第31話 光り輝く白銀のアレ
ルシアナとルーナの戦闘は熾烈を極めた。
といっても、お互いに怪我などはない。
ルシアナはメロディの魔法のおかげでダメージゼロ。
対するルーナは無数の黒球を放ち音と光でルシアナを牽制する。
そのため、二人の距離は縮まらない。
ルシアナには攻撃手段がなかった。
ルーナに近づくべく走り出すルシアナ。だが、ルーナから黒球が放たれ、視界を遮られてしまう。気付いた時にはルーナはルシアナから距離を取っているのだ。
お互いに堂々巡り。千日手状態であった。
「……何か決め手がないと終わらないんじゃない、これ?」
攻めあぐねるルシアナは、ポツリと呟く。
ダメージこそ負わないが、いずれ体力には限界が来る。つまり、実質的にはルシアナが不利であった。この空間に閉じ込められたままルーナに逃亡でもされれば、ある意味一巻の終わりだ。
「ルシアナ、一体何なのその力は! どうして私の攻撃が効かないのよ!」
黒球を放ちながらルーナは叫んだ。
「一体どんなズルをしたの! 許せないわ!」
よく分からない黒い力の影響なのか、とても感情的になっているルーナ。
ルーナの力を完全に防ぐ守りの魔法を妬んでいるのだ。
だが、これにはさすがのルシアナもカチンときた。
「何よ、人のことズルいズルいって! 自分ばっかり苦労してきたみたいに言わないで!」
あまりに一方的な嫉妬心を向けられ、ルシアナも感情を爆発させた。
だが、それは事態を好転させる鍵となる。
ルシアナの感情が大きく動いたせいだろうか、彼女はその瞬間、胸元に揺れる不思議な力を感じ取った。
それは、いつも身に着けている指輪のペンダント。胸の奥からそれを取り出すとペンダントの先の指輪が、白銀の煌めきを放っていた。
「これは確か……」
それは、一ヶ月ほど前のこと。魔法を使えるようになるため、メロディに魔力感知の訓練をつけてもらったのだ。自分の体内にメロディの魔力を循環させてもらいながら訓練をして、いつの間にか指輪の石の真ん中に銀色の粒が埋まっていた。
当時は気が付かなかっただけかと思っていたが、今になってみればよく分かる。
これは――。
「メロディの力の結晶……」
自身の体内でメロディの魔力を流されていたからよく分かる。指輪から溢れ出しているこの煌めきは、メロディの魔力だ。
指輪の魔力が自分に何かを訴えかけている。でも、それって何?
「はああああああああああああ!」
「――っ!?」
指輪に気を取られた隙を狙って、ルーナが黒球を放ってきた。当たったところでダメージは入らないが、それでも心情的に当たりたくはない。ルシアナは全力で回避する。その時、手に持っていたペンダントの鎖が揺れ、指輪が黒球の一つに当たってしまった。
「指輪が!?」
と、叫びはしたが……。
……それではじけ飛んだのは黒球の方であった。
「今度は何っ!?」
驚くルーナ。ルシアナもその光景に目を見張った。
まさか、この指輪なら……。
「ルーナへ攻撃ができる?」
しかし――。
「ルーナを傷つけたいわけじゃないのよね。どうしよう」
もし指輪をぶつけてルーナが先程の黒球のように弾けでもしたらと思うと、攻撃に使ってよいものか判断に悩む。
だが、そんなルシアナの気持ちを察するかのように、銀の光が溢れ出した。
そして、指輪から声にならない不思議な意思が伝わってくる。
「……指輪をはめればいいの?」
ルーナの攻撃を避けながら、指輪を鎖から外し、右手の中指にそっとはめた。すると、指輪からさらに多くの光が放たれ、ルシアナの右手の中に何かを象りながら収束していく。
そして出来上がったものは――。
「……ハリセン?」
光り輝く見事な白銀のハリセンが生まれたのである。
非殺傷型拷問具ハリセン。
メロディに教えてもらい、主に伯爵邸で父ヒューズへツッコミを入れるためにルシアナも愛用している品である。使い方なら熟知している。
ハリセンを手に入れたルシアナはそれをギュッと握りしめ、不敵に笑った。
「これなら、全力でひっぱたいても死ぬ心配はないわね」
「――っ!?」
戦意の籠ったルシアナの視線にルーナは慄く。そしてルシアナは一直線に駆け出した。
「させない!」
ルーナは再び無数の黒球を打ち出す。だが、ルシアナは避けなかった。
光と音は面倒だが、ダメージは通らないのだ。
向かうべき道が分かっているなら、逃げる必要はない!
