聖域観測譚

Nag

第1話プロローグ~異世界~

ここは、ウロバロス大山脈と言う、国で指定されている危険地帯の1つである。


ここウロバロス大山脈は、春夏は様々凶暴な魔物が繁殖期やら縄張り争いやらでひしめき合い、秋は大量の危険植物達が果実を取られまいと暴れ出し、そして冬は……


「うおおおおおぉぉぉ⁉︎」


大豪雪と雪崩の危険性から魔の山脈と呼ばれている。


その冬の魔の山脈に、俺……カイト=ラグナルドは、仕事・・・としてやって来ていた。


「やばいやばいやばい‼︎まさか本当に雪崩が起こるなんて‼︎」


先程から俺が騒いでる理由はこれだった。

雪山で1番気をつけなければならない事態、雪崩が起こってしまい、見事に巻き込まれそうになっているのだ。


俺はカバンから通信機を取り出して、仕事先に通信を取った。


「ちょっと先輩⁉︎救助班はまだなんですか⁉︎」

「ん〜…あと10分ってところだな。まぁお前なら行けんだろ」

「10分⁉︎無理無理無理無理‼︎絶対死ぬから‼︎どうにかしてくださいよ‼︎」

「そう言われてもなー。俺にも無理だわ」


はっはっはっと通信機越しに、何とも頼りにならない笑い声が聞こえてくる。


心の底から、使えない上司め‼︎っと思うが今はそれどころではない。如何にかしてこの状況を打破しないと。


「何か使えるものは……‼︎」


必死にカバンの中を漁るが、特に役に立ちそうな物は見当たらず、


「何もねーのかよチクショウ‼︎」


少しでも身を軽くするためにカバンと前方へとぶん投げた。


「おーい、まだ生きてっかー」

「まだ生きてますよ‼︎えぇどうにか生きてますよ‼︎」

「それはよかったよかった。もうちょいで到達するみたいだから頑張れ頑張れ」

「ご報告どうも‼︎後、後半の応援はムカついたので生きて帰ったら殴ってやります‼︎」

「え、じゃあ帰ってこなくていいぞ」

「んだとこのクソ上司がぁぁあるば⁉︎」


叫んだ瞬間、何かを踏んですっ転んだ。

一体何を……ってカバンだわ。ぶん投げたカバン踏んだんだわ。せめて、バナナだろそこは。


「はは…流石に笑えない冗談だろ…」


転んだ事で雪崩が直ぐそこまでに迫り、


「くぎゃあああああ‼︎」


雪崩に巻き込まれた。


>>>>>>>>>>>


「おーい、生きてっかー」

「ぶは⁉︎生きてる⁉︎」

「間一髪だったなー。もう少し救助が遅かったら死んでたな」


はっはっはっといつもの暢気な笑え声が聞こえた。


一応助かったのか?

確認のために手足を動かす。その次に立ち上がって骨折や損傷をしていないか確かめる。

全身に打撲の痛みはあるが、一応大丈夫そうだ。


「うへぇ…体中痛い。それに、クッソ寒い…」

「まぁさっきまで雪の中に埋もれてたからな。てか、よく生きてたな。素直にビックリだぞ」

「飲み込まれる瞬間に防御魔法と強化魔法をかけたので、まぁそれでもギリギリでしたけどね」


そっかそっかと上司は頷いた後に、んっと手をこちらに寄越してきた。


「何ですか?」

「何ですか…じゃねーだろ。観測記録だよ。ちゃんとそれは残ってんだろ?」

「あぁ…それならカバンの中に…」

「そのカバンは何処だ?」

「何処って背中に…ない⁉︎何で⁉︎あっ…そう言えばあの時ぶん投げて…」


俺は、慌てて辺りを見渡してみるが、辺り一面雪景色しかない。ここからカバンを探すのは不可能に近い。それに、見つけたとしても中のデータが無事に残っていることはないだろう。


上司は、俺の肩をポンと叩き、


「観測失敗における減給と別任務は確定だな」


笑顔でそんな事を言ってきた。


「ははは…はははは‼︎」


カイト=ラグナルドは泣きながら笑い、


「こんな世界やってられっかーーー‼︎」


俺、斎木裕也さいきゆうやは全力で叫ぶのだった。

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