小説第2巻発売記念SSおまけ マイカ、魔法使いたくNai?

 メロディから『魔法使いの卵』をもらったその日の夜――。


「はぁ。メロディ先輩、日に日に行動がゲームからかけ離れていってる気がするなぁ」


 ぼやきながら寝間着に着替えるマイカ。その胸元には『魔法使いの卵』がキラリと輝いている。

 色々ツッコミを入れつつも、何だかんだでしっかりペンダントを受け取っているマイカだった。

 ……ブーブー文句を垂れるのはそろそろ無理があるのではないだろうか。

 マイカはベッド脇にペンダントを引っ掛けた。卵と同調するためにペンダントを常に身に着けておく必要があるが、その程度の距離なら問題ないらしい。


「おやすみ、グレイル」


『ぐーぐー……い、命ばかりはお助けおぉ……ぐーぐー』


「……なんであの子、部屋のすみっこでプルプル震えながら眠ってるんだろう?」


 きっと『この屋敷に安息地はない!』とか思っているのだろう。三人のメイドの中で唯一普通の少女だったマイカが、銀の魔力たっぷりのペンダントを身に着けるようになった。ようやく屋敷中の人間が『銀聖結界』もどきを普段着にしている状況にも慣れてきたというのにこの仕打ち。

 魔王グレイルの寝言が弱々しいものになっても仕方がないのである……寝るのだが。


「まあいいか。明日も早いし、おやすみなさーい」


 マイカの意識は夢の中へと誘われていった――そして、ペンダントの卵が銀色に淡く輝く。


(ふふふ、早く生まれないかな、私のパートナー。そうしたらいっぱい魔法を使っ……)









「……あれ?」


 ハッと目が覚めたマイカ。そこは伯爵邸に与えられた自分の部屋ではなかった。寝間着ではなくメイド服になっており、それでいて髪は結ばれていないというちぐはぐな格好。もちろんベッドに寝転がってもおらず、見知らぬ地に立っている。


 そもそも、ここがどこなのか分からない。何せ、何もないのだから。

 地面も空も真っ白な不思議な空間。だだっ広いそこは果てが見えず、ただただ白い世界が広がっている。まるで夢のような不思議な世界……夢?


「……ああ、これ、夢だ」


 マイカは唐突に理解した。これは今自分が見ている夢なのだと。明晰夢というやつだろうか。


「まあ、分かったからって何もできないんだけど。こんな真っ白な場所で何をすればいいのやら。さっさと目を覚ました方がいいのかな? でもどうやって、きゃっ!?」


 突然、マイカの目の前で銀色の光が弾け飛んだ。マイカは思わず悲鳴を上げてしまう。


「もう、急に何なの……て、今度は何?」


 弾けたはずの銀色の光。それは銀色に輝く光の玉となってマイカの眼前に浮かんでいた。



 そして――。



『やあ、マイカ。はじめまして』


「しゃべった!?」


 光の玉が口をきいた。マイカは思わず後退ったが、なぜか光の玉から苦笑を浮かべたような気配が感じられた。


(光の玉が苦笑って、顔も何もないのにそんなの分かるわけ……え? でも、まさか……)


「まさかあなた……『魔法使いの卵』?」


 マイカは再び、光の玉がパッと喜びの笑顔を浮かべたことが分かった。そう、分かったのだ。


「もしかして、これが『同調』……?」


『勘が良くて助かるよ、マイカ。そうさ、僕が君のパートナーになる存在。まだ名前がないから便宜上『魔法使いの卵』で通させてもらうよ』


「……まさか、夢に出てきて話ができるなんて」


 メロディからこんな話は聞かされていなかったので、マイカはかなり驚いていた。


『正確には違うんだけどね。君との同調はまだ始まったばかりで、こうして君と話している僕自身もあくまで現段階で同調できた君の記憶と知識から作り上げた疑似人格に過ぎないのさ』


「じゃあ、まだあなたが生まれてくるわけじゃないってこと?」


『その通り。僕はまだまだ生まれてくるには未完成な状態だ。このまま育つかもしれないし、全く異なる存在として生まれてくることも否定できない。僕にも未来のことは全く分からないよ』


「だったらどうして今私とこうして話しているの?」


『これは君との同調処理の初期工程といったところかな。夢の中でとはいえ君と対話することで同調精度を向上させているんだよ。おそらく、目が覚めた君はほとんど覚えていないんじゃないかな』


「そうなんだ」


 同調の方法にも色々あるんだな、とマイカは感心して頷いた。


『君の記憶と知識に同調していきながら、僕は君に相応しいパートナーとして最適化されていく。きっと君の期待に、願いに応えられると思うよ』


「私の、願いに……?」


『君との同調が進めば進むほど、僕は君を理解していく。表層の願いも、心の奥底に眠っている君自身さえ気づいていない願いにだって、辿り着くことだろう。そして、それを叶えてあげることこそ僕の使命ってわけだね』


「あなたが、私の願いを?」


『そうさ。魔法とは奇跡の力。きっと君の願いも叶えられるよ。だから……』


 光の玉が優しく微笑んだ気がした。この子は本気なのかもしれない。マイカはそう感じた。

 本当にそんなことができるのかは分からない。だが、そう思ってくれていることはやはり、気恥ずかしくも嬉しいと思ってしまう。



 目の前の存在がいずれ生まれる自分のパートナーなのだと思うと、マイカは――。











『だから……僕と契約して魔法使いになってよ、マイカ!』



「ちぇえええええええええええええええええんじ!」


「キャイイイイインっ!?」


 マイカは勢いよくベッドから起き上がった。息を荒げ、なぜか汗だくである。突然の鬼気迫る声に、眠っていたはずのグレイルまで悲鳴を上げて起きてしまった。


「はぁ、はぁ……ご、ごめんね、グレイル。今なんだか酷いセリフが……あれ? えっと、何を言われたんだっけ?」


 とても危険な夢を見たような気がするのだが、マイカはその内容を思い出すことができなかった。


「この世界が終わってしまいかねない、とても恐ろしい夢を見たような気がするんだけど……」


 マイカは何気なく『魔法使いの卵』を見た。……大変しょっぱい顔をして。


「……今さらながら物凄く心配になってきたけど、大丈夫かなぁ?」


 ちょっと不安に思いつつも、再びマイカは夢の世界へ旅立つのであった。

 乙女ゲームをこよなく愛する少女、マイカの記憶と知識の中には魔法関連の二次元知識がめいっぱい詰め込まれているのだが……一体、卵はどんな姿で生まれてくるのだろうか?







 その後――。



「何に代わってもお仕置きなんてしないから!」

「キャイイイイイイインッ!?」


「とっととおうちに帰りな……お前が帰れ! いや、孵れに掛けたわけじゃないから!」

「キュワアアアアアアアアアアアンッ!?」


「しかしてその実体は――愛の戦士プリティ・マイ……きゃああああああ! こんな恰好できるかあああああ!」

「ギャイウワギギャワアアアアアアアアアンッ!?」







 そんな声がマイカの部屋に響いたとか響かなかったとか……。






【小説第2巻発売記念SS おしまい】・・・第3章へ続く。

※途中で閑話を挟む可能性も無きにしも非ずですが、おまけはともかく、このお話の設定は第3章へ持ち越される予定ですのでよろしくお願いいたします。

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