第23話 セシリア嬢は強くてニューゲーム
「ふふふ」
「どうしたんですか、ルシアナ様?」
王立学園へ向かう道中、ルシアナは嬉しそうに微笑んだ。一応気を付けているので大丈夫そうだが、うっかりスキップなんてしそうな勢いだ。メロディは不思議そうに尋ねた。
「だって、今日からメロ、セシリアさんと一緒に登校できるんだもの。嬉しくって」
「ふふふ、大げさですね。護衛が目的ですけど、私もおじょ、ルシアナ様と一緒にいられて嬉しいですよ。よろしくお願いしますね」
「今日は一緒にお昼を食べましょう。メイドはダメだけどクラスメートなら問題もないものね」
「ええ、分かりました」
「やったー!」
ざわざわがやがや。
教室が近づくにつれ、騒がしい声音がメロディ達の耳に届くようになった。
「何だかいつもより騒がしいわね」
「何かあったんでしょうか」
互いに首を傾げつつ、メロディ達は教室に入った。
「おはよう、ルーナ」
「おはよう、ルシアナ」
先に登校していたルーナへルシアナが挨拶をした。ルーナもそれを返し、続いてメロディが口を開いた時であった。
「おはようございます、ルーナ様」
「おはよう、セシリアさん」
一部の生徒、主に教壇の方に集まっていた生徒の多くがバッとメロディの方を見た。突然のことに目をパチクリさせて驚くと、目が合った者達は少し気まずそうに目を逸らし、一瞬のざわめきは落ち着きを取り戻していった。
「今の何?」
「何でしょう……?」
再び首を傾げ合うメロディとルシアナ。
席に着いていたルーナは苦笑して前の方を指差した。
「二人も見てくるといいわ。昨日の抜き打ち試験の結果が張り出されているのよ」
「もうですか? 早いですね」
昨日の午後に試験を受けて翌朝のホームルームの前には採点と集計を終えて教室に張り出されている。編入試験の時も感じたが、王立学園の教師は勤勉な上に優秀なのだなと改めて感心した。
「行ってみましょう、セシリアさん」
「はい、ルシアナ様」
二人は黒板の中央に張り出されている試験結果を確認しに歩き出した。
「「おはようございます、クリストファー様、アンネマリー様」」
「ああ、おはよう、ルシアナ嬢、セシリア嬢」
「おはようございます、お二人とも」
黒板の前には生徒達が集まっており、その中には王太子クリストファーと侯爵令嬢アンネマリーの姿があった。メロディとルシアナが揃って挨拶すると二人とも朗らかに返してくれる。
「二人も試験結果の確認に来たのかい」
「はい。前より悪くなってないといいんですけど」
ルシアナがそう言うと、クリストファーは苦笑を浮かべた。
「残念ながら私は順位を落としてしまったよ」
「ええっ、クリストファー様がですか? もしかしてシエスティーナ様が一位とか」
「まあ、結果を見てみるといい」
クリストファーが場所を空けてくれたので二人は試験結果に目を移した。
その内容は――。
『一位 セシリア・マクマーデン 100点』
『二位 クリストファー・フォン・テオラス 96点』
『二位 シエスティーナ・ヴァン・ロードピア 96点』
『四位 アンネマリー・ヴィクティリウム 93点』
『五位 ルシアナ・ルトルバーグ 91点』
『六位 オリヴィア・ランクドール 90点』
「うわぁ……」
ルシアナは感想とも言えない声が出た。その視線は自分の順位ではなく堂々と一位に輝くセシリアの名前を凝視していた。
「私が一位ですか?」
「いや、もう、満点て……」
凄いと賞賛するよりも、最早呆れるしかないルシアナである。
(メロディ、頭いいとは思ってたけどクリストファー様よりいいの? どんだけよ!)
入学前に家庭教師として勉強を教えてもらった時期があるが、まさかここまでとは。こうして目の前で数字の結果を見せられてメロディの優秀さを改めて知った。
「正直、驚いたよ、セシリア嬢。さすがは編入試験を突破しただけのことはある」
「あ、ありがとうございます。でも、今回たまたまだと思います」
「謙遜する必要はないわ。満点なんてそう簡単に取れるものではないもの。おめでとう」
クリストファーとアンネマリーから試験結果を賞賛され、メロディは少し照れるように笑った。
改めてルシアナからも「凄いわ、セシリアさん!」などと褒められる中、アンネマリーはこの結果を考察する。
(セシリア・マクマーデン……あなた、強くてニューゲームでもしてるの!? 何よ、満点って!)
