第2話 セシリア変身レビュー会

「わぁ、いい感じじゃないですか、メロディ先輩」


「そう? ありがとう、マイカちゃん」


「私は元の方がよかったと思うわ。何かこう、今まで自由だったものに急に規制が入ったみたいな窮屈さを感じるのよね」


「……だから変態入ってますって、お嬢様」


「そんなことないもん!」


 どうにか泣きじゃくるルシアナを宥め、朝食を取らせることができたメロディだったが、メロディの変身シーンが食休みの話題に上がり、なぜかルシアナの部屋に女性使用人が集まって検証をすることになった。


「お姉様、よくお似合いです」


「ありがとう、セレーナ。今日はこの格好でレギンバース伯爵様のお屋敷を訪問するつもりなんだけど、大丈夫かな?」


 変身シーンの白塗り加工について言い合うルシアナとマイカを他所に、メロディはセレーナに服装の是非について尋ねた。

 セシリアに変身し、メイド服も庶民の服に切り替わっている。王都の平民区画の中層辺りを意識して作った平民風ドレスである。


 輝く金色の髪はふわりと下ろしただけで、舞踏会の時よりも抑えめだがセシリアだと分かる化粧が薄っすらと施されている。

 クルリと一回転するメロディ。

 セレーナはスッと目を細めると顎に手を添えてメロディの姿を確認し始めた。


「……服装に関しては特に問題ないと思います。お姉様が演じるセシリアさんは辺境出身の平民ですから華美な装飾は必要ありません。伯爵様にお会いするとはいえ公式の場でもありませんので清潔な服装であれば特にお咎めもないでしょう」


「そう、よかった」


「ですが、髪型は少し手を加えてもよいかもしれません」


「髪型を?」


「あ、私もそれは思いました! 今のメロディ先輩、普段のオフの日の先輩そのまんまですもん」


「……言われてみればそうかも?」


 貴重な(不本意な)休日の自分の格好を思い出す。

 仕事の時は後ろにまとめていた髪は特にアレンジすることなくサラリと下ろし、服装は一般的な平民用の女性服を着る――以上!


 特別化粧もしなければアクセサリーをつけることもない、ナチュラルな美少女仕様である。

 つまり、シルエットだけ見れば今まさに姿見に映るセシリアの姿と何ら変わらない格好だった。


「……確かに」


 セシリアがメロディだとバレれば、最終的にメロディの『世界一素敵なメイド』になるという夢の終焉にも繋がりかねない重要な問題だ。

 ルシアナを守りたい気持ちは本物だが、メイドを続けたい気持ちも本物なのだ。


 王立学園に休日のメロディを知る人間がいるとは思えないが、少しでも身バレの可能性があるのなら対策をしておきたかった。


「でも、どんな髪型がいいのかしら?」


 そう呟くメロディの視界の端で、ルシアナの瞳がキラリと光る。


「髪を波打たせる感じはどうかしら。私とお揃いで可愛いと思うわ!」


「ここは思い切ってツインテールですよ。私とお揃いだし、シルエットが激変しますよ」


「ダメよ、マイカ。あなたくらいの年齢ならともかく、セシリアのツインテールはちょっと子供っぽい気がするわ」


「それを言ったらお嬢様と同じ髪型にするのもどうなんですか。お揃いの髪型で一緒に登校なんて子供っぽいと思います」


「うーん、どうしたらいいのかな? 印象を考えるなら舞踏会の時の髪型で行くべき?」


 言い合うルシアナとマイカを他所に、真剣に髪型を考えるメロディ。メイドの技能として前世でファッションの勉強もしてきた彼女だが、どうにも自分を対象にした時の良策が思いつかない。

 悩みだすメロディの姿にセレーナは苦笑した。そしてそっとメロディに近づく。


「お姉様、舞踏会の髪型は学園生活には少々華美でしょう。そんなに難しく考える必要はありませんよ。ここをこうして、こっちもこうするだけで……ほら、可愛くなりました」


「「おお~」」


 セレーナがメロディの髪型に手を加えると、言い合いをしていた二人から感嘆の声が零れた。

 メロディが姿見で確認すると、耳の辺りの両サイドに小さな三つ編みが結われていた。


「お嬢様の護衛をするのでしたら髪型で目立ちすぎてもいけませんし、この程度のアレンジでも十分に印象は変わると思います」


「確かに、結構雰囲気が変わるわね」


「編み込みがあるといつもよりお嬢様感増し増しな気がしますね。いいと思います」


 ルシアナとマイカに褒められ、メロディの頬がほんのり色づく。

 まんざらでもない様子。


「ありがとう、セレーナ。今日はこれでやってみるね。あ、でも、全体のシルエットとしては何も変わってない気がするけどいいのかな?」


「そもそも髪色が違いますから後ろ姿で気付かれる可能性は低いです。ですから、正面に相対した時の印象を優先しました。学園生活であまり派手な髪型にしても貴族の方々の反感を買う可能性もありますから、これくらいがちょうどよいと思います」


