16話 そんなことってある?
インテリもやしにふられた姉御は、大福ねずみの大爆笑を聞いても動きませんでした。
「姉御は混乱しています。エコナ~」
「エスナだろ」
ようやく、姉御がしゃべりました。素で、ゲームの回復呪文を間違えた大福ねずみは、突っ込みをスルーしました。
「やっぱりショックなの~?」
「いや……」
姉御は首を振りました。
「もしかして、想定内?」
「いや……」
また否定した姉御は、突然立ち上がると、坐禅を組みました。
「何それ~無になるとかそういう感じ~?」
「違う」
流石の大福ねずみもちょっと心配になり、姉御の膝に乗りました。
しばらくじっとしていましたが、黙って動かないだけなので飽きました。
「あ~ね~ご~」
「うーるせぇな」
姉御の顔は般若でした。煩悩の塊です。とても何かを悟れるような表情ではありませんでした。
「座禅の意味あるんですか~?」
大福ねずみは、姉御の足の親指を、曲げてはいけない方に引っ張りました。
「お、折れるから」
姉御は、大福ねずみを鷲掴むと、腕を大きく上下に振ります。
「フリーフォール!」
「いや――、な、何か出ちゃう~~」
手に付いたねずみウンコを拭いながら、少し冷静になった姉御が話し始めました。
「あれだよ、坐禅組んで、ポクポクポクポク、チーン、って」
「……」
大福ねずみは、全く意味が分かりませんでした。
「トンチだよ。閃くだろ、色々と」
「一休さんかよ! 顎の割れたサムライ呼んで来い!」
謎は解けましたが、意味はわかりませんでした。ただ、相当混乱していることは伝わってきます。
「そんで、何か閃いたわけ~?」
「いや、今回は失敗だった」
姉御の中では、メジャーな閃き術のようでした。大福ねずみは、そもそも姉御が何を閃きたいのかわかりません。普通なら、振られた理由を考えたりする場面ですが、そんなことに悩むような性格とは思えませんでした。むしろ何か嫌な予感がするので、悩んでいる理由などわかりたくもありませんでした。
「……で、何がわかんないわけ? ふられた理由~?」
結局、あまりに取り乱している様子に同情して、聞いてしまいます。。
「いや……、付き合った覚えがない」
「はぁ?」
大福ねずみは、予想外な答えに対応できず、後ろ足で耳をほじりました。
「だから、付き合ってた覚えがない!」
「きゃ――や~め~て~!」
大福ねずみは、恐れおののきました。何て酷い姉御だ、この姉御は、と思いました。取り乱しているのも頷けます。付き合ってもいない男から、別れようというメールをもらうとは、ある意味屈辱です。しかし、送った本人のほうが何倍も屈辱、恥辱は間違い無しです。どちらの身になってみても、悲劇しか想像出来ません。
大福ねずみの悲鳴を聞いて、姉御もビビリました。
「ど、どうしてこうなった。な、なんて返事すれば……いっそ正直に……」
「モヤシ……気の毒に……」
大福ねずみは、インテリもやしの顔を思い浮かべました。
「あのモヤシ……笑いが止まんねぇ~~~~」
やっぱり、ねずみ脳で同情は無理でした。
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