第6話聖域
「それじゃあ…私はそろそろ行くわね」
「あぁ、今日はわざわざ来てくれてありがとうな」
リザとちょっとした言い争いの様なものが生じたが、二人の気持ちも収まり、時間も時間と言う事でリザは会議室を後にした。
「あ、そうだ」
「どうかした?」
会議室を出る直前に、リザは足を止めて小声で言った。
「騎士軍の上層部が今、軍備の強化とか言って大隊の編成を大々的に行ってるわ。何もなければいいけど、一応耳に入れておいて」
「分かった」
そう言うと、リザは会議室を出て行った。
「それにしても、本当にどうするか…」
俺は資料を全部読め終えてから会議室を出て、今は自分の家に帰って来ていた。
俺的には、騎士軍の資料室とかでエラファルド大森林について少しでも調べようと思ったのだが、
『別にすぐに向かうことになるし、渡した資料がすべてだ。行く前に家族と話でもして来い。長丁場になるんだしな』
と上司から連絡が入って、家に帰された。
「長丁場って言うか、下手したら永遠の別れになるんだが」
そんな事を思いつつ、エラファルド大森林から如何にして生きて帰って来れるかを考え始める。
エラファルド大森林は、円状に広がる森で規模としてはそこまで大きくない。上空からの測定だと、半径20キロ程度だそうだ。
一直線に歩けば三日程度の距離なのだが、この森を一直線に抜け出た者は誰一人といない。
理由としては諸説あるが、明確にこれと言ったものはまだわかっていない。
何故かというと、挑戦者の全てが帰って来てないからである。
なので、強い肉食獣が住んでいるとか中心部には猛毒のガスが充満しているとか、そのような恐ろしい噂が絶えない。
だが、有力なものが一つだけある。
「聖域の守護者『黒龍姫』との遭遇…か」
『黒龍姫』
これを考える前に、聖域のおさらいをしておく。
聖域は、この世界に五つあるとされている伝説の場所だ。
この国の御伽噺にもなっているぐらい有名で、『聖域と泣き虫王』は子供なら誰もが知っているぐらい有名なお話だ。
聖域には莫大な富と力が眠っているとされ、世界中のどこの国もがこの聖域を手に入れようを様々な手段で捜索をしている。
元々、俺が所属している特殊危険区域観測機関もこの聖域を探すために作られた部署だったりする。
今のところ、聖域の場所がわかっているのは二つ。
1つが、俺が行かなければいけないエラファルド大森林にある『光森の聖域』
もう1つが、ここからずっと北にある氷に閉ざされた『絶氷の聖域』の2つである。残りの3つは何処にあるのか、本当に存在しているのかさえ分からない。
聖域は今から25年前までは伝説の中だけの、御伽噺の様なものだと思われていたのだが、ある事が切っ掛けで存在が確認された。
ある事と言うのは、今から25年前、我が国バルハイダ王国が領地拡大と資材確保の為に、エラファルド大森林を強力な軍事力と魔法で焼き払う計画を行ったのだ。
その計画は順調に進み、大した事はないと思われていた。
しかし、ここである事件が起きた。
国の最高戦力と言ってもいいほどの騎士軍隊が、たった1日で壊滅したのである。
勿論、国は大混乱。敵国にやられたのかと様々な情報が飛び交う中、壊滅した軍の中から生き残った者がこういったのだ。
『森から女がやってきて全てを破壊していった。それは悪魔の様な強さで俺達を蹂躙していった』
『その女はこう言った「私はこの森にある聖域を守る番人だ。森を破壊する者は何者であろうと私が全て無に帰す」っと』
この事件を境に聖域の存在が確認されたのだ。
そして、この聖域を守る守護者と名乗る女性は、黒いドレスに身をまとう美しい女性であり、龍のみが使うとされている咆哮魔法を使ったという報告から『黒龍姫』と名前が付けられた。
その話の真偽を確かめるための調査隊も派遣されたらしいが、連絡も取れず未だに誰一人帰還していない。
つまり、『黒龍姫』と言うのは聖域を守る強力な守護者なのだ。
「エラファルド大森林の調査だけなら適当に済ませて引き上げることも出来たけど、聖域調査となるとそうもいかないしなぁ」
エラファルド大森林の調査ならば、「こんな動物がいました~」とか「こんな植物がありましたよ~」とかで誤魔化すことが出来た。
だが、聖域調査は国の最大重要事項となっているため、適当な調査や嘘の報告をすると物理的に首が飛ぶ。
それに、エラファルド大森林の何処かに聖域はあるとわかっているので、下手な事は出来ない。
「一応対策はしてあるけど…それもどこまで通用するかわからないからなぁ」
ベッドにごろん寝転んで、様々な対策を考える。
「せめて、単独調査じゃなくて小隊調査なら色々とやりようがあるんだけど」
今回の調査は、俺の単独調査となっている。
その時点で成功させる気なんて鼻から内容にも思える。
「問題は色々あるが、一番気を付けないといけないのは『黒龍姫』だな。国の最大戦力を壊滅させるほどの力相手に、俺が太刀打ちできるはずない。合わないように祈るしかないか」
聖域の調査をするので、遅かれ早かれ遭遇することになるとは思うのだが、出来れば合わないで生き残って帰りたい。
俺は、いるのか分からない神様に向かって、手を合わせて祈りを捧げる。
「どうか会いませんようにどうか会いませんようにどうか…でも、相当な美女って噂だからちらっとだけなら見たいかも」
そんな事を考えながらゴロゴロと寝転んでいると、俺はいつの間にか寝てしまっていた。
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