7話 男気の姉御

「つ、ついに、裸の付き合いになりましたね~」

 腰が良くなった姉御は、風呂に入っていました。大福ねずみは、お湯を入れた洗面器の中につかり、浴槽にプカプカ浮いています。

「じゃあ、毛皮を脱げ」

「ペッ!」

下らない姉御の突っ込みに、唾を吐きました。


「まだ臭ーい。湿布臭ーい。姉御メントール臭ーい。おぶっ!」

突然、ねずみ温泉のお湯が増えました。洗面器の水量は、姉御に握られています。

「お前さぁ、真面目に良いことしようとか、考えてるわけ?」

 珍しく、姉御が核心に触れてきました。大福ねずみは、真面目に考えていなかったので、無視しました。すると、姉御が話しを続けます。

「お前がするべき良いことってのは、そんな簡単じゃないと思うぞ」

「なんで? 余裕でしょ~」

姉御は、ため息をつきました。


「良いことってのは、案外難しいんだぞ。誰にとっての良いことなのか、考えたことあるか?」

大福ねずみは、ちょっと意味がわかりませんでした。

「いいか? お前が良いことをして、誰か感謝したとしても、それは他の誰かにとっては悪いことかもしれないだろ」

「んなこと言ったら、きりがないよ~」

「そうだよ。だからな、良いことをするほうの信念が大切なんだと思うぞ。お前の中身の問題だ。考えてみろ」


 大福ねずみは、自分の中身について考えてみました。思えば、理不尽なことばかり起こっていたような気がします。ねずみで過ごす世の中は危険がいっぱいで、粗末な寝床を涙で濡らしたこともありました。自分は、苦労が身にしみたねずみだ、と思いました。

「我が信念に、一点の曇り無し!」

大福ねずみは叫びました。

「お前、信念なんかねぇんだろ……」

「パンナコッタ!」

 とりあえず風呂から上がり、大福ねずみは、体を乾かしてもらいました。布団でリラックスしながら、斑点のことを考えてみました。斑点が消えたらどうなるのか、消えなかったらどうなるのか。神様の言葉を聞き逃したことを、今さらながら悔やみます。


「姉御~、斑点消えなかったらどうなると思う~?」

「死ぬんじゃん?」

直球でした。未曾有の300キロの速球です。

「それはキャッチできねぇ~」

 流石の大福ねずみも、畳にめり込むような絶望を感じました。

 そこに米が飛んできて、条件反射で飛びつきました。姉御は、ナイスキャッチと言って、笑っています。

「死ぬのかな~。嫌だな~。今の生活は、そんなに悪くないよ~」

大福ねずみは、なんとなく呟きました。


「大丈夫だ。なんとかしような」

姉御の心強い言葉が返って来ます。

 顔を向けると、既にテレビの芸人のネタに夢中になっています。テレビと姉御は、良い子は真似してはいけない距離でした。

「姉御、あんた、心意気はFカップだな」

鷲掴まれました。


 耳は、Fカップ以上の性能でした。

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