14話 結局こいつかよ

「急なお呼び出しとは、何かありましたか?」

 ゾンビ祭りが冷めた頃、結局、東村を呼び出すことにしました。

「スコップを買いに行きそうになって、お前を呼んだ」

愛を探し求めた結果、スコップ購入に至ったことを反省し、やはり第三者に教えを請うことにしたのです。

「東村には無理だって、鼻毛出てるし」

全身毛だらけの大福ねずみは言いました。やる気の無い大福ねずみは無視して、姉御は早速、東村に尋ねます。


「愛って何かね?」

とにかく答えを求めるあまり、質問はシンプルで直球でした。そして、詳しく説明する気も無いようです。

 東村は目を閉じて、静かに口を開きました。

「愛を語るのは、ちょっと私には難しいですね。ねずみの三十郎の話と関係があるのですか?」

「そりゃ難しいよな、好きな食べ物が、結婚も束縛も望まない女だもんな」

大福ねずみは、まっとうな突っ込みをしました。

「それはそうですが、子どもを作りまくったねずみ君よりマシでしょう」

 姉御は、最もだと頷いています。大福ねずみは攻撃をしかけようとしましたが、ある重大なことに気がつきます。


「東村~お前、オイラの言葉が分かるの~?」

東村は微笑みました。口の両端が持ち上がったので、鼻毛が一割増しで顔を出しています。

「初めから聞こえていましたよ。ちょっと警戒して、聞こえないふりをしていました。ねずみ君には特殊な事情があるようですから、縁がある者に、声が聞こえるのかもしれませんね」

姉御と大福ねずみは驚いてしまい、そのまま黙りました。思いがけず大福ねずみとコミュニケーションが取れる人間が出現し、正直どう反応したものか、戸惑ってしまいます。


「そ、そういうことは早く言えよ~」

 大福ねずみがそう言って、東村の手にしっぽムチをかまします。東村は、素直にすみませんと謝りながら、しっぽムチの二発目をかわしました。確かに会話が成り立ち、交流している様子です。

 そんな二人を見た姉御は、少し息苦しい気持ちになりました。

「そうか……大福としゃべれる人間は、他にもいるのか。俺だけ特別ってわけじゃないんだな……良かったな、話せる相手が増えて」

力の無い声でそう言うと、茶でも入れるか、と立ち上がります。


 大福ねずみは、元気のないような姉御の声と、とぼとぼ台所へ去って行く背中を見て、少し東村にイライラしました。

「お前が変に隠すから、何か良く分からないけど、嫌な感じだぞ~」

「それは、申し訳ないことをしましたね。悪気はありませんでした」

 素直に謝る東村にそれ以上何も言えず、姉御の態度が気になってそわそわする大福ねずみは、ただただ机の上を歩き回りました。


「それで、どうするのです?」

東村が、動き回る大福ねずみを目で追いました。

「どうするって何が~?」

話しかけられた内容に心当たりがない大福ねずみは、立ち止まって東村へ顔を向けました。

「君の言葉を理解する人間が、ここにもいるわけです。しかも、前世を見たり出来て、色々力になれそうですよ。私のところへ来ますか?」

 一瞬、何を言われているのか分かりませんでしたが、どうやら一緒に暮らすことを提案されているらしいと悟った大福ねずみは、大きな声を出しました。


「いかねーよ、何でだよ。姉御といるよ!」

不機嫌な大声にも動じずに、東村は続けます。

「なぜです。良い条件でしょう? 言葉が通じれば、姉御さんでも私でも、どちらでもいいでしょう? きっと、私とも仲良くなれますよ」

「よくねーよ。姉御とは何してても面白いんだよ。姉御が気に入ってるからここにいるんだよ、しゃべれれば誰でもいいわけねぇだろ、馬鹿!」

 そう言って、ふんっと鼻息を荒くする大福ねずみからは、少し開いた襖の陰で話を聞いている姉御の姿は見えていませんでした。ちょっと前からその姿を目の端で捉えていた東村は、大福ねずみの返答を聞いて満足げな笑顔を浮かべます。


「まぁ、私は猫派なので、ねずみを飼う気はありませんけどね」

楽し気な東村の一言に、大福ねずみが切れました。

「何なんだ、この野郎~」

飛び上がって、しっぽムチで鼻先を狙います。

「カニさんキャッチ」

空中で、二本指でキャッチされました。馬鹿みたいな技名が、よけいに大福ねずみの怒りを増幅します。

 大福ねずみが怒って、帰れ帰れとうるさいので、東村は苦笑して立ち上がりました。


 帰りがけに、玄関先で見送る姉御が、東村の肩をぽんっと叩きました。

「お前、いいやつだな」

東村は何も言わず照れ臭そうに笑うと、手を上げて去って行ったのでした。大福ねずみには嫌われましたが、姉御の信頼を得たようです。


 愛とは何か教えてもらうという当初の目的は、すっかり忘れ去られていましたが、メル友から始まった東村と姉御の友情は、一歩前進しました。

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