第2話プロローグ~前世界~
ここは日本のとある田舎の高等学校。
特に有名な学校と言うわけでもなければ、特に有名な田舎というわけでもない。何処にでもある平凡で退屈な場所だ。
その学校に俺、
「裕也、あの子は?」
「あれはパッドだな。パッド含めて80、含めないで70だ」
「ってことは賭けは俺の勝ちだな‼アイス奢りな」
「んだよー。マジでパッドだったのかよー」
特に頑張っていることもなく、放課後と言ったら、このように顔馴染みの友達とバカみたいに遊んでいる。
「んじゃ、帰っか」
「んだな~」
いつも通りの毎日、何も起こらない平和な日常。
退屈だとは思ったことはある。でも、それ以上に幸せを感じられることの方が多かったと思う。
俺は、本当に夢とか将来とかを考えるのが嫌いだった。
叶うかわからないものに努力をし、先の見えない事に向かって走り出す。
こんな事を考えるだけで不安になるし、怖くなる。
「それにしてもお前のその『目』すげーよな」
友達の一人が俺の事を指さしながら話しかけてくる。
「んなことねーよ。正確にわかるってわけじゃないし、それに、役に立つかって言われたらそういう事でもないし」
「そうかねー?だって、ほぼ正確に速さとか大きさとかが『見える』んだろ?やっぱすげーよ」
友達が言う、俺が持っている『目』。それは、動いている物の速さだったり、物の大きさだったりが、正確に数字として『見える』のだ。
「正確にはわかるだけどな。こんぐらいだなーって感じで」
「今日だって、あいつがパッドだってわかったしな」
友達は、にっしっしっと楽しそうに笑う。
あいつとは、放課後に賭けに使った女子生徒とのことだろう。
このような、バカみたいな事にしか使えない。
「本当に…使えないよ」
「ん?なんか言ったか?」
「いや、何も」
小さいころから、この能力と言っていいのかわからない力は持っていた。
小学生の時は、『この力で大人になったらヒーローになるんだ‼』何てバカみたいな事を思っていたのだが、現実はそううまく行くもんじゃない。
中学ではこの目のせいで苛めにあい、家族からも不気味がられ、ついには高校生になったからってこんな田舎に一人暮らしするように実家から追い出された。
追い出された先は田舎の更に奥、最寄りに電車が通っているが、その駅も終点でその先は山になっている。
「じゃあ、俺はこっちだから。また明日な」
「んじゃ、また明日」
友達と別れて、家に帰るために電車に乗る。
「はぁ…本当に、はた迷惑な『目』だよ」
俺は電車に揺られながら、手鏡で自分の目を見つめる。
普通に黒色をした目。日本人なら誰でも持っている何の変哲もないただの『目』だ。
「こんな物のせいで…」
いっそ、なくなってしまえ。
そう思って目に手を伸ばして…
「って、潰せたら苦労しねーよな」
俺は、手鏡をしまう。
「神様がいるなら、こんな『目』お返ししたいよ。出来ないならせめてお詫びの品とか欲しいぜ」
そう馬鹿な事を考えながら窓から外を見る。
「次は~柊木~。次は~柊木~」
「そろそろ降りる準備を…って何だ?」
俺は外の景色を見ていて、いつもとは違う違和感に気が付いた。
「何時もならこの区間は大体50~60キロのはずだけど…」
今はまだ100キロ近くで走っている。
このままだと、減速が間に合わないんじゃないか?
そう思い、運転席を覗いてみる。
「何かあったのか…っておい‼大丈夫ですか!?」
運転席には確かに運転手がいたが、意識がないのか、運転ハンドルを握ったまま突っ伏している。
「おい‼起きろ‼このままだと駅に突っ込むぞ‼」
俺はドンドンとガラスを叩くが、全く反応はない。
ほかの乗車客も何事かと騒ぎ始めるが、それどころではない。
外を見てみると、駅はもう目の前だ。
「130キロ…更にスピードが上がってる‼これじゃあ起きても間に合わない‼」
俺は必死で呼びかけるが、起きる気配がない。
電車は止まる気配がなく、そのまま駅に差し掛かり…
「ふざけんなよ…こんな…こんな人生で死にたく…」
電車は駅に激突した。
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ここは…どこだ。
暗いし…寒い。
何も見えないし感触もない。
手を動かそうと思っても、手が無いのかあるのかわからない。
「我が『目』を与えられし者よ」
耳があるのかわからないが、声が聞こえてきた。
誰だ?
「汝は観測の義務がある」
観測?義務?何のことだよ。
それよりここはどこだよ…
「次の世界ではその『目』で世界を観測せよ」
何を言って…
その声を境に、辺りが光に包まれる。
「願わくば、我が娘達を助けてあげてくれ…」
勝手な事…言うなよ。
そう思って俺の意識は途絶えた。
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「う…」
電車の事故があってから、次に目を覚ましたのは知らない天井の建物だった。
「あう…」
何だ?うまく声が出ない。いや、出ないと言うよりかはうまく喋れない。
こう、口がうまく開かず、舌が上手に動かない。
俺は事故のせいで怪我をしてしまったのかと思い、取り敢えず、手足を動かそうと身をよじる。
だが、体の方もやはりうまく動かない。
「あらあらカイトちゃん。起きちゃったんですか~?」
「あうあ!?」
じたばたと体を動かそうとしていたら、知らない女性が俺を見下ろしてきた。
俺は驚いて、必死に手を前に突き出した。
驚いた理由は簡単だった。
知らない人だったというのもあるが何より、顔が異様に大きいのだ。自分が知っている人間よりも大きい。
「どうしたのカイトちゃん。おてて前に出して。抱っこでちゅか~?」
それに、カイトって言うのは誰だ?俺の名前は斉木裕也だぞ?
色々と驚いていると、更に驚くべきことがあった。
手が…俺の手が縮んでる!?
「ほーら、よしよーし」
「あう!?」
女性は軽々と持ち上げて、手の中に収めた。所謂、抱っこを簡単にやったのだ。
おかしいだろ!?俺の体重は60近くあるんだぞ!?それに身長だって175はあったはず…
そう驚いていると、視界に鏡の様な物がある事に気が付いた。
そうだ、鏡で今の俺の体の状況を…って
「あーーーー!?」
「どうしたのカイトちゃん!?急に大きな声出して」
俺は鏡を見て今の状況のすべてを察することが出来た。
うまく喋れない事、縮んだ手、俺を簡単に持ち上げる謎の巨人女性。
もしかして俺…赤ちゃんになってる!?
俺こと、斉木裕也は、記憶をそのままに赤子に転生していた。
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