「そうね、オリヴィア様とか怒りそう」


「オリヴィア様……確か、この前の舞踏会でお会いしたランクドール公爵家のご令嬢ですね」


「舞踏会の時もセレディア様の無作法を叱責していたでしょう。あまり浮ついた雰囲気がお好きじゃないみたいだから、学園生活に不似合いな髪型をしてきたら注意されるかも」


「学園に編入できたら先日の件は是非お礼を申し上げたいですね」


「うーん、できるといいけど」


「何かあるんですか?」


「……春の舞踏会で私、マクスウェル様にパートナーをしてもらったせいか凄く注目されちゃったでしょう?」


「ああ、『妖精姫』の件ですね」


「うっ。ま、まあ、どうもそれがお気に召さなかったみたいで一学期は仲良くできなかったのよ。メロディ、というかセシリアも舞踏会で『天使』なんて呼ばれていたでしょう? オリヴィア様にあまりよく思われていないかもと思って」


 腕を組んでうーんと悩むルシアナ。

 説明を聞いたマイカは思い出したようにポンと手を鳴らす。


「そういえば私がメロディ先輩について学生寮に入った時にそんな話がありましたね。お嬢様がランクドール公爵令嬢に嫌われてるからってメロディ先輩、一部の使用人から遠巻きにされてましたもん」


「ええええ!? 何それ、初耳なんだけど!?」


「マイカちゃん、しー!」


「メロディ、そんなことになっていたんなら教えてよ! うぬぬぬ、知っていたらいくらオリヴィア様だろうと容赦なくハリセンツッコミを食らわせてやったのに」


「そんな気がしたから言わなかったんですよ。使用人の事情でお嬢様の学園生活に支障をきたすわけにはいきませんから。それに、ランクドール家の使用人の皆さんとお話できないのは残念ですがこれといって実害があったわけでもありませんし」


「ぬう、メロディがそう言うならしばらく様子を見るけど……」


(二学期も同じことをしていたらメロディが止めても黙っていないんだから。舞踏会でセシリアを助けてくれたオリヴィア様といえど、こればっかりは容赦しないわ!)


 ルシアナは内心で決意するのだった。


 メロディのセシリアスタイルが確定し、変身シーンを修正してほしいというルシアナの希望は多数決の結果、否決された。

 内訳は反対二(マイカ、セレーナ)対賛成一(ルシアナ)である。


 なお、当事者のメロディは白塗り加工の必要性をポーラから指摘されてもよく分かっていなかったので投票権が認められなかった模様。

 マイカとセレーナは仕事に戻り、室内にはルシアナとセシリア姿のメロディの二人だけとなった。そろそろレクトが迎えに来る頃なので、それまでルシアナの部屋でお茶でもしようということになったようだ。


「お嬢様、セシリアの住まいの件、ありがとうございます」


「ん? ああ、そのこと。大したことじゃないわ。お父様にお願いしたら快諾してくれたもの」


 辺境から王都にやってきた設定のセシリアには、当然のことながら王都の住まいなど用意されていない。そこで、書類上のセシリアの住まいをこのルトルバーグ伯爵家ということにしてもらったのである。


「春と夏の舞踏会で私達の仲がいいことは見せられたと思うし、辺境から来て住まいがないことは調べれば分かることだから仲良くなった私が屋敷に招待していても不自然ではないわ。そもそもメロディは学園でも私を守るために編入試験を受けようとしてくれているんだから、これくらい協力して当然よ。気にしないでね」


 ルシアナはニコリと微笑んだ。


「ありがとうございます。編入試験を受けるのに居住地がはっきりしないのは問題でしたから助かりました。住む予定のない部屋を借りるのは不経済ですし、レクトさんのお屋敷に間借りすることも考えましたが、未婚の男性の家に書類上とはいえ私が住まうのはレクトさんにご迷惑が――」


「そうね、本当によくないことだわ。同棲なんて私の目の黒いうちは絶対に許しませんよ!」


「お嬢様の目は最初から黒くありませんよ? ……どこでそんな言葉遣い覚えてきたんですか?」


 プンプン怒るルシアナにメロディが苦笑した時だった。

 扉をノックする音がした。


「お姉様、レクティアス・フロード騎士爵様がお越しになりました」


 セレーナが入室し、レクトの来訪を告げた。



☆☆☆あとがき☆☆☆

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願い致します。

第5章の連載を再開します。

ラストまで毎日更新の予定です。

本日のみ0時と17時更新。明日より17時更新となります。


大切なお知らせ?

2024年1月15日(月)小説&コミック最新各4巻が同日発売します。

特典付きの2冊同時購入セットも予約受付中です。

特典の詳細はTOブックスオンラインストアにてご確認ください。

よろしくお願い致します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る