第9話死の森

「これで、998本目っと。たく、何本あるんだか…」


 こんにちは、皆さん。

 カイト=ラグナルドでございます。


 俺は今、エラファルド大森林にて、もう1000回目を迎えようとしている恒例の作業をしております。


「それにしても、流石に飽きたなぁこの風景にも。何処を見ても大樹大樹大樹…軽くゲシュタルト崩壊してきたわ‼」


 俺は愚痴を言いながら、次の目的地まで再び歩きだした


 リザが行ってくれた見送りから、かれこれ一週間が過ぎた。


 転送は無事に成功し、目的地のこの大森林のそばまで来ることが出来た。

 初日は、ビビっていたのもあり入り口付近でファラの濃度や大きめの木なんかを調べるだけにしておいた。

 森を本格的に調べ始めたのは二日目からなのだが…今までに分からなかったことが出てくるわ出てくるわで、本当に未知の魔境なんだなっと思い知らされた。


 一つ目は、森の動物たちである。

 噂や書類では、危険な猛獣がわんさかいるってことだったけど…

 

 うん、狂暴な獣何か全くいないわ。

 いる動物と言えば、可愛い兎とかリスとかの小動物、大きいのだと草食系の鹿や鳥類のミミズクとかがいるだけ。

 まだ俺が、森の奥に中々進めていないのが原因かもしれないが、序盤の方では全く危険な獣は出てこない。


 因みに、この世界の生態系は前の世界の生態系と似ており、可愛い小動物からライオンの様な危険動物までいる。

 前の世界にいないような飛び切り危険な動物は、いることにはいるが数は少ない。

 まぁ、姿形は若干違ってたりするんだけどな。


 だが、こっちの世界は魔法がある。なので、知恵のある猿の様な動物や危険な猛獣何かは偶に、魔法を使ってくることがある。

 少し前に行った危険区域では、猿の大群に襲われてしまい魔法の一斉射撃を受けた事があった。


「あの時は流石に死ぬかと思ったな」

 

 あの時の事を思い出し、比べてみたとしても、やはりエラファルド大森林の動物たちは何処か大人しい感じがする。


 人間である俺を見ても、逃げる訳でも襲ってくるわけでもなく、ただ俺をじっと見つめるだけ。

 俺を観察するような、そんな嫌な感じさえする。


 取り敢えず、襲ってくる感じはないので適当にスルー。

 偶にだが、手持ちの食料を分けて一緒に食事をするなんてこともしたりする。


 やっぱりこんな場所に一人きりだと寂しくなってしまうんだよ。

 食事の相手ぐらい欲しいんだよ。


 そんなこんなで偶に一緒にお食事をしていたら、いつの間にか懐かれてしまった兎を抱えながら今は調査をしている。

 名前は、兎なので『うーぴょん』。

 可愛いだろ?可愛いよな?可愛いと思って。


「あ~もふもふで可愛いな~お前は」

「なぁー」


 このうーぴょん、全くもって暴れない。それどころか俺から離れないでぴったりとくっついてくる。

 それが可愛いのと、歩くのに邪魔ってことで今は抱えている。


 しかし、何故か夜になると何処かへ行ってしまう。朝になるといつの間にか隣で寝てるけど。

 お家にでも帰っているのかな?


