インターセプトにインターセプト
「――そうだな、幼少の折りにな。確かこの件は話したと思うが?」
「うん、聞いたけど……なんで、辞めちゃったの?」
「それは――」
間六彦にしては珍しく黙り込み、俯く。それに従い他の二人も、雰囲気が重くなる。
あれ、ウチなんか空気読めてない?
「や、いや……その、別に話し辛いことなら無理にとは言わないわよ? よ、よくよく考えればそんなに知りたいわけでも――」
「ちなみに手那鞠は、なんで唐手道を始めたんだ?」
お鉢が回ってきて、舞奈はわかりやすく舞い上がる。
「う、ウチ? ウチはその、お、親に子供のころから習わされてたから仕方なく、ね? べ、別にやりたくてやってるわけじゃないんだけどね!」
「それにしてはなかなか見事な動きだったな」
「そ、そう? ウチなんて全然まだまだだけど、あ、ありがとねっ!」
このチャンスに空気を変えようと、舞奈はとにかく捲くし立てた。それに間六彦、そして柚恵は生暖かい視線で見守っていた。合ってんのかな? と不安になっていると弥生が頭に手を乗せ、
「んっふっふー、舞奈はかーいーねー」
「あー! うるさいうるさいやめてやめてやめてウチはこんなんじゃない――――っ!」
それに柚恵も加わり、
「かぁい~かぁい~」
「わ――――――――っ!」
しっちゃかめっちゃか、なにがなんだかだった。それを間六彦は静かな笑顔で見つめ、そしてフッと視線を外した。わっちゃかわっちゃかされながら、それを舞奈は視線の隅で気づいていた。
一線を引かれている、と感じた。
「……あのさ、」
意図せず、だからか舞奈は呟いていた。
「ウチらが……怖いの?」
間六彦の目が、点になっていた。
「こわ、い――だと? この、俺が?」
「あ、うん、そう思ったんだけど……てか、この俺って?」
ポカン、と舞奈は尋ねた。意味がわからなかった。この俺って、ナニガ?
するとなぜか、二人の友達が笑い始めていた。
「くす、くすくすくす……!」「アッハハハー、さすがは舞奈ーハンパなーい」
「……なにが?」
言われても、身に覚えが無かった。アレだろうか、褒められているようでいつものようにバカにされてるのか? しかしわからないのに怒るのもそれはそれでおかしいし――
考えていると、間六彦だった。
「……いや、すまん」
なぜか口元を手で隠していた。いや、なぜかなんて付ける必要もないか。
理由を見つけて、舞奈はドヤ顔だった。
「……馬鹿にしてるよね? ウチのこと? なに? ウチのなにを馬鹿にしてんの?」
「いや、バカには――」
「ウソツキ」
弥生顔負けにニンマリ笑って、舞奈は間六彦の手を、どけた。
口元は、笑っていなかった。
というか呆気に取られたように開かれ、なぜか頬が、真っ赤だった。
どゆこと?
「スマン、修行不足だ……そうだな、ああ、この俺だなんて、不遜もいい所だな……まったくだ、感服する、感謝する、目を、覚まさせてくれて」
深々と、頭を下げられてしまった。舞奈はただただ、疑問符でいっぱいだった。意味不明もここまで極まれると、もう、なんていうか――
「あ……う、うん? ウチに掛かれば、こんなもん、よ? 参った、か?」
「ああ、参った」
どんな過程を辿ろうとも、最終的に褒められれば結局舞奈は気分が良くなってしまうタイプだった。
「そうかそうか参ったか……だったらその、部活どうすんの?」
「それは――」
「オキケンっ!」
弥生、見事なインターセプトだった。どう考えても唐手道部にいきそうな流れに、見事に割って入っていた。舞奈は一瞬呆気にとられ、
「……って、いきなりなに言ってんのよ弥生!?」
「オキケンオキケンオキケンオキケンっ! いいよーオキケン県外から来た人に超おススメ唐手も勿論研究内容に含まれてるからいっそ唐手道部に入るより詳しくなれるかもっ!」「そ、そんなわけないでしょ? ていうかなによ強引で、ていうか普段からワガママで、もう付き合いきれない、弥生ってサイッテ――」「……なに?」「ご、ごめ~ん……」
「どうするのぉ、ろっくん?」
ふたりで漫才してる間に、柚恵がインターセプト掛けてきていた。インターセプト、というか抜け駆け祭りだった。
間六彦は、視線を向けた。
「……とりあえず、保留にさせてもらえるか?」
「じゃあゆえと同じぃ、帰宅部だねぇ」
「え?」「ハレ?」
結局冷静な人間が漁夫の利を取る。
間六彦は、ただただ苦笑いするしかなかった。
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