親密度♥のオイラたち

15話 別れと混乱

「もうさー愛とか言うやつ死んでくんねーかなー」

相変わらず、愛について考え続ける毎日の中で、姉御は世界を敵に回すまであと一歩の所まで来ていました。

「愛って、遺伝子的にアプローチすると、自己の子孫を残すチャンスを増やす、いわば麻薬のような役割に思えるけれど、個の生殖とは切り離した部分で考えると、人間という種を存続させるための利他行動のようにも……」

大福ねずみは、崩壊寸前で、奇跡的にジーニアスな感じになっていました。

 よく解らないことをペラペラしゃべる大福ねずみを見て、姉御は危機感を覚えました。


「やめろやめろ! もうちょっとソフティーな疑問から入るべきだ」

「じゃあさじゃあさ、恋話(コイバナ)する~?」

直後、大福ねずみの至近距離に、姉御の頭が降ってきました。突然の、迷いのない頭突きです。

「あぶねっ」

「す、すまん……ちょっと取り乱した」

 姉御は、床から5cmのところで我に返りました。明らかに、女の子のノリに拒絶反応が出ています。

「姉御、女の子でしょ~。恋とか結婚とかに憧れはないわけ~?」

「超憧れています!」

聞き返すまでもなく、姉御、全身全霊の嘘です。その証拠に、目玉が零れ落ちそうな程に、瞼が全開になっていました。


「ラブリーエンジェル女の子脳連想ゲームチェーック!」

 大福ねずみは、突然嫌なテンションで、下らないゲームの始まりを宣言しました。

「かかってこいやー!」

姉御エンジェルは嘘をついた手前、良く分からないゲームを受け入れるしかなく、正座して大福ねずみを睨みつけました。

 大福ねずみの出題が始まります。


「第一問、甘酸っぱい、と聞いて連想するのは?」

「梅ミンツ」

「第二問、告白、と聞いて連想するのは?」

「実名暴露本」

「第三問、ひと夏の思い出、と聞いて連想するのは?」

「稲川淳二」

「第四問、つまみ?」

「枝豆?」

「いで?」

「らっきょ?」


 大福ねずみは、途中でやる気が無くなりました。初恋だとか、ときめきだとか、期待した答えは返ってこないのに、終始、姉御の顔は真面目で自信満々でした。これは、オイラより重傷だ、と不憫に感じます。

「姉御の脳みそ、ダークマターなんじゃないの?」

 気の毒そうに宣告する大福ねずみの言葉に、姉御が目を見開きました。

「だ、ダークマター脳……ち、ちょっとカッコイイな……」


 大福ねずみは、正座する姉御に膝から飛び上がって、顎に打撃をくらわせる技をかましました。ヒット目前で、姉御の口から緑茶毒霧が噴射されます。

「目がぁ、目がぁ――――」

まともにくらった大福ねずみは、目をおさえて転がりました。

「うるせぇーうるせぇー、バルスバルスバルス――――」

二人の間に、緊迫した空気が流れます。

「闇属性め――、ちょっと心配してやってるのに~~」

大福ねずみが目つぶしドロップキックをかまそうとした時、姉御の携帯電話が鳴りました。

「ちょっとタイム。メールだ」

 ケンカの空気にも慣れたもので、さっさと通常運転に切り替えた姉御が携帯を開きました。楽しいケンカを邪魔された大福ねずみも、誰だよ、と覗き込みます。


インテリもやし 題名「突然なんだけど……」

        本文「別れよう」


「パンナコッタ!」

メールを読み終わったであろう姉御は、微動だにしませんでした。

「あ、姉御……あんた……彼氏の携帯の登録名、インテリもやしにしてたのか」

 意図的につっこむ所を間違えてみましたが、姉御は突っ込みも返さず動かないままで、表情までもが固まったままです。

「大丈夫かよ~姉御~」

大福ねずみは、固まってしまった姉御の肩に登りました。

「姉御がふられたってことか……あのインテリもやしに……」

大福ねずみの体はブルブル震えました。そして、姉御の耳元で叫びます。


「あの野郎…笑いが止まんないよ~~!」

ねずみに優しさはありませんでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る