11話 愛とは
「パンナコッター! パンナコッタパンナコッタ――!」
大福ねずみは、朝から平常心を無くしていました。寝ている姉御の顔面の上で、セルフトランポリン状態です。
「い、痛ぇ――何かくい込んで痛ぇ――」
姉御は、叫んで起床しました。
顔面から飛び降りた大福ねずみは、乱心したように畳の上をぐるぐる走り回っています。
「何なんだよ、馬鹿!」
姉御に怒鳴られて、正気を取り戻した大福ねずみは、つけっぱなしにしてあったパソコンの前に向かいました。
「あ、お前、エロサイト見てたな!」
怒られても無言のままです。
ただじっとパソコンの前に座り、震えています。姉御は、とりあえずエロ全開のブラウザを閉じました。
「……た、勃たないんだよぉ~~~~」
大福ねずみが、悲痛に叫びましたが、姉御は無視しました。しかし、何度も「勃たない」を連発されて、プチ切れして眉をしかめました。
「うっせーなぁ、知らねぇよ!」
再び怒鳴られた大福ねずみは、部屋の隅に移動し、壁際で丸まりました。本人的に大問題のようで、静かに泣いています。姉御は相当うざがりながらも、哀れな丸い背中を見て、なんとか励まそうと考えました。
「あれだ、あれ。ねずみの雌じゃないと駄目なんじゃないか?」
大福ねずみは、姉御の斜め上な優しさを無視しました。しかし姉御は、「ちょっとこれ見てみろ」と言って、大福ねずみをパソコンの前までUFOキャッチャーしてきました。
画面には、雌ハムスターのきわどい画像らしきものが映っていました。
「無理だって! 獣に勃つかよ~! 癒されるわ!」
大福ねずみも、プチ切れしました。
「やっぱ、ハムスターじゃ駄目か。ねずみの画像は……」
「ちがっ……」
真剣にねずみの画像をググル姉御を見て、切れる気力が失せました。
結局画像は冗談だったようで、ため息を吐いた姉御が気の毒そうに大福ねずみを見つめます。
「やっぱそれも、前世のせいなんじゃねーの?」
優しげにそう言われると、大福ねずみもそうのような気がしてきました。
「むしろ、勃てる必要ないだろ。良いことするためだけにいるんだからさ」
「良いことに必要かもしんないだろ~~!」
大福ねずみは叫びながら、初めて、前世の行いを後悔しました。姉御はいい加減うんざりしたので、無視して朝食の用意を始めてしまいました。
二人でご飯を食べ始めましたが、大福ねずみは意気消沈したままです。そんな姿を見て、姉御は再びため息を吐きました。
「何でお前って、そんなに馬鹿なんだよ」
「酷いよ~~男の股間に関わるんだよ~~」
下らない下ネタで返しても、厳しい突っ込みは飛んできませんでした。
「前世で種付けしすぎた罰だろ。反省しろよ」
「人類繁栄だろー、良いことじゃん~、女の子もノリノリだったんじゃん~」
姉御は、それもそうかもなぁ、と言いくるめられかけました。
「良くないから、こんなになってんだろーが! 不能もヒントなんじゃねーの!?」
そう言われてしまうと、大福ねずみは、言葉に詰まるしかありませんでした。そして、今更ながら、核心に迫る疑問が込み上げて来ます。
「姉御~前世のことはわかったけどさ~ねずみにされて良いことさせられる程、オイラに悪いとこあった?」
「……わ、わからん。そんなに酷くはない、かな?」
姉御も似た者同士でした。東村があんなに一生懸命前世の行いを説明したのに、結局、鼻毛を面白がって終ってしまった感があります。いいかげん、三十郎のことを真剣に考えなければなりません。
「でもさ、良くわかんないけどさ、女たちより三十郎のほうが哀れなんじゃないか?」
「どういうこと~?」
「好きだ好かれた、男前だ巨乳だなんだかんだって、恋して浮かれて楽しい思いしたのは男も女も一緒だろ。子どもが出来るほど接してりゃ、女だって、コイツ戻って来ないだろうなって気付いてたんじゃないのかな。子ども出来たのだって、二人の責任だろ? お前が無理やり犯したりしそうにないしな」
大福ねずみは、黙って頷きました。
「だけどさ、女も子どもも沢山いて、何でお前は一人寂しく殺されてんだよ。誰にも引き留められない、追いかけても来ない、子どもがいることも知らされない。
お前の好みの女だから、子どもがいたって他の男がほっとかないだろうし、生まれた子どもは、三十郎に似て顔立ちが良かった可能性が濃厚だ。ちゃんと子孫繁栄してるしな。これじゃ、楽しくポイ捨てされたのは、お前の方なんじゃないの?」
「何か、すごいショックな意見きた……。でもさ、それじゃあオイラこんな罰受けなくていいじゃん~」
二人は考え込みました。前世の所業に善行のヒントがあることは感じていても、三十郎の罪について確信が持てません。姉御の斬新な意見は、ますます二人を混乱させてしまいました。
「誰かに聞いてみるしかないな……」
「東村以外!」
東村は、速攻ねずみに却下されました。姉御は、「うーん、誰がいいかな」などと考えこんでいましたが、突然すごい勢いで顔を上げて、大福ねずみを凝視しました。
「そういやお前、ずっと俺と一緒に風呂入ってるよな」
「そうね~」
「今更、勃たないとか気づくの、遅くねぇ?」
「Aカップが偉そうに!」
久々に吊るされました。しかし、姉御の貧相な裸で、自分の不能を疑う余地は全くありません。正直に答えたのみです。
「乳ネタの落ちも限界だな」
大福ねずみは、呟きました。
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