第8話上司の行動
「それじゃあ、これ読んどけよ」
「はぁ…」
俺はカイトに書類を渡して、会議室を後にする。
「あ~やっぱりこういう事はめんどくせぇな」
俺は胸ポケットから煙草を取り出して、火をつける。
どうも、カイト君の先輩兼上司のハーディアス=ヴァン=ガルウェンと申します。
騎士軍所属で軍での地位は大佐、貴族階級は公爵。
所謂、金持ちで偉いのが俺である。
だが、俺自身には、とてもじゃないが騎士軍で大佐が務まる力はこれっぽちもない。
バンは人並みだし、かといって頭がきれる訳でもない。
更に、公爵とか言っているけどほとんど名だけ。実務をしているわけでもないし、公爵領の運営や発展をしているわけでもない。
なので、俺は親のコネでこの地位にいるだけのダメな奴なのである。
「別にそんなことどーでもいいんだけどな~」
周りからどの様な目で見られているかは、よく知っている。
クズとか馬鹿とかマヌケとか…そのような言葉は聞き飽きるぐらい聞かされている。
最近では、仕事場の関係から『クズの処刑人』なんて事も言われている。
「しっかし、エラファルド大森林ねぇ。上は本当にこれを実行するつもりなのかね」
俺は、カイトに渡した書類の事を思い出す。
カイトの次の調査場所は、エラファルド大森林。プラスして、聖域の発見。
「流石のあいつもヤバいかもな…」
エラファルド大森林に行くことは、よほどのバカがする愚行か、自殺志願者か。
そのように捉えられても仕方がないぐらいヤバいところだ。
カイトの事は、実は結構気に入っていた。
あいつの『目』の事もあるが、それ以上に一緒に仕事をしていて楽しかったってのが大きい。
それ以外にも理由があるんだが、それはあいつには秘密だ。
まぁ、あいつがこっちの事をどう思っているのかは分からねぇけど。
たぶん、『いつも安全なところにいるくせに、碌に仕事もしないダメで使えない上司』とか思ってるんだろうな。実際そうだし。
「仕方ないのかねぇ、っとあれは…」
渋い顔をしながらため息をついていると、前から見慣れた顔の女性がこちらに歩いてくるのが見えた。
金色の綺麗な長髪に、青色の美しい瞳。
肌は白く透き通っており、顔つきは凛々しくもありながら何処かあどけない感じを感じさせる美形。
スタイルもよく、胸もちょうどいいぐらいの文句なしの大きさ。
「こんなところで会うなんて珍しいですね、アルベルト少佐」
「これは、ハーディアス大佐殿。こんにちは」
リザーナ=ラン=アルベルト少佐。
伯爵家のご令嬢でありながら、5年前に騎士軍に入団。そこから自身の力だけで功績をあげ、20歳前半ながらにして少佐の地位を勝ちとったエリート。
コネでこの地位にいる俺なんかとは比べ物にならないほどスゲー人の一人である。
「アルベルト少佐はこんなところで何を?所属部署はここから正反対の場所のはずだけど」
少佐が所属しているのは女性のみで形成されている大隊で、名前は確か『光陽の剣』だったかな。
そこの大隊長、所謂リーダーを務めている。
「あ、いや、その…ちょっとした用事で…」
アルベルト少佐は恥ずかしそうにもじもじして、手に持っている物を後ろに隠した。
んん~?何か面白い予感がするな。
この先に在るものっていったら、さっきまで俺とカイトがいた会議室とか、うちの部署の関係の部屋しかない…
「あ、そっか。少佐はあいつと同期でしたっけ」
「べ、別にカイト関係じゃ‼」
しまった‼っと言った感じで慌てて口物を隠す少佐。
おーおー赤くなっちゃって。若い子はいいねー、青春だねー。
おじさんぐらいになるともう枯れていくだけだからねー。
因みに俺は45歳。
少佐やカイトから見たらもうおっさんだな。
「帰還の連絡聞いて、手土産もって来てくれたのか~。あいつも幸せもんだな~」
「もう、からかわないでください‼」
カイトも隅に置けないな~。こんな可愛くて優秀な子に好意を寄せてもらっているなんて。
けど、災難だったな。
「…あいつは会議室にいるから」
「あ、わかりました」
「今頃落ち込んでるかもだから慰めてやってくれ」
「?」
少佐は少し首を傾げた後に、頭を下げて会議室の方に向かった。
「若い子が悲しい目に合うのはあんまり好きじゃないんだけどな、仕方ない仕方ない」
俺は、煙草を再び吸いだした。
「それで、そちらの方は問題なく行きそうなのかね?」
「は。聖域調査にはカイト=ラグナルドを向かわせました」
「カイト=ラグナルド…か」
「今回の作戦では一番の適任かと」
俺は今、騎士軍の最高作戦本部と言う所に来ていた。
基本的にこの場所に入ることが出来るのは准将以上のお偉いさんなのだが、今回は俺も特別に呼ばれている。
「確か、バンとファラを見ることが出来るのだったかな?」
「実際に確認できたわけではありませんが、おそらく本当の事でしょう」
「しかし、カイト=ラグナルドは魔法の素質が人並み以下でとも聞いているぞ?」
「それに、今回の調査も失敗したとの事ではないか」
俺の人選とカイトの能力に疑問を持っている上司の方々。
「ふむ…本当にその人選でよいのか?ハーディアス」
大将の一人が俺の事をギロリと睨みつける。
「はい。あいつの危機回避能力と勘の良さは我が部署ではトップです。なので、普段はあまり使えない者ですが、今回ばかりは適任と言わざる負えないでしょう」
俺は自分が思っていることを素直に話した。
カイトはうちの部署で本当に、生き残ることに関してだけならトップである。
「はっ‼まさかあまり功績が残せていない部署の、そこでもダメな者が作戦の要になるとわな」
会議にいるお偉いさん達は、一斉に声を上げて笑い出す。
「えぇ本当に、可笑しなこともあるものですね」
俺も、後ろ手に握り拳を作りながら周りに合わせて笑う。
「それでは、抜かりが無いようにな」
「はい。了解しました」
「それではもう下がれ。貴様の様な者がいると頭が悪くなるかもしれないからな」
「…はい」
再び笑いが起こる中、俺は本部室からでた。
「……はぁ、緊張した」
俺は、会議室を出た後、自分の部署の休憩室にまで戻って来ていた。
ポケットから煙草を取り出して一服する。
いつも思うが、あのお偉いさん方はもうちょっと部下に対しての心配りをした方がいい。
あそこまで露骨に言ったら、俺じゃなかったら問題の一つでも起こってると思うぞ。
「抜かりなくか」
俺は、今回の作戦の概要を思い出す。
「抜かりなく進んでいますよ。抜かりなく…ね」
俺は俺での作戦のため、休憩室を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます