変わり、はじめてる
「呼び方、変えた……? 変えた、よねぇ」
「変えたが?」
「あ、うん……いいと、思うよぉ?」
「おお、ありがとうなゆえりん」
両手をガシッ、と掴まれた。
思わず――頬が、熱くなる。
「え……わ、わ、わ、ど、どうしたのかなぁいきなり手なんかとっちゃってぇだいたんでぇゆえ、こまっちゃ――」
「お前の、おかげだ。お前が酒田Gの元へ連れて行ってくれたから、あのように話してくれたから、俺は自身の蛙(かわず)っぷりに気づくことが出来た。感謝している」
熱い握手は、続いていた。
柚恵は正直、もうぜんぜんいっぱいいっぱいだった。
「へ、へぇ、え……そ、それはぁ、もぉお、なんていうかぁ、光栄というかぁ?」
「気にしなくていい。お前のそういうところは理解しているつもりだ。俺たちは、同士だ。確かに趣味思考立ち位置は微妙に違ったりするかもしれないが、向いている方向は同じのハズだ。これからも悩み戸惑い道の途中で立ち止まるような時は、互いに励まし時に叱咤し、先に進んで行こうじゃないか!」
なんか、とりようによってはプロポーズに聞こえなくもない台詞。
柚恵は、ひたすらにテンパっていた。手をパタパタさせて、いつもの裏そろばんを打つ余裕も無い。同族だと思って話したが、ここまで真っ直ぐに好意を向けるタイプだとは夢にも思っていなかった。
だから戸惑いの中にも、正直嬉しさがあった。舞奈以来の、眩しい優しさ。
だから気づく余裕など無かった。
守ろうと決めていた親友の、無感情に近い視線にも。
「それでまー、間が柚恵ラブってのはわかったからさ。そろそろ行かない? 遅刻しそうだし」
言うに事欠いて、ソレだった。
「ちょ、おまっ――じゃないまいにゃあ? そぉいう決め付けた言い方はぁ、あんまりよくなぁ――」
「へ? 違うの?」
私に聞かないで、と柚恵は思った。口には出せなかったが。
困って、視線の先を求めて弥生を見た。
すごくいつものように、笑っていた。
柚恵もホッとして、笑みを作った。
「や、やよよん――」
「柚恵、六彦が好き?」
唐突過ぎる、それは問いかけだった。
「え……」
事態の深刻さに気づくのに、それほど時間が必要ではなかった。コレの答え方如何によって、これからの自分たちの立ち位置が――確定してしまう。
仮に好きだといえば、彼女は身を引くかもしれない。そうなれば自分が彼女を救うことは不可能になる。もしくは自分を敵だとみなし、自分たちの友情は終焉を迎えるかもしれない。答えなければ不信を生み、はぐらかせばシコリを残す。嫌いなど持っての外。
どの手を取っても、すべて現在の自分たちを存続させることは不可能だった。
それはとても嫌な連想で――柚恵はあっさりと、諦観の境地に至ってしまった。
夢の時間が終わるのは、いつだってアッサリだ。
どうとでもなれ。
「えー、恥ずかしいなぁ……そうだなぁ、ゆえはぁ――」
「好きに決まってるんだろ?」
時が、止まったかと思った。
まさか間六彦が、しかもそんな言葉を話すとは思ってもみなかったから。
「え……な、なにいってるのかなぁ? ろっく――」
「だって、仲間だろ?」
ぐい、と迫ってきた。
わかる、理解できる、だってそれは自分が言った――
「え、う、え、ん……」
「仲間なんだろ? だったらお互い好きじゃなきゃ、おかしいよな? 嫌いなやつ、仲間に出来ないよな? だからその質問の答えは、そうだよな? 違うのか?」
変わり、始めてる。
柚恵は、ふと気づき、それは確信に至った。
なにが自分と同種である彼を変えているのかと考えた時――簡単に行き当たってそして、びっくりした。
――私?
「……ちがわ、ないと……思う、よぉ?」
「ああ、よかった」
かくん、と間六彦の膝が折れて、その場に崩れ落ちた。みな驚き、駆け寄る。それを手で制して彼は、
「いやぁ……まったくひとを信じるってやつは無防備で、恐ろしくて……嬉しいもんだな」
どっくん、と自分の心臓が鳴るのを柚恵は感じた。
その清々しい笑顔に、やられてしまった。
「え……柚恵、どーしたの?」
弥生の言葉に、柚恵は顔を向けた。
「え……な、なにがぁ?」
声が、震えていた。
「ん? どうしたのグレープフルーツ姫……って柚恵、なに! なんでいきなり……泣いてんのよ!?」
びっくりして、自分の頬に手を当てた。
濡れていた。
「は? はは……やだなぁまいにゃあ、何言っているのぉ?」
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