琉球唐手道部

 舞奈は部活の時間ということで、一旦離脱した。代わりに柚恵が帰宅部ということで、他の部活動紹介を買って出てくれた。おなじみの野球、サッカー、バスケットに、美術、吹奏楽、文芸部のほかに、水球や、三線(さんしん)という三味線に似た伝統楽器を扱うものや、爬竜(ハーリー)という伝統漁船を使ったレースなど、沖縄独特のものも見て取れて、間六彦は興味深い時間を過ごすことが出来た。元来部活動紹介とは、こういうモノのはずだ。

 そして最後に、舞奈が所属する部活動を見に行くことになった。

「――セィ!」

 鋭く踏み込み、握りしめた拳を突き出す。その身に纏うは白装束にして、その腰には黒い帯。

「まいにゃあ、来たよぉ?」

 柚恵がいつもの感じでフワフワと、手を振る。それに舞奈もいつものよう――には、振り返らない。真剣な目つきで、さらに一歩を踏み出し、今度は脚を高く、蹴り上げる。

 その姿を、六彦は腕を組み、厳しい瞳で見つめていた。

「……空手部、か?」

 場所は武道館。建物は造詣深く、左手には神棚、奥には掛け軸まで垂れている。流石に伝統の重みを感じさせる内装だった。

「琉球唐手道部」

 どこか呆けたような様子で、弥生が呟く。言葉に、あまりに力が入っていなかったので、一瞬だれが喋ったのかわからないくらいだった。

 視線を向けると、尋常じゃない瞳だった。

「……神ノ島?」

「――琉球唐手道と内地の空手との違いは、やっぱりルールによる間合いの違いよね。内地の、特に有名な極真空手なんかはフルコンタクト制を採用してるから間合いが近くて、蹴りも上中下に多彩だわ。対して琉球唐手道は遠い間合いからの跳び込みによる、顔面への上段突きにほぼ限られる。それは技の判定が相討ちを……」

 延々と考察を続けていた。どうやらオキケンは伊達や酔狂の部活動ではないらしい。改めて弥生を見直して視線を移すと、舞奈もまた、まばたきもしない真剣さで部活動を続けていた。それを柚恵が、微笑ましく見守っていた。

 知らず間六彦は、ギュウ、と拳を握り締めていた。

「ハッ!」

 舞奈が後ろ回し蹴りからの、華麗な中段突きを決めていた。なかなかに流麗な型だ。こちらも長年続けてきたであろう鍛錬の日々を思わせるものだった。

 だが残念ながら、そこに力強さが足りてはいなかった。

 くるり、と背を向ける。

 柚恵がソレに気づく。

「? どうしたのぉ、ろっくん?」

「いや、一通り部活動も案内してもらったわけだしな。一旦教室に戻ろうかと思ってな」

「そうだねぇ、じゃあ行こうかぁ? またねぇ、まいにゃあっ」

「セイッ!!」

 返事代わりのように、舞奈は鋭い呼気を吐いた。それに弥生もブンブン手を振って見送り、三人は教室に向かった。


 部活動を終え、舞奈は教室に急いだ。少し長引いてしまい、時刻は6時を過ぎていた。パタパタと駆けて、教室の扉を開く。

「ごめん、待った?」

「いや?」「まったくー?」「ぜんっぜんだよぉ?」

 予期しない、というか気遣いというより関心の無さそうな返事に、舞奈は面食らう。ていうか実際みんな教室の中央で固まり、寄り添い、こっちを見てもいないし。

 舞奈はへらっ、と相好を崩す。

「や……やだなぁみんな、そんな、照れなくてもいいんだよ?」

『…………』

 今度は返事さえせず、舞奈に聞こえない程度の声で雑談を続けている。

「あ、あのぉ……?」

『――――』

「え、えへへ……」

「だからこれがこうだからさー……」「しかし、そうは言うが……」「だってぇ、やよよんはぁ……」

「無視しないでっ!!!」

 悲痛な叫びだった。

「そ、それで……ひっく、どの部活にするか、とかぅっく……決まった、の?」

「おぉ、よしよし。まいにゃあは本当ガラスのはぁとさんだねぇ?」

「も、もういいわよ、それで……ぐす」

「――――」

 舞奈が人目も憚らず泣き腫らす中、間六彦は難しい表情で腕を組んでいた。その隣で弥生が秘蔵の沖縄大百科事典全編カラー写真での解説付きを読んでいる。なるほど、さっきまで熱心にしていたのはオキケンの勧誘か。

「……いや、悩んでいる最中でな」

「いっそゆえとぉ、帰宅部になるぅ?」

 柚恵まである意味勧誘を始めていた。こうなると、自分だけ仲間ハズレな気分に舞奈は焦りを感じる。

「それもアリかもしれな――」

「間は、内地で空手やってたんだよね?」

 シン、と静まり返るみんな。え、なに? みんなじっ、とこちらを見つめている。なに、ウチまたなにか間違っちゃった?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る