第18話 懇親会への誘い
「――試験、やめ」
「おおおお、復習するから夏期休暇カムバック!」
どこかの男子生徒が頭を抱えたまま叫ぶ声を聞きながら、メロディはペンを置いた。すぐさま試験用紙は回収され、後は採点を待つばかりである。
(一通りできたと思うけど、後は採点がどうなるかかな)
「試験結果は明日掲示する。今回はクラス内順位を発表する予定だ。では、本日のホームルームを終了する。下校時刻までには帰るように」
そう告げると、レギュスは教室を後にした。
レギュスが去ったことで室内の空気も弛緩し、生徒同士で雑談が始まった。今日は選択授業もないのでこのまま放課後に入るようだ。
生徒達も帰り支度を始めている。
「うえーん、メじゃなくてセシリアさーん!」
筆記用具を片付けていると、右側の席からルシアナがやってきた。
今にも泣き出しそうである。
「どうしたんですか、ルシアナ様」
「セシリアさんと隣の席じゃなかったよー!」
「そんなことで泣きそうな顔に?」
「そんなことじゃないもん!」
子供っぽく頬を膨らませて拗ねる姿の何と愛らしいことか。メロディは思わずクスリと笑った。
メロディの隣で椅子を引く音がして振り返ると、キャロルが立ち上がったところだった。
「お帰りですか、キャロルさん」
「ええ、この後用事あるから」
「そうなんですね。どうかお気を付けて」
「学園で気を付けなきゃいけない事件が起きたら大変だけどね。ルシアナ様、失礼します」
「ええ。さようなら、ミスイードさん」
少し素っ気ない態度だが貴族であるルシアナには最低限礼儀を持って対応し、キャロルは静かに教室を後にした。
「セシリアさん、ミスイードさんと仲良くなったの?」
「寮の部屋が隣で、少し挨拶をしたんですよ」
「そうなんだ。私、ミスイードさんとはあまり話したことがないから彼女のことよく知らなくて」
「いい人ですよ。私が入室した時もお嬢様と同じく軽く挨拶してくれましたから」
「へぇ、意外とお茶目な人なのかしら?」
ルシアナは不思議そうにキャロルが去った扉を見つめた。
「ルシアナ、セシリアさんから了承はもらえた?」
「あ、ルーナ様。お久しぶりです」
「ごきげんよう、セシリアさん。二週間ぶりね。魔物に襲われたと聞いた時は血の気が引いたものだけど、何事もなかったようでよかったわ」
「お気遣いありがとうございます」
ルシアナの背後にルーナが現れた。少し呆れた様子でルシアナを見つめている。
「それでルシアナ? セシリアさんに用事は伝えたの?」
「そうだった! すっかり忘れていたわ!」
「もう、ルシアナったらすぐこれなんだから」
ハッとするルシアナにルーナはヤレヤレと首を左右に振った。
「あの、用事って何でしょうか」
不思議そうに首を傾げるメロディに、ルーナは朗らかな笑みを浮かべて教えてくれた。
「さっきルシアナと話していたんだけど、今から懇親会をしないかと思って」
「懇親会、ですか?」
「ええ。せっかくセシリアさんが同級生になったのだし、私達の友人も交えて顔合わせの場を作れないかと思って」
「それはとても嬉しいですが、今からですか? 準備が大変では?」
「そんなに大それたものにしなければ問題ないわ。明日以降だと皆別々の選択授業があって予定が合わないでしょうし、できれば今日やりたいんだけど都合が悪いかしら?」
「いいえ。私は大丈夫です。ぜひ参加させてください、ルーナ様」
「よかった。といっても、参加者は今から集めるんだけどね」
「ほ、本当に急なことだったんですね」
「そりゃそうよ。だってレギュス先生が二学期の説明をしてる時にルーナと話し合ったんだから」
「ふふふ、今回も私達、隣同士の席になれてよかったわね」
「セシリアさんとも隣がよかったけど、ルーナとまた隣になれたのは運が良かったわ」
両腕を組んで満足げにうんうん頷くルシアナの姿に、ルーナとメロディはクスリと笑った。
それからルーナとルシアナは手分けして、ルキフとペリアン、そして他のクラスからルシアナの幼馴染みであるベアトリスとミリアリアまで引っ張ってきた。
「久しぶりね、セシリアさん。ルシアナから編入したって聞いた時は驚いたわ」
「ええ、本当に。でも、再会できて嬉しいです」
「今日からよろしくお願いします、ベアトリス様、ミリアリア様」
「初めまして、セシリア嬢。私はルキフ・ゲルマンと申します。どうぞよろしく」
