第7話出発

「持ち物もしっかりと整えたし、一応策も考えた。後は、死なないように祈りを捧げるぐらいだな」


 エラファルド大森林調査の任務を受けてから二日が経ち、俺は、エラファルド大森林へ行く為に魔法転移所に来ていた。


 魔法転移所とは、自分が行きたい場所を設定するとその場所に転移が出来る、と言うものすごく便利な転移装置が置いてある場所である。

 転移魔法が使えない人や長距離の移動をする人に大変人気で、俺もよくこの機械を利用しにここに来ている。


「ここを使うのも最後になるかもな…」


 そんな切ないことを考えながら、装置に今回向かう場所、エラファルド大森林の入口を設定する。


『ここは国で特殊危険区域に指定されています。本当に転移いたしますか?』


 装置からこのような表示が出てくるが、これを見るのももう慣れた。いつもこれを使うときは特別危険区域に行くときだからな。


 因みに、この装置でエラファルド大森林の中心部に転送すると言う事も考えたのだが、転移不可と言われて転移できなかった。

 何でも森全体から転移阻害の魔法が放たれているらしく、外からは勿論、中からも転移魔法は使えないとのこと。

 

 それが分かったおかげで、荷物の中身が多少変更しなければならなくなった時は凄く面倒くさいと思った。


「腹ぁ括るか」


 俺は『はい』と設定して、転送しようと装置に手をかざす。


「出来れば生きて帰って来れますよう…」

「ちょっと待って‼」

「うお!?」


 いきなり誰かが俺の肩を強引に引っ張って、転送を中止させた。


「誰だよ‼ってリザ!?」

「良かった…間に合って…」


 振り向くと、そこには膝に手をついて肩で息をしているリザがいた。


「お前どうしてこんなところにいるんだよ‼」

「あんたの…お見送りを…しようと…思って…おえ」


 凄く急いで来たのか、リザは今にも倒れ込みそうなぐらい疲労していて、貴族・平民関係無く女性が出してはいけないような言葉が出ていた。


「見送り何てそんな…別にいいだろ」

「よくない‼」


 リザは息を整えて俺の顔を真正面から見た。


「よくないって…仕事はどうしたんだよ」

「部下に任せてきた‼」


 リザの部下よ、名前も顔も知らないが同情する。


「そんな事をしてまで来なくても…」

「これ‼」


 リザは俺にぐっと何かを押し当ててきた。


「何だよこれ」

「お守り。ちゃんと教会で洗礼もしたし、私も一杯、無事に帰って来れますようにってお祈りしたから‼」

「お守り?」


 リザが言うお守りを受け取って見てみると、青い布で作られた四角い袋状な物だった。


「これが…お守り?」


 しかしお守りは、縫い目が雑で所々糸のほつれが見えており、正方形にしたかったのだろうが縫い方が雑なせいで歪な形となっている。


「し、仕方ないじゃない‼裁縫なんて今までやったことなかったし…」

「昔っから料理とか裁縫とか苦手だったもんな」

「う、うるさい」


 リザは拗ねたように目を逸らす。


「苦手なのは知ってたけど…」


 俺は袋をじーっと見て、


「何だこの歪な模様は」


 謎の模様に違和感を覚えていた。

 金色の糸で刺繡がされているが、何を刺繍したのかは全くもってわからない。

 

「歪って何よ‼テウバナよテウバナ‼見ればわかるでしょ‼」

「これが…テウバナ?」


 テウバナとは、この国で国鳥とせれている鳥である。

 言い伝えによれば、人々を迷いから解き放つ神々の使いとかなんとか。


 答えを聞いて再び見てみる。

 確かに翼のようなものがあるが、これはどちらかと言うと…


「悪魔だろ」

「何ですって!?」


 リザは今の言葉で怒ったのか、グーでポコポコと叩いてくる。


「折角一生懸命頑張って作ったのに‼」

「ご、ごめんって。謝るから殴らないで、いた、痛い‼」


 リザは日ごろから鍛えているため、こうグーで殴られると洒落にならないぐらい普通に痛い。


 リザが落ち着いてから、改めてお守りを見る。


「リザがこれを作ったのか」

「ふん、雑で悪かったわね」

「いや、リザらしいや」


 俺は、はははっと笑ってお守りを懐にしまう。


「私らしいってどういうことよ‼」

「いや、悪い意味じゃないよ。リザはいつも一生懸命で、思いやりがあって、何より優しい」


 俺はリザの頭を軽く撫でて、


「ありがとうな。元気出た」


 感謝の言葉を伝えた。


「カイト…やっぱりエラファルド大森林に何て…‼」

「騎士軍特殊危険区域観測機関所属カイト=ラグナルド。」


 リザが涙を浮かべながら言おうとするのを、遮るような形で俺は言う。


 姿勢を正し、啓礼をする。


「これより任務につき、エラファルド大森林調査および『光森の聖域』発見のためエラファルド大森林への長期遠征に出発いたします‼」


 リザはそれを聞くと自分も敬礼をし、表情を引き締める。


「カイト=ラグナルド。任務を全うし、無事帰還せよ‼」

「は‼」


 俺は、もう一度装置に手をかざし転送準備を始める。


「……いってらっしゃい」

「行ってきます」


 装置が起動して俺は、エラファルド大森林に転送された。

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