だが、そんな光景を目にしたルーナは焦った。攻撃は効かず、ルシアナは逃げない。この場を離れて距離を取ればいいのに、そんな思考すら浮かんでこない有様だ。
気が付けば、ルシアナはルーナの目の前に辿り着いていた。
「ルシアナ!?」
「ルウウウウナアアアアアアアアアアアアア!」
両腕を振り上げ、ルーナの頭頂目掛けてルシアナはハリセンを振り下ろす。
「いい加減にしなさあああああああああああああああああああああああああああい!」
スパーーーーーーン!
ルシアナの力強いツッコミとともに、ハリセンに宿っていた全ての銀の魔力がルーナの体内を駆け巡った。
「あああ、あああ、ああああああああああああああああ!」
白銀の光がルーナの体内に溜まっていた黒い力を相殺していく。
やがてルーナは光に包まれ、残滓の魔王によって与えられていた全ての力は光とともに消えてしまった。
気が付けばハリセンも消滅し、ふと見ると指輪にあった銀の粒も消えている。今の攻撃で蓄えられていた全ての力を使い果たしたらしい。
ルシアナは指輪を見つめながらクスリと微笑んだ。
(来ないでいいなんて言って、本当に最初から最後まであなたの力に頼り切りだったわね)
不要と言った時、とても傷ついた顔をした最高のメイドのことを思い出す。
後で謝らなくちゃと思ったが、今は目の前の友人のことを優先しなければ。
ルーナは呆然と立ち尽くす。そして、自分の手を見て、そこに涙が零れ落ちた。
涙を流したままルーナはルシアナの方を向いた。
そして……。
「……ごめんなさい、ルシアナ」
正気を取り戻したルーナは、そのまま地面に倒れ伏してしまった。
「ルーナ!」
ルシアナはルーナを抱きかかえた。ハリセンのショックが大きかったのか、意識はやや朦朧としていて、身体に力が入らないらしい。ルシアナに身体を預け切っている。
「大丈夫? 苦しくない?」
「……どうしてそんなに心配してくれるの? 私、あんなにあなたのこと罵って、殺そうとまでしたのよ。なのに……」
「あれは、さっきの変な力のせいでしょ。気にしなくていいわよ」
「違うわ……確かに、あの力に酔っていた部分もあるけど、でも、あれは私の本心だもの」
ある程度思考を誘導されていた節はあった。でも、全ての感情が偽りだったわけではない。
可憐で成績優秀で、素敵な人達に囲まれるルシアナが羨ましかったのはどうしようもない事実なのだ。
醜い。なんて醜い。
あの黒い力から解放された今だからこそよく分かる。
(私って、何て汚い子なのかしら……?)
ルーナは大粒の涙を流した。
「もう、ルーナ。まだ変な力に操られてるんじゃないでしょうね? 本当に何を言ってるのよ?」
「え……?」
「人間なんて嫉妬する生き物よ。私がどれだけあなたのこと羨みながら友達やっていたと思っているの。そんなことも分からないなんて、ルーナったらむしろそっちを反省してほしいわ」
呆れたように叱られて、ルーナは理解ができなかった。
ルシアナが自分を羨む? どこを?
「……全然理解してないって顔ね。いいわ。よーく聞いていてね。教えてあげるから」
そうして、ルシアナはルーナへの嫉妬ポイントを口にするのだった。
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