そのあり方
気まずい空気に、さすがの舞奈も冷や汗をかいていた。それになにかしらフォローの言葉を間六彦が考えていると、柚恵が目を伏せて舞奈の肩に手を乗せた。
「まいにゃあ」
「な、なに?」
「ごめんね?」
「え……って、それって?」
「でも、空気も読んでね?」
「え? へ? え? えぇぇエえ!?」
捲くし立てられ、舞奈は目を白黒させ、ヘタレゆえに次の行動を決めかねているようだった。それを見つめ、間六彦は自分の質問が返答される可能性を、諦めた。
どのみち、詮無きことだった。
その後走って弥生に追いつき、四人揃って酒田じいさんの家へ向かった。その途中で間六彦は、さとうきびを保存しておくサイロという倉庫に案内してもらったり、サトウキビを実際に齧らせてもらってその甘さを体験させてもらったりした。ようやくまともな観光案内らしい内容に、素直に感動していた。
夕暮れ前頃に、一行は酒田じいさんの家に到着した。
「……おぉ?」
間六彦はそこで、感嘆の声をあげた。それはいわゆる漫画やドラマでしか見ることがなかった、伝統的な日本家屋だった。庭は広く、バスケットコートが設置できそうなくらいだ。
そこに、まるで南国を思わせる高く、目にも鮮やかな植物たちが軒を連ねていた。バナナにパパイヤ、パイナップルなど。それは日本であることを忘れそうな、壮観とした光景だった。
「すごいな、これは……と?」
視線を奥へと向けると、キッチンでは弥生と柚恵が酒田じいさんに手ほどきを受けながら、紅芋を調理していた。慌ててそちらへ向かう。
「すまんな、手伝おう」
「あ、だいじょーぶだからー」「ろっくんはぁ、ゆっくりしててぇ」
「そ、そうか?」
お言葉に甘え、軒先で待つことにした。紅芋など食べたことが無かったので、興味は尽きなかった。
「……ふゅう」
隣で、景気の悪そうな吐息を聞いた。
視線を送ると、舞奈が膝を抱えて、へこんでいた。
「……だいじょうぶか、お前?」
さすがに不憫になり、声を掛けておいた。
「…………」
まるで石造の如く、微動だにしない。間六彦はコンタクトを諦め、改めて視線を前に戻した。庭の植物たちには、鮮やかな太陽色の実がたくさんなっていた。少し、小腹が減った。あまりフルーツを食べてない今日この頃、たまには食物繊維にビタミンでも――
「……気に入らない」
ボソリ、と舞奈が呟いた。唐突なソレに間六彦は微かに眉をひそめたが、気にせず果物の物色を続けた。
「あんたが、来てから!」
ズン、と足を踏み込む音。間六彦はなんとかこのまま切り抜けられないかと画策していたが、残念ながら舞奈はこちらの視線の先に回り込んできた。
ギン、と音が出る勢いで睨みつけられる。
「……なんだ?」
うんざりだった。
「あんたが来てから! ずっと! ウチは変なことになってんのよっ!」
「俺の、せいか?」
「毎回毎回っ! なんだか知らないけど怒られるし! 変な空気になるし! あと、お……怒られるしっ!」
「――それ、俺のせいか?」
「なんでなのよッ!?」
荒々しかった、激昂していた、ていうか微妙に泣いていた。この勢いには、さすがの間六彦も敵いそうになかった。とりあえず落ち着かせようと思う。
「あー、そーだなー……ちょっと俺にも、わからんなー」
「教えてよっ!」
「あー……聞こえてないなー」
「わかんないのよ……あんたとの距離感、今はハッキリいってギコチなくて微妙な感じだし、かといってあんまし近いと馴れ馴れしくてまた微妙だし……」
「あー……それに関してなら、気にしなくて構わないぞ? 俺は別に、無理に仲良くなろうという気はないし――」
「……なに、ソレ? 舞奈とか柚恵は仲良く出来て、ウチとだけはしたくないっていうの?」
「……どういう意味だ、ソレは?」
舞奈はザクっ、と地面に靴の爪先をめり込ませた。
「さっきからウチのほうが聞きたい! って言ってるでしょ? なにソレ? わざとやってんの? ウチ怒らせたいの? ていうかウチのこと嫌いなのッ!?」
「どちらでも、ない」
即答すると、舞奈は呆気に取られた顔をした。
「――どちらでも、ない?」
「その通りだ」
「そ、それって……?」
「誤解のないように言っておくが、それはお前に限っての話ではない。神ノ島も、石垣崎も、よくしてくれるのはありがたいが、しかしやはりこちらの方から積極的に懇意にしたいと思っているわけではない。有り難い学友、それ以上でも以下でもない」
初めてに近く心のうちを明かすと、舞奈は今度はマネキンのように硬直してしまった。本当に感情表現豊かで、心温まる想いだった。間六彦は再度、庭先のフルーツの種類の把握に努めだした。
10秒くらい、経ったかもしれない。
「……どうして?」
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