第3話転生

 俺は今、ウロバロス大山脈から帰ってきて、先輩と俺が所属している部署の会議室に呼び出されている。


「カイト~話聞いてっか?」

「え?あ、はい。この前の観測についての処分についての話ですよね?」

「もうその話は終わっただろうが。今は、次の観測地についての話だ」


 先輩は小さくため息をつきながら煙草を吸い始めた。


「すいません。少し、昔のことを思い出してて」


 俺は、電車の事故で一度死亡し、この世界に赤子として転生をした。


 転生した世界は、前の世界で言う中世ぐらいの世界観で、俺の転生して生まれた国は王国らしく、国王や国王が住むためのお城、それを護衛する騎士軍がいる。


 そして、この世界と前の世界とで一番違う所は、『魔法』が存在している所だった。


「そうか、まぁこの書類に目を通しとけ」

「うげぇ…こんな量を…」


 先輩はそう言うと、何もないところから大量の書類を召喚させた。


「何言ってんだ、お前の『目』と『魔法』なら10分もありゃ読み終えるだろ」

「いやいや、結構あれ疲れるんですよ?」


 『魔法』はこの世界には一般的に存在しているもので、早い子だと3歳ぐらいから魔法が使えるようになる。そして、この『魔法』は身近な生活から子供が遊ぶ玩具、戦争をするための兵器にまで使われている。


 さっき先輩が、何もないところから書類を出したのも、空間魔法という魔法の一つだ。


 魔法は、自分の体内にある『バン』と言う力を自分のやりたい事に変換することの総称を言うらしい。

 それをするために長ったらしい詠唱や、バンのコントロールやらが必要なのだが、その話は今は置いとく。

 また、体内にある『バン』とは違い、空気中に漂う『ファラ』という物もある。

 このファラを使って行う魔法もあるらしいが、俺は見たことも使うこともできない。


 俺も、赤子に転生してから6年ぐらい経った時に、一般的に初級魔法と呼ばれる幼稚園児や小学生低学年が覚えるようなものを、一通り習得した。


「んじゃ、よろしくな」


 そう言うと、先輩は会議室を出て行った。


「よろしくじゃねーですよ…はぁ…」


 俺は書類をパラパラとめくるが、書類を見る気になれず、近くのソファーに寝転んだ。


 この世界での俺の名前は、カイト=ラグナルド。

 生まれはバルハイダ王国平民層5番地区。父親がおらず、母親のみ。俺が生まれる前に父親はどこかに行ったきり戻って来てないらしい。


 転生してから分かったことがいくつかあった。


 まずは、俺の前の世界の記憶は鮮明に残っていると言う事。

 転生してから10年ぐらいは、「この前の世界の知識でチート生活を‼」とか思っていた。あぁ確かに思っていた。しかし、そんなことは全くもってできなかった。


 理由は簡単、俺自身が大した知識を持っていなかった。

 確かに、いち高校生がそんな国を動かすような知識だったり、人を引き付けるような発想何て持っているわけがなかった。

 しかも、俺の生まれは平民層。時代が中世なので、平民の俺がいくら珍しい事をしようが、貴族の方々がよく思わなければ権力でもみ消されるのがオチだ。


 次に、俺の『目』が健在だったこと。

 俺は前の世界から、能力と言っていいのかわからない不思議な『目』を持っていた。それは速さや大きさが明確に分かるという何とも微妙な力だったのだが、世界が変わったことによる影響か、バンとファラを見ることが出来るようになっていた。


「まさか、意外とレベルアップしてるなんて思わなかったな」


 俺は天井を見ながら、目に力を込めた。


「ここのファラはやっぱり濃いな」

  

 このバンとファラを見ることは他の人にはできないらしい。なので、『次こそはこの力でチートを‼』と思ったが、案の定駄目だった。


 理由はこれまた簡単。別に見えたところで対して得をしないからだ。

 相手のバンがわかったところで、相手とのバンの内臓量の差が見て取れるぐらいなので、戦闘で作戦を立てるぐらいの事しかできない。しかも、これは事前に相手を知ってないとダメと言うあまり意味がない仕様。

 更に、下手に見ると、相手のバンの内臓量の差に充てられて、酔ったみたいに気持ちが悪くなる。

 

 因みに、俺のバンの内臓量は一般平均よりやや高い程度で、俺レベルはざらといる。


 そして、一番致命的だったのが、俺は魔法がうまく使えないのだ。

 前の世界には魔法と言う概念がなかったため、バンとかファラとかを使ってやりたいことを具現化すると言われてもいまいちピンと来ず、結果、魔法を習う為に通っていた学校ではいっつも最下位ギリギリ。

 そんなことだから、この『目』の力もインチキと言われて、前の世界の時と同じように学校ではイジメにあった。

 

 そこからギリギリで学校を卒業して、地道に努力しながら今の仕事を掴み取った。


「この『目』は不幸しか生めないのかよ…」


 はぁ…っとため息を吐きながら、先輩に言われた通りに書類に目を通す。


「この目で役に立ったことと言えば、この魔法だけだな」


 俺は、目に力を込めながら詠唱を唱えた。


「我は理を解き明かすもの。カイト=ラグナルドの名において我が目に宿る力を解放せよ」


 俺の唯一と言っていいオリジナルの魔法だ。学校を卒業するときの必須科目としてオリジナルの魔法の開発があった。

 

 そのために一年かかるとは思わなかったがな。


「アイラムズ」


 魔法を発動させた途端、目の前の視界が五つに増えた。


 これが俺が開発した魔法、簡単に言うと、視界を一時的に増やすというものだ。

 これを使うことで、単純に仕事効率が5倍になる。なので、この魔法を使える俺は、書類整理や書籍管理などでよく様々な人にこき使われる。


 一見便利に聞こえるが、この魔法は大きな欠点がある。

 疲れるのだ。すんごく疲れる。当たり前なんだよ。だってただ単純に視界を五倍にしてるだけなので、情報を整理する頭は一つ。つまり、魔法を使いながら五倍の情報を一遍に整理しなければいけなので、通常の10倍ぐらい疲れる。


「でも、この魔法使わないとこの書類の量は半日掛かるからな…」


 しぶしぶと言った感じで書類に目を通していく。


「んで?次の観測地は森って言ってたけど具体的に何処…ってはぁ!?」


 俺は読んでいる内容が間違えなのではないかと思ってもう一度目を通す。


「エラファルド大森林…聖域調査だと!?」


 内容が間違っていないことを確認して、俺はその場に膝から崩れるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る