6話 男がいるだと?
「あ、あ、姉御~」
共同生活にも慣れて来た頃、大福ねずみが朝食時に、泣きそうな声を上げました。
「テレビ台の後ろに、飯が落ちちゃったよ~」
米が一粒、テレビ台の後ろの方へ落ちて転がってしまったようです。
姉御は、もったいねぇなぁ~と言いながら、テレビの後ろを覗き込みました。狭い隙間に、米が落ちているのが見えました。しかし狭すぎて、姉御の手は入りそうもありません。
「無理。お前、しっぽを活用して取れよ」
しっぽなら入りそうですが、奥まで転がった米を取るには、長さが足りず、苦労しそうです。
「ぶ、不器用ですから」
大福ねずみが面倒なので却下すると、その考えを見透かした姉御にしっぽを踏まれました。
「しょうがねぇなぁ。ちょっとテレビ台持ち上げるから、取れよ」
姉御は、テレビ台を持ち上げようとして、踏ん張りました。
「あ――……」
台が少し持ち上がった所で、変な声を出して止まってしまいます。しばらく待っても、姉御はそのままの姿勢で止まっています。ようやくという感じで、台から手を離すと、再び呻き声を上げました。
「腰がイッタ……」
どうやら姉御は、ギックリ腰になったようです。大福ねずみは、姉御の腰に飛び乗りました。
「パンナコッタ! 腰はここにありま~す!」
姉御は、声にならない声で呻きました。腰から降りて顔を見ると、般若の形相でした。
報復を恐れた大福ねずみは、うろたえました。
「ど、ど、どうしたら…」
「何もするな。動くな。応援でもしてろ」
姉御は、真剣にピンチのようです。
「チェスト――!!」
とりあえず、言われた通り大声で応援してみましたが、すぐにうるせぇと怒鳴られてしまいます。我がままなんだからとぼやきつつ、さっきの振動で出てきた米を食いました。
「姉御の米は日本一ですなぁ」
お世辞を言いましたが、無視されました。
「お前、ちょっと、携帯電話を近くまで押してこい」
「不器用ですから」
般若に睨まれました。冗談は死を招きかねない状況のようです。
びびった大福ねずみは姉御の指示に従って、携帯電話を近くへ押して行き、黙って指示を待ちました。
「丸いとこの右側押して着信履歴出せ、そう、そのボタン。うーん、こいつなら来られるかな」
何度か指示通りボタンを操作すると、電話が繋がったようで、姉御がしゃべり始めました。
その後、変な男が駆けつけてきて、なんとか姉御は助かりました。大福ねずみは、面倒に巻き込まれないように、テレビの上でぬいぐるみのふりをしていました。
観察していると、どうやらこの男は、姉御の彼氏のようです。身内以外が出す、鼻につく慣れ慣れしさを感じると同時に、こんな女と付き合う男は、マゾに違いない、と確信します。
夜には、マゾ男が帰りました。
「おぅ、助かったぞ、大福」
姉御にお礼を言われて、少し嬉しくなった大福ねずみは、寝ている姉御の側に駆け寄りました。
「もとは、お前のせいだけどな…」
踵を返して、逃げました。
しかし、お礼を言われるような良いことをしたので、斑点が消えるかもしれません。期待して体を見ましたが、ねずみの小指の先程も、斑点は消えていませんでした。
「姉御なんか助けても、斑点は消えないようであります~!」
動けない姉御の耳元で叫びました。
「あぶっ!」
姉御の頭が降ってきます。腰をやっていても、流石だ、この姉御は、と思いました。
その夜、大福ねずみは、動けない姉御のまな板の上に乗って一緒に眠りました。乱暴な女だけれど、腰を痛めて気の毒なので、ちょっと寄り添ってやろうという気になったのです。
「マゾ男は貧乳がお好き」
大福ねずみの寝言は、姉御の耳にしっかり届きました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます