ほっとごーやじゅーす

 その後、秘密基地に集まろうという弥生の提案を、間六彦は丁重に断っていた。無理もない、どう考えてもさらに勧誘されることは必至だった。だが舞奈は気づかず、さらに疑問符を増やすのみだった。秘密基地に来ていいって言ってるのに、なんで遠慮するんだろう?

 というわけで集まって早々、その疑問をぶつけてみた。

「あのさぁ、柚恵?」

「ほいほぉい、なぁに?」

「あの間ってさー?」

「うんうん、気になるのぉ?」

「へ? いやまぁ気になるっちゃなるけど……なんでわかんの?」

「ん~? いやぁ、べつにぃ?」

 なぜかニコニコ、普段よりご機嫌な柚恵だった。疑問符が増えて、もう飽和状態だった。とにかくひとつでも解消しないと、煙でも吹きそうな勢いだった。

「そ、それで――」

「ほい、ルートビアでいい?」

 口に出そうとすると、横から弥生がドリンクを差し出してきた。中には黒い液体に、白い泡が浮いている。そういう弥生自身の手にも同じカップがあった。

「あ、ありがと……でも、ルートビア、ニガテ……」

「そう? サロンパス飲んでるみたいで、美味しくない?」

「……オイシクない」

 訴えても取り合ってもらえず、弥生は不思議そうな表情でゴクゴク飲んでいた。

「ぷぁ! さいこー!」

「オヤジくさ……」

 とりあえず口を付けたが、やっぱりサロンパスというか消毒液というか、そういう感じが鼻を抜けていった。そのあとの炭酸も、後味悪い。うん、ビミョー。

 見ると、柚恵もゴクゴク飲んでいた。

「柚恵……好き? コレ」

「うん、びみょ~」

 好きなの弥生だけじゃん。

 舞奈は飲むのをやめて、カップを石テーブルのうえに置き、改めて切り出した。

「……それでさ、間って、なんでウチらに遠慮してんのかな?」

 柚恵も弥生も、飲むのを止めた。

「どう、かなぁ? きっとあれってぇ、ゆえたちにっていうよりぃ――」「たぶん、色々遭ったんだよ。わたしたちに会うより、前に」

「色々って?」

 尋ねると、なぜかふたりは顔を見合わせていた。

 疑問符を増やしていると、弥生のほうが逆に訊いてきた。

「舞奈は、なんだと思ってる?」

「え……いや、ってゆうか色々あったのはみんなそうじゃない? 一応、十七年も生きてるし」

「…………柚恵、ぱーす」

「任されたしぃ」

「?」

 なにがパスでなにが任されたのかはよくわからなかったが、柚恵が答えてくれるということはわかった。顔を向ける。

「それでぇ、やよよんが言いたいのはぁ、きっと過去辛いことがあったんじゃないかなぁ? ってことだよぉ」

「? それが、なんか関係あんの?」

 またも見合わせる二人、待機するのが板についてくる。

「んー、まぁいいんじゃないかなぁ?」

「はぁ? ……じゃ、じゃあ訊きたいんだけど?」

「なにかなぁ?」

「なんで空手辞めた理由、隠すの?」

「あ、気づいてたんだぁ」

「そりゃそうよ……で、なんで?」

「それもぉ、辛いことが関係してるんじゃないかなぁ?」

「え、そうなの? じゃあじゃあ、あいつなんで独りでご飯食べてんの?」

「そ・れ・もぉ、辛いことが関係してるんじゃないかなぁ?」

「じゃあ辛いことがわかんなきゃなんにもわかんないじゃないっ!」

「そうだよぉ?」

「気づいてなかったのは、舞奈だけー」

 ケラケラ笑って、弥生はルートビアを飲み干していた。続いてちんすこうに手を付ける。それをブスッと聞いて、舞奈はココア味のちんすこうを手に取った。

「……そうなの? だったら二人とも、教えてくれればよかったんじゃん」

「気づいてなかったとは知らなかったのー。てゆーか子どもだねぇ舞奈は、なんてゆーかうらやましー」

「? なんで羨ましいの?」

 間六彦が現れてから、ふたりはよくわからないことばかり話すようになった。正直結構、面白くない。だからちんすこうココア味をふたつ、一気に食べた。

 詰まった。

「ん? んぐ、ぐ、ぐぅ~……!」

「はい、まいにゃあ」

 柚恵からのカップを受け取り、一気に煽る。この際ニガテとか言ってられない。

 全身、痙攣した。

「ッ――――――――つ、なにこれホット……なにあつにが――――――――っ!!」

「ホットゴーヤジュースだよぉ?」

「酷過ぎ最近みんな酷すぎ――――――――っ!」

「健康にいいんだよぉ?」

「そういう問題じゃな――――――――いっ!!」

「今日も、舞奈は、ムダにげんきー」

 とか歌いながら、グレープフルーツ姫はお茶請けを全部平らげてしまっていた、しょっく。

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