親密度0のオイラたち

8話 お出かけ

 姉御は、朝っぱらから顔に何か塗ったりしています。大福ねずみは、そんな姉御は無視して、海外ドラマに夢中です。毎回欠かさず見ている、悲恋の物語でした。

「こ、このヒロイン最高。可愛いブロンド巨乳、ラブ!」

「そのヒロイン、死ぬんだぞ」

姉御によって、ネタバレしました。

「えぇ~、せめて最終回まで揺れてくれ。推定Eカップ」

夢中なのは、Eカップで、ドラマの内容に興味は無いようです。

 

 ドラマが終わると、「おら、行くぞ!」と姉御から声が掛かります。見ると、冴えない姉御が、別人になっていました。

「あ、あ、姉御? 目が大きくなってるよ!?」

「普段はだるいから、半分しか開いてねぇんだよ」

なんと、姉御の正体は、童顔の可愛こちゃんだったのです。

「姉御……あんたのディフェンスはピカイチだ! しかし、オフェンスのAカップが敗因だ」

速攻で座布団が飛んできます。中身は、いつもの姉御でした。

 そうこうしているうちに、通気性の良いおにぎり入れに押し込まれ、バックに入れられて連れ出されました。大福ねずみは、狭くて暗いので、発狂寸前でした。


「た、頼む~棺桶から出してくれ~~」

耐えきれずに叫びました。

「ねずみのくせに、狭いとこ駄目なのかよ」

 姉御は大福ねずみを取り出すと、「大人しくしてろよ」と言いながらシャツの胸ポケットに入れました。

「クッションがいまいちです~」

ポケットの上から圧迫されました。


 大福ねずみは、ちょっと顔を出して外を窺います。テレビで見たことがある電車の中のようでした。視線を感じて横を向くと、姉御の隣に座っていたおじさんと目が合いました。

「ね、ねず…」

おじさんは驚いています。それに気付いた姉御が、おじさんを睨みました。

「あの……ね、ねずみ…」

おじさんは、大福ねずみを指差しています。姉御の顔は、般若でした。特に悪いことをした訳でもないのに、恐ろしい形相で睨まれた気の毒なおじさんは、賢明にも関わるのをやめました。

 それから、違う電車に乗ったり歩いたりする途中、姉御は何度か般若になりました。


「もうすぐ着くぞ」

 歩きながら姉御がそう言った時、若い男が近付いて来ました。

「すいませーん。今時間あるかなー。簡単なアンケートに答えてもらえればー」

キャッチの臭いがプンプンしました。姉御は、男が持っていたアンケート用紙の上に大福ねずみを置きました。

「うんこしてやれ」

大福ねずみは、かましてやりました。丁度、うん頃合でした。男が固まります。

 無言で大福ねずみをしまうと、再び姉御は歩き出しました。男が後ろでどなっていましたが、振り向いた般若に、石化させられました。大福ねずみは、姉御の髪がヘビになっていないかどうか確かめましたが、ギリギリ、人間でした。


「ところで、どこ行くの?」

今更、聞いてみる気になりました。

「前世が見れる知り合いのところに行く。予約は取ってある」

「パンナコッタ!」

 どうやら姉御は、大福ねずみの前世を探ってくれるようです。感動やら感謝より先に、胡散臭さが充満しました。前世が見える人間など、そうそう居るはずもありません。

「胡散臭ぇ~本物なのかよ~」

姉御は、本物だ! と、断言します。やけに自信満々なので、多少気押されました。


「な、なんでわかるんだよ~」

「名前で分かる」

残念ながら、根拠は無いようです。大福ねずみは、ため息を吐きました。一応、どんな名前なのか聞いてみると、姉御は、無駄に明るく歯切れ良く答えます。

「東村 治!」

「ちょ、超、普通じゃ~ん!」

 しかし、大福ねずみは思い出しました。その名前は・・・姉御の一押しプロレスラーと、同じ名前だということを。明らかに人違いの職業違いでしょうが、ある意味本物でした。コツコツ真面目に冷静に執念深く、地味ながら伝統的な技をかける良いレスラーです。


「派手な技は期待出来ないじゃん~」

 道すがら、姉御のテンションだけ、無駄に高まって行きました。

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