 姉御は、明らかに話を切り上げようとしています。じゃあ、そういうことで、と立ち上がろうとしましたが、インテリもやしが姉御の顔をじっと見つめるので、諦めたように再び座りなおしました。


 『重苦しい沈黙』

ブチ黒がしゃべりました。


「うるせ~よ。状況解説いらねぇよ~」

大福ねずみが切れると、ブチ黒は、意外そうな顔をしました。

「ブチ黒は、気が利きますからね」

突然画面が、ブチ白のアップに切り替わりました。白い方も、アピールしているようです。

「ブチ白もおりこうですよ」

東村は、家来に平等でした。

「精が出ますね」

おっさんと猫の茶番にうんざりした大福ねずみは、突っ込むことを放棄しました。


 『事情は分かったけど、実際僕たちは仲良く過ごしてきたでしょ? 僕は、君のこと特別に好きだけど、君はどうなの? 僕のこと特別に思うようになったんじゃないの?』

インテリもやしの発言です。これはおそらく、姉御が恐れていたであろう質問でした。


 『姉御さん、女性にあるまじきしぶい顔』

ブチ黒の解説に、今度は同意するしかありませんでした。


 姉御が、ため息を吐きました。

 『悪いけど、特別に好きになったりしてないよ。そもそもお前も、どうして俺を好いたか理解できない。よく出かけようって誘われたけど、ほとんど断ってただろ。具合悪いとか嘘だからな。体も弱くないからね? デート打率の低さで何かおかしいって思わなかったのか?』

 姉御は、穏便に済ますという望みを捨てたようでした。


 大福ねずみは、姉御の言い回しに吹き出しそうになるのを必死で堪えます。

「恐ろしい程のポジティブもやしですね」

東村の一言で、吹き出してしまいました。

「笑わすなよ~! でもさ、真面目な話、恋愛って片方の思い込みで成り立って見えちゃうもんなんだな~」

大福ねずみの言葉に、東村は一瞬、悲しそうな顔をしました。

「片方の思い込みか……そうですね。頭でっかちで、現実を見ていなかったのでしょうね」

「やっぱり、愛だの恋だのは難しいな~」

 東村は、考え込んでいる子沢山の三十郎ねずみの姿を見て、あらためて愛情を育む難しさに思いをはせました。


 『そんな、嘘だなんて。僕と会いたくなかったんだね。僕、馬鹿みたいだ。本当は嫌われていたなんて』

 鏡の中では、ポジティブもやしがネガティブもやしになっていました。

 『いや、嫌いにもなってなかった。面倒だから行かないって、正直に言うのは悪いかと思って嘘ついた。そもそも、ほとんど会わないし会話もしないから、おかしな勘違いが続いたんだよ。お前は被害者ぶってるけど、俺のこと知らないし、知ろうともしてないだろ。それで特別に好きだとか、理解出来ん』

明らかに、姉御はイライラしていました。

 『僕は、ちゃんと本気で好きだよ。好きだから、具合悪いとか、君の言うことを尊重して聞いてきたんじゃないか。嫌われるようなことをしないようにしてきた』

ネガティブもやしが、珍しく大きな声を出しました。


 上体を浮かして姉御を怒鳴るインテリもやしの姿を見た大福ねずみは、姉御が責められているようで不愉快な気持ちになり、ぎっと奥歯を噛みしめたのでした。

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