笑顔の裏でアンネマリーは絶叫するのだった。
乙女ゲーム『銀の聖女と五つの誓い』において、学園での試験結果は攻略対象との親密度にある程度影響を与える。
ヒロインには五種類の学習パラメーターというものが設定されており、各教科の成績によってパラメーターが変動するのだ。その内容は『学力』『運動』『芸術』『魔法』『礼節』の五種類。
今回メロディが受けた試験は全共通科目。即ち現代文、数学、地理、歴史、外国語、礼儀作法(基礎)、基礎魔法学である。
このうち現代文と数学は『学力』、地理と歴史はなぜか『運動』、外国語もなぜか『芸術』、礼儀作法(基礎)は『礼節』、基礎魔法学は『魔法』のパラーメーターに影響を与える。
毎日どの授業を重点的に受講するか、もしくは放課後に自習するかなどを選択して、上げるべきパラメーターの調整を行うのだ。それによってどの攻略対象と親密になるかを選ぶことができる。
パラメーターの数値が高いと今回のように試験で良い結果が出て、攻略対象者からの好感度が上がるのだ。
例えばクリストファーは『学力』、マクスウェルは『芸術』、レクトは『運動』、ビュークは『魔法』、シュレーディンは『礼節』のパラメーター数値が高いとデートイベントが発生しやすいといった設定があり、どんな風に成績を上げていくかはゲーム攻略のうえでとても重要なポイントだった。
だったのだが……。
(もしもセシリアさんがヒロインちゃんだとして……試験で満点を取れるってことは、彼女は全パラメーターが既にカンストしている可能性すらあるってこと。攻略対象選び放題じゃない! いやホント何者なのよあなた!? パラメーターコンプリートってかなり大変なんだからね!)
ゲームにおいてヒロインのパラメーターを完成させることは不可能ではない。しかし、それは学園生活三年間で達成するものであって、少なくとも一年生の二学期開始時点では不可能な話だ。
全パラメーターが完成しているということは、全てのキャラクターのデートイベントに遭遇することも不可能ではないことを意味し、まさに逆ハーレム展開になりそうな勢いであった。
(このゲームに逆ハールートはないけどね!)
乙女ゲーム『銀の聖女と五つの誓い』は、攻略対象との間に愛の誓いを立てることで聖女の力が覚醒し、ハッピーエンドを迎えるという設定だ。そのため必ず誰かと結ばれるストーリーとなっているので、全ての攻略対象者を侍らせるような展開は用意されていなかった。
聖女の力に目覚めるには揺るぎない一対一の純粋な誓いが求められるのである。
(まるでステータスをカンストさせて周回プレイをしてるみたい。まあ、あのゲームにはステータス引き継ぎ機能とかはなかったから、ゲーム上でもできないんだけど……その一方で)
アンネマリーは少し離れたところから試験結果を見つめる銀髪の少女に目をやった。
セレディア・レギンバースである。彼女は憂鬱そうに自身の結果を確認していた。
『第二十九位 セレディア・レギンバース 44点』
(何とか赤点にはならなかったけど、ゲーム的にはパラメーターはどれも低水準って評価よね。ゲームのヒロインちゃんは一学期に学年三位を取る設定だったからもっとできてもいいはずだけど)
セレディアの点数はかなり悪かった。悲しそうな表情も理解できる結果だ。
(まあ、現実的な話、伯爵に引き取られるまで母一人子一人の平民生活って話だし、勉強をする機会なんてなかったでしょうね。むしろ最下位になってないだけでも十分じゃないかしら)
(くそう、レアの記憶ではここで好成績を出せれば攻略の一助となるらしいが、あまりにも準備不足だわい! 我に人間の勉強など分かるものか! レアの記憶にも入っておらんし学園に入って初日から試験とか酷すぎるであろう! ……いかんいかん……上手くいかなくてセレディア悲しい)
内心の叫びを隠すように、セレディアは好成績を残せなかったことを悔いるような表情を浮かべた。それを目にしたアンネマリーは前世の自分を思い出して同調する。
(分かる、分かるわセレディアちゃん。私も女子高生だった頃は今ほど成績もよくなかったから試験のたびに項垂れたものよ。諦めないで! 凡人の私だって頑張ったから今の成績なんだし)
クリストファーやメロディと比べると、人間が持つ才能という意味でアンネマリーは凡人である。今は乙女ゲームの世界を救うという目標から悪役令嬢でありながら品行方正を徹底し、前世よりも勉学に励み、周囲の信頼を勝ち取っている。
自分も頑張ればできたのだからヒロイン候補のセレディアもきっとできるはず。アンネマリーは心の中でセレディアを応援していた。
☆☆☆あとがき☆☆☆
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