10話 あざといねずみ

 帰路につきながら、大福ねずみは、何やらスッキリしない心持でしたが、三十郎の行為については、少しも恥じる気持ちが湧いてきませんでした。

「色々わかったけどさ~なんだかな~」

「お前がするべき良いことのヒントが隠されているんだろ」

姉御が軽い調子で応えます。

「ヒントってなに~?」

「しらん!」

適当だったようです。


「一緒にいたら、姉御に大変なこと起こるらしいよ?」

「そうだなー。大変でも、面白いかもしれないし、いいよ」

姉御にそう言われて、大福ねずみは少し嬉しくなりました。

「姉御は子孫だから、言葉とか通じるのかなぁ」

照れ隠しにしゃべります。

「さぁな」

「それとも通じるとこがあんのかなぁ~」

姉御は立ち止まりました。


 顔がみるみる凶悪に変化して行きます。

「俺は性格悪くねぇ~し、エロな巨根好きとかじゃねーぞ!!」

般若の叫びは、半径十メートルの人々の時間を止めました。女の子が大声で叫んで良い単語ではありません。時間は簡単には動き出しそうもありませんでしたが、タイミング良く、姉御の携帯が鳴りました。

 

東村治 件名「初メール」

    本文「こんにちは、あらためて自己紹介します

       東村治(仮) 独身 

       好きな食べ物:結婚と束縛を望まない女の子

       嫌いな食べ物:うるさい女の子

       将来の夢:友達と旅行へ行くこと

       これから、仲良くして下さい」


「うわ~最低な自己紹介。しかも友達いないよ、こいつ。今すぐメル友やめなよ~」

 覗き込んだ大福ねずみが、姉御に忠告しました。

「そうかな? じゃあ、お前も自己紹介してみろよ」

大福ねずみは少しも考えることなく、ペラペラと口を開き始めます。


「こんにちは、大福(仮)、独身です。好きな食べ物は、手作りの出来立てで温かい物なら、何でも。嫌いな食べ物はありません。女の子にはよく、可愛いとか癒し系とか言われるけど、色白で目が大きいせいかな。本人としては、男らしくありたいと思っているので、不本意です。特別な人に言われるなら別だけどね。

 おしゃべりするのは好きだけど、聞き役に回る方が性に合ってるかな。でも、デートを企画したりするのは好きで、結構グイグイ引っ張っていきたいタイプです。これから仲良くしましょう~」


 聞きながら、姉御の顔はどんどん渋くなっていきました。

「お前の自己紹介も最悪だぞ。何か、あざとい」

「うそだ~、ツボを押さえた完璧な代物だよ。そんなら、姉御も自己紹介してみなよ。東村にメール返せば丁度いいじゃん~」

 姉御は、それもそうだな、と電話をいじり始めました。


     件名「初メールどうも」

     本文「こんにちは、自己紹介し返します

       姉御(仮)独身

       好きなフォール技:ウラカン ラナ インベルティダ

       好きな関節技:鎌固め

       将来の夢:友達と山で暮らしたい

          あと、虎に乗ってみたい

       こちらこそ、仲良くしてね」


「小学生かよ! プロレス技の好みなんかいらね~よ。しかもマニアック!」

 大福ねずみは突っ込みましたが、姉御は満足な出来だったようで、そのまま送信してしまいました。


 それから東村と姉御は、どこか気が合ったらしく、順調にメル友の道を進みました。

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