 あと、変な鳴き声をする。

 兎ってどんな鳴き声するのかはわからないが、(てか、鳴くのか?)少なくとも『なぁー』とは鳴かないと思うんだ俺。


 こんな感じなので、猛獣説は無しって事に決定付けようかと考えている。


 そんな事を考えながら歩いていると、辺りが白い靄に包まれていることに気が付いた。


「ん~…また霧が出てきたな。ちょっとここで休憩でもするか」


 俺は、霧が濃くなる前に仮拠点となるテントを張る。


 二つ目の分かったことが、この霧である。

 この霧、普通の霧と違う所が二つある。


 一つ目が、霧の濃さだ。

 今まで経験してきた霧でも、濃くて1メートル先ぐらいは余裕で見える程度だ。

 それに比べてこの霧は、ほんの数センチ先すら見えなくぐらい濃いのだ。

 自分の指先が、顔にぐっと近づけないと見えないぐらいである。


 だが、濃いだけならまだいい。問題は二つ目だ。

 なんとこの霧、特殊なファラを含んでいるのだ。


 普通の人が見ただけならばただのクソ濃い霧なのだが、俺の『目』にはそうは映らなかった。

 『目』には、少し紫色がかったファラが見えた。

 

 俺の『目』は、ファラを色と濃さで見ることが出来る。

 濃さはその空間にどのぐらいの量のファラがあるかと知ることが出来、色はそのファラがどの様な性質を持っているのかがわかる。

 様々な色があるのだが、紫色は自分にとって『毒』になる成分が含んでいるファラの色である


 なので、検査用の器具で調べてみたところ、案の定この霧の含むファラは、人に有害な成分が含んでおり、2時間以上この霧の中にいると最悪の場合死に至る遅効性の毒であることが分かった。

 それだけではなく、霧の空間のファラの濃さも常識では考えられないほどの濃さがあり、バンの内臓量が低い者がこの霧に入ろうものなら問答無用にファラの濃さに中てられて気が狂う恐れもある。


 この様な霧が、二日に一回程度のスパンでこの森全体を覆う。

 しかも、霧が消えるのは早くても3時間はかかるので、何処に逃げようがこの霧の中では逃げることが出来ない最悪の代物である。

 

 俺がこの霧を初めて見た時、初めてこの『目』に感謝した。

 こんな霧が出るんじゃ、毒が効かない特殊体質者以外この森を突破できる奴はいないよな。

 死の森と呼ばれる所以がわかった気がした瞬間だったな。


 対策としては、普通にテントの中に避難。これだけで意外と防げるので、この霧で俺が死ぬと言う事はなさそうだ。


 この霧が出ている間は、外に出る訳にもいかないのでテントの中でゴロゴロするしかない。

 

 と言う事で、テントの中で仰向けに寝転がる。

 決してサボりではない。これは仕方がない事である。

 やることがないのだから‼


 因みに、この状況を外に連絡しよう試みたのだが、転移魔法と同様に連絡系統の魔法や魔法具も使用できないことも確認できた。

 連絡用の魔法具に至っては、この森の中では壊れたラジオのようにザーッという音しかながれない。

 しかも、霧の中で使おうとしたらバチバチと音を立てて爆発しかけたので、全部分解して土の中に埋めてきた。

 流石にポイ捨てするのは気が引けたからなぁ…埋めるのもあれだけど仕方がない。


「なぁ~」

「ん~?どうしたうーぴょん。お腹すいたのか?」


 うーぴょんが俺のお腹の上に乗ってぐでーんっと足を伸ば、お腹を見せる。


 お主、もはや野生を忘れてはいないか?こんな格好したら、悪い大人だったら襲われてしまいますよ?

 しかも貴方、メスですよね?レディーがあんまりそのような格好をするようなもんじゃないですよ?変態なオスが来たら大変ですよ、お嬢様。

 俺は悪い大人でもなければ、変態でもないのでお腹をくすぐるだけだが。


「なぁ~…」

「気持ちよさそうな声で鳴いちゃって。ここか?ここがいいのか?」


 おへその辺りを擽って、暇を潰す。


 今のところ、死ぬ可能性がある危険物はこの霧だけ。

 それ以外は、大した問題もない。

 食料は、食用の野草や木の実が多くあるし手持ちの保存食もまだまだある。

 可愛い旅仲間も出来たことだし意外と楽勝なのでは?


 最初はビビりまくっていた俺だが、今は意外にのんびりと大森林探索を楽しんでいるのであった。

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