閑話
閑話 グレイルさんの優雅な朝食
ルトルバーグ家の新たな家族として引き取られた愛らしい白銀の子犬、グレイル。
片耳としっぽ、足先の黒い毛並みがチャームポイントの彼の朝は――遅い。
「ぐふふふふ……八つ裂きにしてくれるわぁ」
おっと。メロディの部屋の隅に置かれていたバスケットから不思議な声が……グレイルである。
グレイルは以前メロディが用意したバスケットをそのまま寝床として利用していた。いびきをかくグレイルの口の横から、大きな舌がベロリと垂れる。少し前まで野生だったとは思えないほどに気が抜けた様子で、お腹を上にして夢見のよさそうな顔で眠っていた。
大丈夫だとは思うが、まだ子犬のグレイルを夜に一匹で放置するわけにもいかず、寝起きはメロディの部屋を利用していた。
一応ルトルバーグ家の飼い犬という扱いなのだが、まさかルシアナ達の部屋に置いておくわけにもいかず、一人で問題ないと判断されるまではメロディが預かることになったのである。
時刻は午前五時頃。既にメロディは仕事のために部屋を出ていたので、グレイルの口から漏れる不思議な寝言――もとい、人語を聞くことはない。
実は毎日このくらいの時間になるとあのような寝言を発しているのだが、この時間にメロディは部屋にいないので、彼女はいまだに彼のあの声を耳にしたことはなかった。
……なんというご都合展開。だが、それでいいのである。それでこそメロディだ。
それにしても八つ裂きって……グレイルは一体どんな夢を見ているのだろうか。ちょっと心配になる。まあ、それ以前にどうして犬が人間の言葉を発しているんだという疑問はあるが、誰も聞いていないのだから気にする必要はないだろう……楽しそうで何よりでだ。
「げははははは……皆殺しにしてくれるぅ。むにゃむにゃ」
あ、また。
グレイルの寝顔は、大変すがすがしいものだったのだが、残念ながらそれを見る者は誰もいない。
二三寝言を言うと、グレイルは静かになる。バスケットの中でコロコロと寝返りを打ちながら、子犬らしくクルリと丸まって小さな寝息を立て始めた。
先ほどまで完全無警戒で寝言を口にしていたグレイルと、今のグレイルではまるで別人、じゃなくて別犬のように寝相が異なっている。だが、どちらも熟睡していることは間違いなさそうだ。
グレイルの朝は遅い。早寝遅起き。夜の九時に寝て、目を覚ますのは完全に日が昇った朝八時という、大変優雅でゆったりとした起床となる……まあ、犬なので誰も文句を言いはしない。
グレイルの鼻先がクンクンと動き出す。これは――ごはんの匂いだ!
「キャワン!」
バスケットから突然グレイルが立ち上がる。鼻をひくつかせて、いつものように扉の前に直行すると、猫でもあるまいし、扉を爪でカリカリしだした。
「グレイル、扉に爪とぎしちゃダメだって言ってるでしょ」
扉の前にグレイルがいることは分かっているので、扉はゆっくりと開かれる。グレイルの朝食をもって、メロディが部屋に帰ってきたのだ。
「今日は、昨日森で狩ってきた猪っぽい獣のお肉を使った肉団子だよ」
「キャウン♪ うまうま、うまうま」
「ふふふ、なんか『うまうま』って人間の言葉をしゃべっているみたいだね」
前世で見た面白ペット動画を思い出しながら、メロディはクスリと笑う。
……まさか本当に『うまうま』言っているなんて夢にも思っていないメロディは、肉団子に食いつくグレイルをとても微笑ましそうに見つめていた。
黒い毛先の片耳が喜びを表すように何度もピコピコと動いていたのだが、メロディはただ可愛い仕草だとしか思わなかった。
今朝もグレイルは、とても幸せそうである。
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