「あの、セシリア様。私、ペリアンといいます。えっと……よろしくお願いします」
「よろしくお願いします、お二方。同じ平民ですし、気軽にセシリアとお呼びください」
新たに加わった参加者同士で挨拶が済むと、ルーナが話し始めた。
「とりあえず、今日はこのメンバーで懇親会を開こうと思うんだけどどうかしら」
「人数が多すぎても準備が大変だものね。今からサロンを借りるんでしょ? 予約できるかしら」
「残念ながらサロンは予約で埋まってしまっているよ」
ベアトリスがルーナに懸念を伝えた時だった。メロディ達へ声を掛ける人物が現れた。
「クリストファー様!」
ルシアナが驚いて声を上げる。現れたのは王太子クリストファーであった。その後ろにはアンネマリーとシエスティーナ、そしてセレディアの姿も見える。
「ごきげんよう、クリストファー殿下」
ルーナがそっと礼を取ると、メロディ達も倣って一礼した。クリストファーは苦笑を浮かべる。
「学園内ではあまり畏まらなくていいんだけどね」
「失礼しました。それで殿下、先程サロンが予約で埋まっているというお話でしたが」
「そうだよ、ルーナ嬢。私も先日サロンを予約したのだが、どうやらそれで今日は最後だったらしい。今から予約しようにも空いているサロンはないと思うよ」
「まあ、そうだったんですか。教えていただきありがとうございます。皆、ごめんなさい。やはり急に思い立った事って上手くいかないものね」
「気にしないで、ルーナ。仕方ないわよ。そうだ、だったら懇親会は私の部屋でやりましょう」
「ルシアナ様の部屋ですか。でしたら残念ですが私は参加できなさそうですね」
ルシアナ達のグループ唯一の男子生徒、ルキフは苦笑を浮かべて言った。
「あー、そっか。女子寮に男子生徒は入れないもんね。うーん、どうしよう……」
「でしたら皆さん、わたくし達の懇親会に加わりませんこと?」
クリストファーの隣にアンネマリーがやってきた。
「アンネマリー様の懇親会ですか?」
ルシアナが不思議そうに首を傾げると、アンネマリーがニコリと微笑む。
「ええ。実は、編入生のお二人とお話したくて今からサロンでお茶会をするつもりだったの。でもわたくし、恥ずかしながらセシリアさんの編入を把握していなくて。もしご都合がよければセシリアさんもお誘いしようと思っていたところに、皆さんのお話が耳に届いたのよ」
「サロンは十分広い。少し場を整えればこの場にいる君達も加えて懇親会を開けると思うんだ」
「あの、王太子殿下や皇女殿下のお茶会に私達が参加してもよろしいのでしょうか?」
思わずメロディが尋ねた。
元々は王太子クリストファー、侯爵令嬢アンネマリー、皇女シエスティーナ、伯爵令嬢セレディアという上位の王侯貴族が集うお茶会の予定だったようだが、そこに平民のセシリアが加わってしまってよいのだろうか。
しかし、シエスティーナが前に出てメロディの疑問を一蹴する。
「全く問題ないさ。ここにいる君達は私にとって同級生。王立学園では生徒同士の仲を深めるのに身分の差は考慮しない。そうだろう? クリストファー殿下」
「ああ、もちろんだ。本当はクラスメート全員を招待したいところだが、それをすると強制参加になってしまうからね。今回はこのメンバーで交流を深められると嬉しいな」
「あう、笑顔が眩しい」
背後から照明でも当てているかのような光り輝くイケメンスマイルが二つ。思わずベアトリスが呟くが、幸い誰の耳にも入ることはなかった。
「セレディア嬢も問題ないかな」
シエスティーナが振り返り、セレディアへ問い掛ける。
彼女は少し戸惑ったように微笑むと。
「え、ええ。私も大丈夫です。皆さん、よろしくお願いします」
儚げな笑顔でそう告げるのだった。
内心で「一気に人数が増えて邪魔だな!」と思っていることは微塵も表に出ていない。
「さて、セシリア嬢。私達の懇親会に参加してくれるだろうか」
クリストファーに問われ、メロディはチラリとルシアナ達を見た。彼女達もまたコクリと頷く。
「……はい。ぜひ参加させてください」
「それはよかった。では、すぐに会場を整え直すよう手配しよう」
こうして、メロディ達は王太子クリストファー主催の編入生懇親会に参加することが決まった。
☆☆☆あとがき☆☆☆
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