にふぇでーびるっ
「なにがだ?」
「どうして、仲良くなりたくないの?」
「逆に問うが、お前は俺と仲良くなりたいのか?」
ショックを受けたような顔を、された。
「どういう、意味?」
「言葉のままだ」
そこで舞奈は、ピンときた顔をした。
「……あんた、自信ないの?」
今度は間六彦が、目を点にした。
「どういうことだ?」
舞奈はいつもの調子に戻っていた。
つまりは腰に手を当てナイムネ張った、ドヤ顔。
「あーそっかそっかー、"キミ"は自信ないんだね。ウチたちみたいな沖縄美少女にいきなりチヤホヤされて、びっくりして、光栄すぎて、それで戸惑って恐れ多くて、距離取っちゃってるだけなんだねナルホドナルホドー」
「や、いや……まずどこからツッコむべきか、悩ましいところだが……」
「またまたー照れちゃってー、そっかそっかそういうことかー……ナルホドっ、わかったわ! ウチも間とは、そういう感じで付き合うわ!」
「……なにがわかったんだかわからんが、元気になってなによりだ」
「うん、にふぇーでーびるっ」
親指ビシーッ、と突きつけられた。間六彦は、もうどうでもよくなっていた。なにが悪魔(デビル)なのだろうか?
「ハハハハ、そういや間、マンゴー食べる? なんだったらもいでくるけど?」
「……どこにマンゴーなんてあるんだ? しかもそれを言うなら、持って来るだろうが?」
「ううん、もいでくる――」
言うが早いか舞奈は飛び出すように軒先を駆け出し、庭に出て奥のほうに隠れていた一本の木に駆け登り、と思ったらあっという間に下りてきてこちらに向けて駆けてきて――
「けど?」
差し出された右手には、確かにオレンジ色のマンゴーが。
「……わるいな」
「ううんっ」
まるで弥生のノリだった。恭しく受け取るが、しかしどうするか迷う。まさかグレープフルーツのように丸齧りしろと?
「あ、ちょっと待ってて」
迷っていると、舞奈は今度は家の方へと駆け出し、どうやらキッチンから一本の果物ナイフを手に戻ってきた。
「じゃあ借りるよ……よっ、ほっ、はっ」
渡したマンゴーを再度回収し、手早く三等分し、種の無い両端の二つをさらに賽の目切りにして、皮を握り――
「と……ほいっ」
「おぉ……まるで花だな」
両側に引っ張ると、店で見るような見事なブロック状に分かれた。
「じゃあスプーンで、どうぞっ」
「おぉ、すまんな」
感心する手際だった。ここまで僅かに5,6秒、ほとんど大道芸といっていいレベルだ。間六彦は再び恭しく受け取り、スプーンですくって、口元に運んだ。
まるでプリンの食感だった。少し噛んだだけで、ブニュンとトロけていった。その後甘みが、口いっぱいに広がる。
「ほおぉおお? こ、これは甘いな……!」
「でしょ! やはは、良かった良かった!」
バンバン背中を叩かれた。打ち解けたようなのは良かったが、馴れ馴れし過ぎるのはそれはそれで考えものだった。
「出来たよぉ?」
柚恵に呼ばれて家に上がると、舞奈とは対照的になぜか弥生は不機嫌顔だった。
柚恵たち三人による紅芋料理は、全部で三品だった。おばあちゃんから習った紅イモまんじゅうに、Gちゃん特製の紅芋タルト、弥生が頑張った輪切り素揚げ。すべて素材が生かされた素朴な甘みで、都会の濃い味付けに辟易しているだろう間六彦に楽しんでもらえるだろう逸品となった。それぞれが幸せそうな表情で噛み締め、ワイワイ騒ぎながら競うように食べた。間六彦だけは遠慮がちだったので、背中を叩いて促した。いつもの困ったような表情を浮かべられた。
それが、気にかかった。
どうしたらいいのか、少しだけわからなくなった。
「――――」
「じゃあウチらもお風呂入ってくるね? ホラ、いくよグレープフルーツ姫!」「……なーんかご機嫌ね、舞奈」「えっ、そっかなー、うっふふー」「……気持ち悪っ」
ふたりがワチャワチャ言い合いながら、襖から出て行く。それをパタパタ手を振り見送り、柚恵は深く、静かに――落ち込んだ。
「ハァ……」
疲れた。
そう、感じていた。五人での、集団行動。まだたった半日だが、それによる疲労が両肩にのしかかっていた。別に嫌だ、という感情が芽生えているわけではない。ただ単純に、他人と行動を共にすることに幾ばくかの抵抗があるという話だった。
「――――」
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